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…19。





「……」



廊下を歩くスピードがだんだんと早くなり、本当ならこのままD組に行かなきゃなのにどうしても教室に入りたくなかった。

強く強く唇を噛んで、刺さった犬歯が僅かに血を滲ませる。



…気持ち悪い。


ありありと思い出せる口内を這う舌の感触。
気持ち良かったとは思う。
でも、気持ち悪かった。


初キスが元カノの俺は、これでキスは三人目だ。
勿論ディープなんて元カノとしかない。



どのクラスも帰りのHRを始まっているのか、誰もいない廊下はしんとしていて、とてつもなく心細くなって小走りで水道に向かった。




ガラガラガラ、ぺっ。



いっぱいに捻った蛇口から流れ出る水で何度も何度もうがいを繰り返し、それでも消えない感触にじわりと涙が滲んでいく。


…ヤバい、もう駄目だ。



ポタポタと零れた落ちる涙に目を瞑り、泣くな!泣くな!と自分を叱りつけた。



…泣いたってどうにもならないのは知っているだろ?
過ぎた事は過ぎた事。
切り替えろよ俺。
たかがキスだろ。
ちょっと舐められただけだろ。

別に好きなヤツとしかしないなんて守ってたわけでもない。


どちらかと言えば、自分の思い通りに授業を進められなかった不甲斐なさの方が悔しかった筈だ。

ちゃんと忠告されていた筈なのに“そういう状況”に陥って、まんまとナメられる状況を作ってしまった自分が恥ずかしい。



実際キスなんて、すでに無限にされてんだ。今更誰としようがそう変わらないだろ?

…そうだよ、無限のと変わんないじゃん…。



ジクジクと胸の辺りが痛み出して、何故か余計に涙が溢れた。


…なんで泣いてんの?俺。






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