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『朱色の花が咲く時』
『恋人はサンタクロース?』



クリスマスといえば、聖誕祭。
キリスト教の大イベントだ。


だけどそんな事は関係なく、日本は勝手にお祭りとして楽しんでいる。



…まったくけしからん!


白い髭の隙間からもれる息がやけに白く見える。
赤い服に赤い帽子。
黒いブーツがなんともオシャレな、
たぶん今日は、日本人のほぼ全ての人が見たのではないかという衣装に身を包んだ俺は、衣装に合わせた口調で悪態をついた。


職業、サンタクロース。


…又の名を、
“ケーキの店外販売員(臨時)”だ。




…おかしい。
実におかしい!


何故かカップルばかりが行き交う通りを睨み付けながら考えた。



今日は彼女との初めてのクリスマスイブだった筈だ。
それなのに俺はこんなところでこんな格好をして自分の大好物を売りさばいている。



ハッ!
…もしや、今までの彼女との思い出は全部妄想?


本当は彼女なんかいなくて、今年も変わらずに寂しいクリスマスイブで…!



寒い中一人でカップルだらけのところにいると、たまに毒にあたって仕方ない。


時折近付いてくる客達も、この背の高い奇妙な百面相を不審がって離れていく。



そもそも、俺のバイトは昨日だけだった筈!

なのに今ここに自分がいるのは、この問題ある性格の所為だ。


…どうして!
どうして断れないんだ、自分!


大切な恋人をないがしろにしてどうする。
元々はその恋人の為に始めたバイトだったのに…。


クリスマスプレゼントを買う為のバイトが二人の仲を引き裂く事になるとは、
クリスマス…なんて恐ろしいイベントなんだ!


すっかり悲観的になっていた。



「すみません。ケーキ一つ…」
「あ、はい!」


まぁ、そんな自分には関係なく時間は虚しく過ぎて行くんだが…。

とりあえず、今ここに残っているケーキを売り尽くせばバイトは終了!

…やるんだ。やるしかない!


気のせいか眼鏡の縁が光る。
その下の眼光も鋭く光り輝いた。





「……」

少しだけ出た鼻が冷える。



時刻はそろそろ七時を過ぎる頃で、それこそ人通りに反比例してケーキを買う人は少なくなっている。


まぁ、この時間になるとケーキは買うよりディナーで済ますだろう。

…あと、五個なのに。



終わったら連絡すると約束した彼女は、本当に俺からの連絡を待っていてくれているんだろうか。

不安過ぎて仕方ない。


「…ケーキを」
「はいっ!」

ちょっとくたびれた背広姿のサラリーマンが声をかけてきた。
「いやぁ、残ってて良かったよ。」

嬉しそうに片手に持った袋は近くのオモチャ屋のもので…


「!!」

今更ながら、気が付いた。



…俺、プレゼント買ってない。

予約していたのは香水で、クリスマス限定パッケージ。前に朱音がいい香りだと言っていたものだった。


…今日取りに行く予定だったのに、どどどどうしよう!


店は何時までだ?
間に合うのか?


今すぐ取りに行きたいのは山々だが、まだケーキが四個残っている。



いくら朱音が優しいからって、ドタキャンした挙げ句にプレゼントまで忘れていたらさすがに怒るだろう。



絶望に打ちひしがれていると、

カシャ
携帯のシャッター音が聞こえてきた。


「サンタ姿がこんなに似合わない奴って久々に見た。
足、ズボン短すぎなんだけど。」


携帯のカメラ機能で笑いながら俺を撮影しているのは親友の蒼生。
同じ大学に通う蒼生は、親友であると同時に彼女の兄でもある。

イタズラ好きの悪友ではあるが、今はさながら天使のようだ。


「蒼生!グッドタイミング!」

「?」

「ちょっとだけここ頼む!」


返事も聞かずに被っていた帽子を蒼生に被せるとクリスマスプレゼントの為にショップへと走った。




サンタ姿で現れた変な男に眉を一瞬ひそめたが、そこはプロ。しっかりとした営業スマイルでショップ店員は対応してくれる。

なんとかプレゼントをゲットしてスキップもどきで蒼生の元へ戻ると、不機嫌過ぎる顔で睨まれた。


「…俺、待ち合わせしてたんだけど。」

「え?」

「遅刻なんだけど。」


相当怒っているようだ。


「ごめん…」

冷や汗をかきながら謝ると、ケーキの箱を一つ持って笑顔で言った。

「奢りね。」


…高いバイト代になってしまった。



蒼生を見送りながらケーキを見ると残りは一個しかない。

どうやらこの短時間で二個を売りさばいたらしい。


…さて、あと一個か。


帽子を被り直して通りを向き直ると、

カシャ!


やっぱり携帯を構えながらそこにいたのは朱音。


「そろそろかと思って迎えにきたよ。」


白いコートに赤いマフラー。
胸辺りまで伸びた髪を綺麗にセットした朱音が笑顔で立っていた。

「朱音!」

「ケーキ、これが最後?」


そう言ってケーキの箱を持った朱音は、
「これ下さいな?サンタさん。」


イタズラっぽくそう笑った。


…可愛い。


思わず抱き締めたくなったが、なけなしの理性でなんとか抑えこんで笑った。




さて、それではデートとしますか。


つんつるてんのサンタクロースな俺は、大好きな彼女と手を繋ぐ。


これから二人でクリスマスを祝い、二人でケーキをつつく…。

プレゼントは喜んでくれるだろうか。


隣を歩く恋人の喜ぶ顔を想像しながら、イルミネーションが輝く道をゆっくりと歩いた。



end



Merry Christmas!
present four you...☆

2008/12/21 *緒神

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