『花束を君に』 5*4 「……そんな事を言う為に、わざわざ追いかけて来たのか?」 冷たい雨の中で落とされた言葉は意外に温さを含んでいた。 「…知ってたよ。」 「え?」 思わず顔を上げたが、傘に隠れて顔が見えない。 「後をつけていたのも、嘘をついていたのも。全部分かってた。」 !! それじゃ… 「完全に諦めさせようと思ったんだ。なかなか吹っ切れない様だったからね。 結婚している事が分かれば、諦めもつくだろう?」 僅かに見えた深田さんの口元が自嘲気味な笑みを浮かべていた。 「俺は君が思っている様な、優しい人間じゃないよ…」 呟くと傘を私に掴ませて、そのまま歩き出した。 そんな事ない! 喉まで出かかった言葉が、嗚咽で邪魔された。 深田さんはこんなに優しいじゃないか。 絆創膏をくれたり、こうやって傘を貸してくれたり…。 激しくなっていく雨の中。 深田さんの傘の中でただ泣き続けるしか出来なかった…。 6章へ [*前へ] [戻る] |