『君と繋いだ手』
*16
「…何か嬉しそうだな。いい事でもあった?」
昨日の静を思い出して、いつの間にか笑っていたらしい俺に、自転車でやってきた勇気が話しかけてきた。
「…別に?」
にやけた顔をすぐに戻して、澄まし顔で答えたが、
「お前、寒そうだな!
コートは?マフラーは?」
…俺の答えは完全スルーだし。
「…マフラーなくした。」
どこでなくしたのか全然覚えてなかったが、いつの間にかない。
…コートは、もう着ない事にしていた。
「手袋は?」
「手袋はしてるよ。」
ポケットに入れていた手にはしっかりと手袋がはめられている。
隣を歩く勇気は、コートにマフラー、手袋と完全装備で温かそうだ。
『一つよこせ』
なんて言ってマフラーでも奪い取ろうと思ったが、
「マフラー貸してやろうか?」
「……」
言う前に言われると、正直面白くない。
…本当、彼女出来てから変わったよな。
気が利くというかなんというか。
少し大人びた感じがムカつく。
「いや、いい…」
「貸さないよーん!」
断ろうとした瞬間にわざとかぶせてきた勇気は、挙げ句の果てに『バーカ』の捨て台詞までキッチリ残して走って行く。
「いらねぇよ、お前のマフラーなんか!」
後ろ姿に舌を出して見送ると、
…忙しい奴だ。
またすぐに自転車を止め誰かに話し掛けている。
どうやら彼女でも見付けたらしい。
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