…11。
「う、え?…マジで?」
社員証の写真はまだ黒髪でオールバックだったけど、顔はおんなじだ。疑う余地もない。
「一年じゃなくてゴメンネ。」
嫌みったらしく言ってやると、明らかに動揺した朝比奈がボソボソと何か呟いている。
「…詐欺だ。童顔過ぎる。」
…うっさい黙れ!
悪かったな!童顔で!
思わずムッとして朝比奈を睨んだが、どうやら自分が地雷を踏んでいることに気付いていないみたいだ。
「どう見たって年下だろ。」
溜め息混じりに、更に失礼な言葉を繰り返した朝比奈が悪いと思う。
「火曜日も掃除よろしく。」
「!?」
うん。
俺ちょっと図太くなってきたかも。
「ふざけんな!嫌に決まってんだろ!」
「駄目です。火曜も掃除!」
「月曜はわかるけど、たかが“童顔”って言っただけだろ?」
「また言った…。」
なんだよ、ちゃんと“童顔”が地雷だってわかってんじゃん。
「うっせ。つーか、強姦未遂と童顔が同じ罰とかおかしいだろ?」
「……朝比奈、水曜も…掃除。」
「はぁ!!?なんだそれ!いい加減にしろよ、チビ!」
「来週、一週間よろしく。」
「!!!??」
最後の方は売り言葉に買い言葉と言いましょうか。
頭に血が上っていた事は素直に認めよう。
「誰が行くか!」
の捨て台詞を吐き捨てて去っていく後ろ姿を見送った後、俺はその場にしゃがみ込んだ。
「っ……はぁぁぁぁ…」
緊張で力の入っていた体から力を抜き、限界まで息を吐ききって。
止まらない手の震えに拳を作ると、実はずっと震えていた事に気付かれなくて良かったと息を吐いた。
…怖かった。
うん。流石にこれは怖かった。
最後までされなかったものの、強姦未遂はトラウマになりそうだ。
「…予行練習、か。」
またこんな事があるんだろうか。
呟くと、うっすらと浮かんでくる涙に、
…これはメールに出来ないな。
と、美奈ちゃんには秘密にする事を固く心に決めてキツく目蓋を閉じたんだ。
それからしばらくの間、俺はその場を動けなかった。
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