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短篇集
『ネイル』※微GL



貴方のその、白い指が好きだった。



「ね、今日はどんなのにしてくれるの?」

放課後の教室で、いつものように彼女の右手に触れながら答えた。

「んー…どうしようかな。」


既に前のネイルは落とされ、手慣れた手付きで彼女の爪を整えながら、極力顔を見ないように言葉を落とす。

「とりあえず、ベースは春っぽくピンクがいいなぁ。」

「了解致しました、お嬢様。」

「あはっ、何それ〜?」


ケタケタと声をあげて、それでも満更でもなさそうに笑う彼女の髪が、ふわりと私の手の甲に落ちた。


「……」

胸が、キュッと苦しくなる。


思わず顔をしかめちゃったけど気付かれなかったかな?

別にそれが嫌だった訳じゃなくて…、いちいち反応してしまう自分が不快で仕方ない。

…好き。

内緒だけど、今この瞬間に死んでもいいってくらい幸せなんだ。



彼女は、熱しやすく冷めやすい。
同じグループに長く属する事が出来ないが、それでも何故か人気がある。


いつも隣に誰かがいて、それがどんなに替わっても私の番がくるなんて思ってもみなかった。


「可愛いネイルだね。自分でしたの?」
「う、うん。」

「あはっ。うん?ううん?どっち?」


その気まぐれな彼女の、気まぐれな言葉で、私は彼女の手をこうして独占し続けている。


「飽きちゃった。」

彼女がそう言って指を差し出すのは、一週間後の時もあれば、二日後の時もある。

本当は毎日でも触っていたいけど、だからって手抜きをするつもりもない。

だから、毎日が楽しみで、少し怖いんだ。


…できれば、彼女も楽しみしてくれていれば嬉しいけど、
怖くて、聞けないよ。



薄ピンクで塗られた爪にストーンを散らした。

それに合わせて濃いめピンクで花びらを描き足していく。

彼女の綺麗な指に、花びらに模した私の気持ちを描き落として、ゆっくりと時間をかけて最後の指に取り掛かった。


「…綺麗。本当、器用だよね。」
「そんな事ないよ。」

…だって、いっぱい練習したんだもん。


「この花びらって、ハート形だよね。」


一瞬、気持ちが見透かされた気がして指が止まった。

「…うん。そうだね。」

なんとか笑顔を作ってみたが、上手く笑えているだろうか。


「あのね?」

トップコートに手を伸ばした。

「……うん。」

乾いた指にゆっくりと塗り被せて行く。


「私ね、ネイルしてもらうようになって、自分の手が凄く好きになったの。」
「……うん。」

手が小さく震えて、はみ出したマニキュアが指を汚して。


「あ。ごめん…。」

彼女を見た。

彼女は、
「ううん。…可愛い。ありがとう。」

その優しい微笑みに、嬉しくて涙が滲んだ。



「じゃあ。ありがとね。」
「うん、また。」

たとえ、『また』が来なくても、
その手に繋がれるのが自分の手じゃなくても…。


「あーあ。
…終わっちゃった。」


また、次を期待して、
ゆっくりとボックスに蓋をした。



end。
2010/5/17 *緒神



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