あやかし草紙 桜咲く時
6
あの夜、狐に摘まれた面持ちだった男はまだ春先のしんと冷える空気に寒かろうと女を家に招き入れ、そのまま女は男の側に居座った。
床に伏した母親の世話に女手は有り難く、何時の間にか女が居る事が当たり前になっていた。
桜咲く季節が二周りし、もうじきまた桜咲く季節が巡ろうとする頃。
すっかり良くなった母親は女を娘の様に嫁の様に可愛いがる。女が居てくれるおかげで男は日中働きに出る事が出来た。
豊かでは無いが穏やかな暮らし。母親が床を離れるようになり、身の回りを献身的に世話をする女がいて男は幸せだと思った。
女はいつまでも出会った頃のまま美しく、花の様な微笑みに癒された。
ところが、女の美しき容貌が衆目を集める事となり方々に噂が広まった。男の所に天女がおると。
そして男の元に使者が訪れる。
美しい女を娶りたいと。
男は女を妻にした訳では無い。あれからなし崩しに家族の様に暮らしているだけ。身分の高いやんごとないお方の使者だと名乗る者は金品を差し出し女を求めた。
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