『揚羽蝶』
二/四
布団に寝かせると、出来る範囲で手当てをした。
埃塗れの顔を拭き、手足を拭き…
やはり森を抜けて来たのであろう。
手足には無数の新しい傷があり、血が滲んでいた。
その下に同じくらいの古い傷。
もしかしたらこの怪我は日常的なモノかもしれない。
だけど、知識のない僕にはそれがどういう意味なのか分からなかった。
あらかた拭き終わり、傷口を消毒して包帯を巻いても、彼女は目覚めなかった。
余程深い眠りについているのだろう。ピクリとも動かない。
それにしても、金色の髪か…。
よくよく考えると、これは、“外国人”というものなのではないか?
もちろん見るのは初めてだ。
しかし、本の中の世界は知っている。
どうやら外国人とは、金髪に青い瞳らしい。
それじゃ、この瞼の下は、
…青?
不思議な高揚感でスケッチブックを取った。
―描かなくてはならない。
生糸の様な髪。
白い頬。赤い唇。
一つも洩らす事なく描き残さなくては!
ただ、ただ夢中で描いた。
彼女が目覚めるまで…。
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