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『揚羽蝶』
五/四

「…最近、何か良い事でもありました?」

授業終わりの診察中に、先生が言った。

「…いえ。何も…?」


先生は、家庭教師兼、主治医で“坂本先生”と言う。
三十半ばを過ぎた恰幅の良い人で、先生の授業が大好きだった。


「ふふ。隠していても分かりますよ?脈拍が早くなってます。
…さては、迷い猫を育てているでしょう?」

…おしい。

「いえ?違います。」

クスクス笑うと、先生は
「私の勘は良く当たるのですが…」
と悪戯っぽく笑った。


先生は大好き。
でも、いくら大好きな先生にでも、揚羽の事を教えるわけにはいかない。


「このところ体調も安定しています。…良かったですね?」

「はい。」

先生は立ち上がると、
「また来週に。」
と言って帰って行った。



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あきゅろす。
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