…34。
「こんな事、俺が言うのもあれだけど…気を付けて。」
「…ありがとう。」
…一年生か。
昨日の事を思い出して身震いした。
確かに、襲われたのは恐かった。
力では抗えない恐怖があった。
けど、あの一年生の目。
何をしでかすかわからない。
目的の為には多少の犠牲は厭わない。
そんな目。
映し出されていたのは俺に対する嫉妬だった。
自分のものだ!と主張したそれも、若さゆえのものかもしれない。
大概の大人は嫉妬心を表に出さないように押し込めるから。
純粋な気持ちほど、強く儚く恐ろしいものはない。
今回の犠牲はあの不良くん達だったけど、朝比奈が来なかったら確実に俺だったんだ。
ただちょっと運が良かっただけで。
「…また、か…」
ポツリと呟くと、そっと俺の手が温もりに包まれた。
「?」
驚いて手を見ると、朝比奈の大きな手が繋がれてて、
「…守ってやるよ。」
「……」
「俺が、守ってやるから…」
視線を合わさず、まっすぐ前を見据えたまま紡がれた言葉に、俺はなんて返せばいい?
さっきまでの不安がなりを潜め、心が温かさで満たされる錯覚を感じながら、しかしそれに応える事も誤魔化す事も、拒絶する事すら出来ない俺は、ただ沈黙を紡ぐ事しか出来ない。
ごめんね朝比奈。
俺は察してなんてやらないよ。
どんなにぶつけられても無言の内は答えてやらない。
例え言葉をぶつけられても、応える事は出来ないけど…。
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