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…8。




じわりとまた滲んできた涙もそのままにキッとにらみ続けていると、心なしか眉を下げた朝比奈がそっと手を伸ばしてきた。


「触るな。」
「っ、」



今度こそはっきりと拒絶を表して手を払うと、威嚇する猫みたいに背中の毛を逆立てる。
…生えてないけど。

そんな俺に朝比奈は、一瞬息をのんで傷付いたような表情をしたが気付かないふりをして…。


だって俺の方が絶対傷ついた。


そもそも好き同士じゃない人とそういう事をしたいなんてこれっぽっちも思わない俺が、たった三回会っただけの、しかも同性にキスされて喜ぶかっての!


大人なんて流す事も教師として許す事も、頭に血の上った今の俺にはとうてい無理な事で。
そんな中途半端な自分が正直嫌で。

胸の中がぐちゃぐちゃで、段々何にこんなに苛立っているのかもわからなくなって混乱していた俺は、もう自分でもどうしようも出来なくなっていたと思う。


…嫌だ。
こんな自分が、凄く嫌いだ。



「……悪かったよ。」



グルグルと渦巻く感情に無意識に自分の殻に閉じこもりそうになる中、ぽつりと聞こえてきた言葉に驚いて小さな声をこぼした。



「……ぇ…?」



だって予想外だったんだ。
あんな意地の悪い嫌がらせをする奴が謝るとか予想外以外のなにものでもないだろ?


呆けたまま聞き返すと、



「だから、…悪かった。」



頭を下げたりとかしたわけじゃない。じっと俺を見つめたまま目の前で俺に謝る朝比奈は、それでもあからさまに落ち込んでるのがわかった。






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あきゅろす。
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