『揚羽蝶』 二/三 ギギ… 錆付いた重い扉を開けると、普段使っていない牲で湿気がたまり、カビ臭かった。 幾重にも重なった蜘蛛の巣が、月日を表している。 …こんな所に、天使がいるのだろうか。 ふと、床を見るとたまった埃がクッキリと足跡を残していた。 …いる? もしかしたら、夢だったのではないかと思っていただけに、この証拠は嬉しかった。 息を飲み、そっと足跡が続く方へ進んで行くと、 行李の陰から白い足が飛び出しているのを見付けた。 「!」 …いた。 暗がりの中でも金色に輝く長い髪は、埃に塗れてはいたが、それでも美しかった。 …死んでる? そっと触れてみると、息はある。 軽く頬を叩いてみたが、返事は無かった。 …どうしようか。 さすがに、このまま放っておくわけには行かないだろう。 細い体を抱き起こそうとしたが、無理だった。 意識の無い人間が、こんなにも重いものだったなんて知らなかった。 体力が無いのがうらめしい。 やっとの思いで部屋まで運び込むと、それだけで汗がびっしょりだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |