『花束を君に』
4*3
どのくらい歩いただろう。
深田さんは振り返る事なくどんどん歩いて行く。
ここは一本道。
この先にあるのは一つだけだ。
夜間休日用の入口を入ると迷わず階段を昇って行った。
消毒の様な独特の匂い…
深田さんが入って行ったそこは、病院の一室だった。
『深田香苗』
名前からみて家族なんだろうな…。
ここにいちゃ駄目だ。
立ち去ろうとした時、女の人の声がした。
「…来てくれたの?」
「ああ。」
若い、女の人。
ドア越しなので姿は見えないが、私より少し上といったところか。声が落ち着いている。
「カスミ草。買ってきたよ。…好きだろう?」
「わぁ。綺麗!ありがとう。」
私が聞いた事のない優しい声。
家族と比べるのは間違っていると分かっていたが、取り残されているみたいで寂しかった。
フられたのに、私っていつまでもしつこ過ぎる。
頭では分かっているのに、どうして私はここにいるの?
自問自答を繰り返しては、自分の愚かさが辛かった。
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