『揚羽蝶』
五/一
それから、彼女との生活が始まった。
元々、父はほとんど家にすら寄り付かない。
母も、発作さえ起きなければ、離れまで来る事は無かった。
気を付けなくてはいけないのは、家政婦と先生だけ。
しかし、家政婦は朝昼夕の食事を持ってきて、僕専用の風呂を沸かす時だけ気を付ければ、あとは自由に動きまわる事が出来た。
先生の方は、その間隠れていてもらっていた。
彼女は、ここにいるのが知られるとまずいという事を知っていたのだろう。
大人しく隠れていてくれた。
彼女との生活は楽しかった。
始めは警戒していた彼女も、僕が絵を描くこと以外何もしない事を知ると、素直に筆写体になってくれた。
話す事は出来なかったが、僕の言葉は理解していたし、僕の話を聞いてくれた。
何日か過ごしていると、語らなくても分かった事がある。
まず、言葉は理解出来たが、字が書けない事。
傷は、体中に広がっていて、そのほとんどが人為的なものだった。
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