短篇集 『メール』 サイト1周年リクエスト 『元カレ、女の子目線』 Dear・みゆ(>_<) 「こんにちは。」 そう、声を掛けてきたのは貴方からだった。 休日の昼下がり。 駅前まで買い物に来ていた私は、お目当ての服を数着買って、 ちょっと一休みとばかりにファーストフード店で購入したドリンクを片手に 近くのベンチで携帯電話を開いていた。 「…本当に?」 何が? と聞き返されそうだが、その言葉をすんなりと理解した貴方は少し笑って頷くと当たり前のように私の脇に腰をおろしてきた。 …どうしよう、ドキドキする。 隣の貴方はあの頃と変わらず穏やかで、 あ、でも背が伸びたかもしれない。 昔は並んでいると少し上に顔があった。 今は、貴方の肩が隣にある。 ちらちらと視線を送る私に気付いてちょっと笑うと、ポケットから何かを取り出した。 手渡されたのはよくあるチョコレートだったが、当時私の好きだったものだ。 「ありがとう。」 いいえ、 とばかりにあの頃と同じように大きな手のひらで頭を撫でられて、 …正直、どう接すればいいのかわからない。 その微妙な表情を眺めていた貴方は、 「いくら見ても飽きないね。」 泣きそうになった。 彼と付き合い出したのは今から3年前だ。 初めて自分から告白したひとで、すぐにOKの返事をもらい付き合い出した。 だけど、その関係は1年程しか続かなかった。 進学により学校が別になり、お互いに新しい環境に変わった所為で会う事が少なくなり…。 気が付けば、自然消滅。 その後、彼女が出来たと噂で聞いた。 全く連絡をしなくなって、携帯からアドレスが消えてそろそろ1年になる。 …でも、まだ同じなんだよ? 私は、あの頃のまま。 まだ彼が、好き…。 メールがきた事を伝える携帯音が鳴った。 開くと見慣れないアドレス。 『(non title) アドレス、変えてないんだね』 隣を見た。 彼が携帯電話を握っていた。 『RE; うん』 送信すると、彼の携帯電話が揺れた。 『RE;1 偶然見かけて驚いた』 『RE;2 うん』 『RE;3 元気だった?』 『RE;4 うん』 『RE;5 もう、会いたくなかった?』 手が止まった。『うん』?『ううん』? 会いたかったけど、…会いたくなかったよ。 他のひとを好きになった貴方なんか見たくなかった。 あの頃、なんで距離を置いてしまったんだろう。 何度も何度も後悔して、 何度も何度も電話をしようとして、 何度も何度も、最後のボタンを押せずに泣いていた。 だって、『別れよう』の言葉を聞きたくなかったから。 もっともっと頑張ればまだ続いていたかもしれない関係。 宙ぶらりんで行き場のない気持ちにいつの間にか涙目になっていた。 携帯が鳴って、 『(non title) 俺は会いたかったよ』 「冗談ばっかり。」 思わず言葉がもれた。 『RE; 私は、会い…』 …会いたくなんかなかった。 打ってはみたが、送信ボタンが押せずに唇を噛んだ。 私は、 …私も、 携帯電話が揺れた。 『RE; 私も、会いたかったよ。ずっと、ずっと忘れられなかった。』 目をキツく瞑って。 どんな顔をしているのかは見れそうにないから。 パチン、 携帯を閉じる音がした。 立ち上がる気配がして、 馬鹿な事をした、そう思った時。 「…気付いてたよ。」 温かい感触に覆い被され、彼の胸に包まれたと気付いたのは ─…ずっと、好きなままだった。 彼からの告白の後だった─。 end。 2009/6/5 *緒神 [次へ#] [戻る] |