『揚羽蝶』
六\一
この人は、私を見て“綺麗”だという。
彼の描く絵は、綺麗だった。
「紫陽花。露草。牡丹。椿…」
たくさんの花の名前を覚えた。
もし、話す事が出来たなら…。
“ありがとう”って伝えたかった。
「座って?」
窓辺に腰を下ろすと、いつもの時間が始まる。
サ…サ…サ…
鉛筆の擦る音。
心地良かった。
私の両親は、二人共日本人だった。
突然変異と言うのだろうか。
金髪に生まれた私を、両親は気味悪がった。
なんて事ない。本当は隔世遺伝で、私の先祖に外国の血の混じった人がいただけだったのだが、そんな事を知る由もない家族は、私を疎み、嫌っていた。
私を苦しませ続けた、この長い髪を、好きだと彼は言ってくれた。
「揚羽。」
何?
「これ、着てみない?」
色とりどりの着物。
こんな物。着た事などない。
首を振ると、着せてあげると言われた。
彼は優しい。
着物を着た私を見て、彼は、
「良く似合うよ。」
と笑ってくれた。
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