『揚羽蝶』
一/三
少し肌寒く感じて、毛布を引き寄せると肩に掛け、そのまま眠くなるまで月を眺めることにした。
…綺麗だ。
雲の隙間から見え隠れする月が、なんと美しい事だろう。
そのまま吸い込まれてしまいそうだ。
四方から聞こえてくる葉音は、風に触れる事で自分達の存在を誇示している様で、少し羨ましかった。
ガサッ
ふと、風ではない物音に気が付いた。
…何だろう。
獣でも迷い込んだのだろうか?
耳を澄まし、音の方に目線をやると、薄い月明りの下に動く人影を見付けた。
!?
ここは離れ。
この先には蔵しかないし、今は使われていない。
従って、夜中に人が来る様な場所ではない。
何より、この内庭には屋敷を通る以外に入れない筈。
ここは隙間なく森で囲まれた天然の檻だ。
動物が迷い込むことが有っても、人が誤って入り込む様にはなっていなかった。
次第にはっきりと浮び上がるそれは、人ではない、別の生き物に見えた。
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