『花束を君に』 6*2 留守録テープの音声は深田さんだった。 十日ぶりに聞いた深田さんの声。 「私、まだ深田さんが好きなんだ…。」 声にならない声で呟くと、 「はは。しつこ過ぎる…」 笑ってみた。 翌日、深田さんが本を持ってきた。 キッチリ15分前。 すぐに持ってくる所も、やっぱり15分前の所も、深田さんらしいと思った。 「返却が遅れてすみませんでした…。」 テープとは違う生の声に、胸が締め付けられた。 「大丈夫ですよ?ご返却ありがとうございます。」 「……」 ちゃんといつも通りに言えているだろうか。 あの雨の日から、会うのは始めてだ。 久しぶりに見た深田さんは少しやつれた印象だった。 「本日は、本の方はどういたしますか?」 深田さんは少し悩むと、 「…借りて行ってもいいですか?」 と聞いてきた。 それはつまり、また来てくれるという事…。 たぶん、これっきりだろうと覚悟していただけに、その言葉は嬉しかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |