『君と繋いだ手』
*6
最初はちょっと、様子を見るだけだった。
放課後とか、休み時間とか、下の階にある教室を通りすがりに覗くだけ。
…まただ。
佑夏にちょっかいを出しているのを見付けると、わざわざ視界に入る場所に移動する俺は、自分でも相当たちが悪いって分かってる。
もちろん、
それに気付いたいじめっ子は、“見張られてる”って嫌でも思う筈で、
案の定、次第に佑夏へのちょっかいは無くなっていった。
「…拓己ってさ、最近休み時間になるとどっか行くよな。」
勇気の唐突過ぎる言葉に心臓を揺らすと、それを悟られないように勇気を見た。
不思議そうな顔の勇気は、もちろん俺が自分の妹を覗きに行ってるなんて知らなくて、
「そう?」
いつも通りに応えた俺の顔をジッと見つめている。
「わかった!女だ!」
「!」
勇気の言葉にノリノリで割り込んできた氷吾に不意をつかれ、思わず下を向くと、
「あれ?あれれ?本当に女?」
嬉しそうに覗き込んでくる二人に、心の中で舌打ちした。
恋愛じゃないけど、女は当たってる。
…きっとバレた。
ある事ない事吹聴されそうで、反応してしまった事を後悔していると、
じぃ。
「………何?」
いつまでも覗き込んでいる二人に言った。
「当たってんの?当たってないの?」
「さぁ、わっかんねえ。」
「……」
この日程、無表情な自分を喜んだ日はない。
…何とか乗り切った。
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、
「氷吾、当たってたね。」
隣に座る弘史の声に、動きを止めた。
「…当たってないよ。」
「そう?」
まさか、弘史が氷吾みたいな事を言うとは思わなかった。
しかも、すでに断定しているかの物言いに、ちょっとだけ眉をひそめると、
「当たってるよ。僕は拓己の表情読めるもん。」
「……」
にっこりと微笑む顔は、実は油断ならないってちゃんと知っている。
「でも、そんな気になるって好きだからじゃないの?」
「……」
好き?
俺が、佑夏を?
「そんな事…、」
にこにこと笑う弘史を見て、目を逸らす。
「…あるのかな?」
「あるんじゃない?」
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