あやかし草紙 桜咲く時
1
やぁ、綺麗な桜だなぁ。
声がした。
のんびりと春の陽射しのような声。聞いているだけでこちらまでぽかぽかと暖かくなる。そんな声。
気付いて―・・・。
それは小春日和のような声の主に念じた。
ん?おや・・・
こんな所に小さな若木が。可哀相に春の嵐でやられてしまったか。
桜の木の下の小さな若木。小さな幹が半ばまで裂けていた。声の主は落ちている枝を拾い、添え木にして裂いた手ぬぐいで幹を支えるよう軽く縛る。
これでいいものかな?枯れないといいなぁ、頑張れよ。
そう、声の主は若木の葉を撫でた。
優しい声。
それはほわんと暖かくなる。
若木に気付いてくれた事が嬉しかった。
春の陽射しに優しい声がほわほわと溶けてゆく。それが心地良く、とても嬉しくなった。
声の主はそれから毎日若木を見に来た。
来る度に若木に声を掛ける。
やぁ、大分元気になったなぁ。葉が青々としているよ。
声の主はにこやかに笑う。
優しい声。
ほわほわの空気。
それはこの時が1番好きだ。暖かな空気に包まれて嬉しくなる。
桜の花がひらひらと舞い散る昼下がり、それは幸せに包まれていた。
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