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『揚羽蝶』
二/一

柔らかい陽射しで目を覚ました。

「…?」

心配そうな母の顔が覗き混んでいる。

「…大丈夫?」

ぼんやりとする頭を巡らせると、昨夜の事を思い出した。

…そうだ。

横になったまま蔵の方に目線をやったが、いつもと変わりはない。


「また、発作が起きたのね?」

心配する母を無視して起き上がると、枕元に置かれた水を飲み干した。

「……。」
「…大丈夫です。」

僕は母が嫌いだ。

冷たく言い放つと、
「大丈夫なら…」
と母はそそくさと部屋を出て行った。


母は、弱い。
体じゃなくて、心が…。

何かに縋らなくては生きていけない様は醜く、不快なものだった。

心臓の悪い僕を産んだ事を父に責められ、幼い頃から異常なまでに愛情を注がれてきた。
幼い頃はそれでも良かったが、今は違う。


とうとう、息子にも愛想を尽かされると、今度は自分を慰める為に、色々な男を連れ込んでは逢瀬を繰り返している。

たまにしか帰らない父には分からなくても、僕は気付いてしまった。

汚い。

知らない間に母に触られたかと思うと吐き気がした。


遠ざかって行く足音を聞きながら、嫌悪感に頭をかきむしると溜め息を吐いた。


もっと、もっと綺麗なものを見なくては…。

このままでは、本当に心が腐ってしまいそうだ。

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