『揚羽蝶』 五/三 「紫陽花。…露草。…牡丹?」 「…こくん。」 「紋白蝶に、揚羽蝶…そして君?」 揚羽蝶と自分を交互に指差して何かを必死に伝え様としている。 「あげはちょ…!揚羽って名前なの?」 「…(こくん)」 頷いて、にっこり微笑んだ彼女は、本当に揚羽蝶の様に美しかった。 …いつの間にか芽生えたこの気持ちは、幻想だったのだろうか。 先生が、あの時言った言葉を、今もよく覚えている。 『君は、初めて会った“自分より弱い者”に勘違いしているだけです。 …それは、恋じゃない。 利己主義ですよ。』 利己主義…? そうだったかもしれない。 彼女は嫌がらなかったが、僕のしていた事は、君を籠に閉込めて愛でる、子供と一緒だったのかもしれない。 でも、本当愛していたよ? 僕はすっかり彼女に夢中だった。 「これ、着てみない?」 奥の箪笥から着物を取り出して来ては着せ、 彼女を着飾っては描き。 色とりどりの衣を身に包んだ彼女は、文字通り“蝶”。 いつしか、ずっと一緒にいたい。 ずっと、ここにいて欲しいと思う様になっていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |