『揚羽蝶』
二/二
寝間着のまま部屋を出ると、真っ直ぐに庭へと向かった。
ここは僕の庭。
僕だけの場所。
今は枯れ草に埋もれているが、季節に応じて様々な花が咲く。
縁側に腰を下ろし庭履きを引っ掛けると、誘われる様に蔵の前まで来た。
ここには、離れを通る以外に道らしい道は無い。
そして、この辺りの土地は、全て私有地だ。
簡単に入ってこれる様にはなっていない筈だった。
険しい山を登ってきたのか、
もしかしたら、空から降りてきたのかもしれない。
いつか読んだ、“聖書”の事を思い出した。
あれは、天使というものではないのか?
今となっては、隔離された世界での“無知”に笑ってしまいそうだが、その時は本当にそう思っていた。
「ふふふ。」
久しぶりに笑った。
どうやら僕は、楽しいらしい。
言い様の無い期待感と同じくらいの不安を胸に、
古びた扉に手をかけた。
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