…23。
「たかがキスくらいでなんだ。俺ともしてんだろ?」
「それは!」
…した。したけどさ!
「俺が初めてってわけじゃないだろ?」
「もしかして童貞?」なんてクスリと笑われて、なんかもう血管切れそうです。ブチブチっと。
こめかみ辺りをピクピクさせながら怒鳴ってしまった俺は、多分冷静さに欠けていたんだ。
「違います!童貞じゃないし、ちゃんとキスも済ませてます!馬鹿にしないでください!」
「じゃあいいじゃん。」
…本当、コイツは!
「良くない!だって、あんな人前で!しかもディープんっ…!」
……あれ?
何これ、デジャヴ?
言い切る前に唇にあたったのはふにょっとした感触。
唇を割って侵入してきたのは、……舌?
「!?なっ、…んぁ、」
くちゅりと音をたてながら口内をなぶるのは無限の舌で、何が何だかよく分からないまま、茄子がママならキュウリがパパ!
うわっ、俺スッゴい混乱してる。
突き放す事も忘れて、ただ無限からのキスを受けていた俺は、ぶっちゃけ頭が真っ白です。
「……はい、上書き完了。忘れただろ?」
混乱していた所為でよく分からなかったが、結構長かったと思う。
「…翔汰せんせ?」
離れた後もしばらくぼんやりとしていた俺に目の前でパタパタと手を振ってみせる無限は、「おーい。生きてるかー?」なんて無責任な事を言っている気がする。
「翔汰せんせ、戻って来いって!…あんまり固まってるともう一回するぞ?」
“もう一回”にビクリと肩を揺らして我に返った俺は、驚いて無限を見た後ぶわりと一気に涙が溢れてしまった。
「なっ!?何泣いて…」
「〜〜っ!馬鹿!!」
いきなり泣き出した俺に驚いた無限を持っていたファイルで思いっきり叩くと、
「ばかばかばか!無限のばーか!この、たれ目ワカメ!!」
「たれ目って…」
そのままファイルを投げつけて脱兎の如く逃げ出した俺は、馬鹿はどっちだ、と思うくらいにガキっぽい捨て台詞に無限がどんな顔をしていたのかわからない。
むしろ怖くて見れなかったと言った方が正しいかもしれない。
泣きながら逃げ込んだ生物準備室にそもそもの原因が来る予定だった事などすっかり忘れてて…。
とにかくその時の俺は、大人とか男とかそんなものを全部投げ捨てて馬鹿みたいに泣きじゃくったんだ。
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