『花束を君に』 5*3 「発見が遅れてね…。 見付けた時は手遅れだったらしい。」 …じゃあ、あそこは? 「末期患者の病棟だよ。」 ああ。私はなんて事を言ったんだろう。 知らなかったとはいえ、深田さんに嘘をついた。 優しい人だ。きっと、同じ想いをしていると考えたのだろう。 絶対についてはいけない嘘だった。 「深田さん!!」 いてもたってもいられなくなって、外へ飛び出した。 ただ謝りたかった。 「深田さん!深田さん!!」雨の中追いかけると、深田さんは驚いた顔で立ち止まり、傘を差し出してくれた。 「ごめんなさい!!」 深々と下げられた頭が何を指しているのか、たぶん分からないだろう。 「…本当は花屋で深田さんを見付けて…つけて行ったんです。」 「……」 「知り合いが病気だなんて、嘘をついてすみませんでした…。」 私は頭を下げたまま、重くのし掛かる沈黙を感じた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |