『花束を君に』
4*4
「大丈夫か?」
深田さんの声に我に返った。
一瞬自分に言われたかと思った。
壁越しの、すぐ横にいる。
「大丈夫。今日は気分がいいのよ?」
…兄妹?
そんな感じではない。
これは、もう…。
「この本。面白かったわ。」
「ああ。図書館で薦められたんだ。」
水道を捻る音がした。
たぶん花瓶に花を生けているのだろう。
「女の人に?」
「…どうして?」
「うーん。…勘?」
「心配しなくても浮気なんかしないよ。」
「ふふ。そんな甲斐ない事ぐらい知ってるわ。」
…奥さんなんだ。
そうだよね。奥さんや子供がいてもおかしくない年齢だ。
“好意を受け取れない”と言った時の、深田さんを思い出していた。
当たり前だよ。
完全に私の独り善がりだ。
そっと壁に触れて、背を向けた。
大丈夫。
もう、諦めるから。
ゆっくりと部屋から離れる後ろ姿を、
深田さんが見ていた事に気付かなかった…。
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