『君と繋いだ手』
*8
「え?…付き合ってるんじゃないの?」
「…んー。」
曖昧に言葉を濁したが、そう簡単には弘史の興味をそぐ事は出来なかったようだ。
付き合うふりが始まってから、既に1ヶ月が過ぎていた。
毎日一緒に下校していれば、いくら影の薄い俺でもそんな噂が広まるのは当たり前で、いつかは幼なじみの耳に届くだろうと思っていたが、正直結構もった方だと思う。
「…で、付き合う“ふり”にしちゃったわけ。」
「……。」
「馬っ……鹿だなぁ。」
…そんな事、言われなくてもわかってるよ。
言葉にする代わりに眉をひそめたが、そのくらい言われる予測はしていた。
「…あのさ。」
「ん?」
そして、これは弘史にしか頼めない事。
「二人には黙っててくれないか?」
「……。
いいけどさ、付き合ってるのはバレてると思うよ?」
「いや、そっちじゃなくて…」
「あー、偽カップルのほうね。」
二人とはもちろん勇気と氷吾で、
理由は、勇気は顔に出るからで、氷吾にはなんとなく弱みを見せたくないからだ。
その事を気付いているらしい弘史は、
「別にいいよ。」
と快諾してくれた。
…こういう時、弘史と友達で本当に良かったと思う。
勇気なら絶対黙ってなんかいられないし、氷吾なら散々ダメ出しした後にお節介をやくだろう。
佑夏の事は好きだけど…
「…後悔してるなら、ちゃんと好きって言ったら?」
弘史が心配そうに俺を見ていた。
「っ、」
…分かってる、分かってるよ。
けど、
「…出来るなら、してるよ。」
今にも泣き出しそうな顔を見られないように部屋を出た。
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