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『揚羽蝶』
一/四

鬼女―。

月明りに照らされたのは、
彼岸花の様に赤い唇。
月に反射して、眩く輝く髪。
絹の様に滑らかな手足。


しかし、その全てが傷だらけで血が滲み、髪は乱れ、泥で汚れ…。
風によって時折見せる双眸は、まるで獣の様だった。

「…っ!」

息を飲み、胸を押さえた。


それは凄い衝撃だった。


こんな体験は今までに無い。
それと同時に、凄く興奮していた。


女は、辺りを探る様に見回すと、蔵の中へ入ろうとしている。


…泥棒だろうか?

先生が言っていた。
世の中には、他人の物を盗み、それを糧にして生きる人達がいると…。

彼女がその“泥棒”なのだろうか?

そんな感じには見えなかったが…。


入ったのを見届けると、いつの間にか留めていた息を吐き出した。

体中にびっしょりと汗をかいている。

心臓が、早い。


外は何も無かったかの様に平静を取り戻している。

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