『オレ×オレ』 …19。 髪をなで、 頬を触り、 唇に触れた。 夢の中で、遊佐とキスした。 昔の記憶と、今の妄想…。 いっそ、現実にしてやろうか? そっと顔を近付けると、 遊佐が何か寝言を言っていた。 「…。……?」 小さい、微かな声。 「…ん?何?」 小さすぎて聞こえない。 さらに顔を近付けると、今度はハッキリと聞こえた。 「…好きだ…」 え? いきなり俺の手首を掴むと、息が出来ないくらい強く抱きしめられた。 「苦しっ…」 遊佐は誰かと間違えているんだろうか。 俺じゃない、誰か。 苦しいのは、きっと抱き締められたからじゃない。 それが、俺じゃないからだ。 それが、悲しかった。 遊佐は、しばらく俺を抱き締め、 俺は、それに従っていた。 どんな夢見てんだよ…。 遊佐の、鼓動を感じる。 俺を“他の誰か”と間違えるなんて… 失礼な奴だ。 涙が出てきた。 あの時と同じ涙。 遊佐が好きだと気付いた涙。 遊佐を好きなんだと思い知った涙…。 いくら外見が変わっても、中身は全然変わってないな。俺。 腕が、ゆっくりと緩んだ。 それでも、離れたくなかった。 …せめて、この涙が乾くまで。 俺を恋人にしとけよ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |