『揚羽蝶』
七/四
「好きなんだ…」
「“好き”だけじゃ、どうにも出来ない事だってあるんだよ。」
そんなの知らない…。
「私は、医学の勉強を終えたら、必ずここへ戻ってきます。
その時まで気持ちが変わらなければ。
…分かるね?」
先生は僕の腕を離すと、
「今日はこれで帰ります。
…次までに、揚羽さんとお別れしていて下さい。」
全身の力が抜けていくのを感じた。
こういう気持ちをなんていうのだろう…?
脱力感?
いや、違う。
空虚感…。
“心に穴が開く”ってこういう事だったんだ。
「…康介さん。」
誰かに呼ばれた。
…誰?
顔をあげると、そこに揚羽がいた。
「あげ、は…?」
初めて聞く、揚羽の声は澄んで優しかった。
「…話せるの?」
揚羽は小さく頷くと、優しく僕を抱き締めてくれた。
「…泣かないで?」
「無理だよ。」
揚羽。
愛しい揚羽…。
「そばにいて?」
…揚羽は、頷かなかった。
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