[携帯モード] [URL送信]
君は知らない.前(D灰.LA)


※リン←アレ


 ある日、静かな図書館でうっかり居眠りをしていたリンクは、右頬に当たる柔らかな感覚で目を覚ました。覚ましたといっても、居眠りをしてしまったようだ、とどこか他人事のようにゆっくりした覚醒である。
 次に彼はまだ触れたままの、この震える冷たいものは何だろう、と靄のかかる頭で考えた。耳元に暖かな風が吹く。
 そこで彼はぎょっとしたように目を見開いた。

 唇だ。
 心地よい眠気も吹っ飛んだ。






彼は知らない







 リンクはソファーに少し俯き具合に座っていたため、居眠りの邪魔者は彼が覚醒したということに気が付いていない。
 すぐに唇を離したかと思えば、また躊躇いがちにリンクの頬に触れる。冷たい唇は寒さ故か戸惑いか、キスしたいのかそうではないのか、とにかくまどろっこしい動きだった。

 リンクは叫んだり取り乱すことなどなく、一体誰が何のために、と冷静に状況を分析しようとした。冷静に、と言えば聞こえはいいが実際には、驚きのあまり身体が固まってしまったからである。
 頬は相変わらず冷たさしか感じ取れずにいたが、そこから相手が緊張していることがリンクにも感じ取れた。

 それにしても、こんな行為を一体いつまで続けるつもりなのだろうか。
 ようやく落ち着きを取り戻したリンクが、そんなことを考えると急に相手がもぞりと動く。
 リンクは慌てて目を瞑り、視界をシャットダウンした。
 起きていたと相手に気付かれるのは、良いことではないと判断してのことであった。

 こちらには、馴れ合いをしに来たわけではない。どうも自分に好意を寄せているらしい相手を知ったって、何もいい事はないだろう。いつまで本部にいるかなんてわからないのだ。気まずい思いなど、するだけ無駄なのだから。

 とは思っていても、人間は好奇心で出来ていると言っても良いようなもので。

 リンクは相手が自分から遠ざかる気配を感じ取り、薄目を開けて後姿を盗み見た。

 そして、また目を見開く。

 通路の先の本棚から、わずかに白を見せて去っていく影がひとつ。
 さらりとした白髪をなびかせたその人物は、監視対象のアレン・ウォーカーだったのである。
 リンクは文字通り、頭を抱えてしまった。

 そんな馬鹿な。

 顔をおもむろに上げ、ソファーに深く座りなおし手帳を取り出す。
 報告する必要はないであろうが、一応書き留めておこうと考えたのだ。戸惑いながらも、彼はさらさらとペンを手帳に走らせる。
 一行だけ書き込むと、リンクは壁にかけられた時計を見上げた。

 随分と監視対象から目を離してしまっていたようだ。
 好き勝手に、うろちょろしていないといいのですが。

 リンクは先ほどの出来事をいったん保留にすることにし、身だしなみを軽く整え、アレンを探すために立ち上がった。





 一方アレンは本棚の隙間からリンクが百面相をするのを見て、焦っていた。もしや気付かれていたのか、早まったか、そう悔やんでも遅い。
 アレンの背中には冷たい汗が。しかしその頭では、彼の悩む姿はなんて魅力的か、とぜんぜん別のことを考えて頬を染める始末。

 リンクに、キスしてしまった。しかも何回も。彼が悪いのだ、あんな綺麗な顔のまま眠るから。

 火照った頬を両手で押さえ、アレンは悩める監査官から視線を外して、その場にしゃがみこんだ。リンクが自分を探すために立ち上がった事に、微塵も気付かないまま、アレンは思考を働かせた。

 絶対眠ってたはず。起きていたら、跳ね除けるはずだし。いや、あえて寝た振りするかも、じゃあ、リンクは起きていた事に。

「どうしよう」

「何がです」

突然頭上から降ってきた声に、アレンは慌てて顔を上げた。
 アレンを少し被さり見下ろすような格好で、リンクが立っていた。

大分長居しましたからね、早く戻りますよ。

 その声は、頭が真っ白のアレンには届いていなかった。

「う、」

 はて、とリンクが眉をひそめ。

「う、うっわあぁぁぁぁっっ」

 アレンの絶叫が、静かな図書館に響き渡った。
 呆気にとられていたリンクだったが、すぐにアレンの口を掌で押さえ、静かに声を荒げた。





「アレンー、図書館では大きな声はだめさぁ」

 知ってますよ、と言いたいのをアレンはぐっと堪えた。
 リンクと、たまたま同じ場所に居合わせたラビに、アレンは注意を受けていた。
 図書館からつまみ出され、冷たい廊下に慣れない正座のアレンに、リンクは呆れ交じりの声を投げる。

「頭が割れるかと思いましたよ、まったく」

 これには、アレンは嫌味を返すことを躊躇しなかった。

「何言ってるんですか、半分は君のせいでしょ」

 君だって正座するべきだ、さあ隣へどうぞ。

「なぜ私が」

「ラビ、聞いてくださいよっ」

 アレンはリンクの言葉を遮り、ラビの腕を掴んで引っ張った。やや力が強かったのか、その口からぐえっという変な声が漏れる。必死のアレンはその様子に全く興味を示さなかった。

「いいですか、こうして僕がしゃがんでいたらね、こーんな風に上からリンクがにょきっと出てきたんですよ、びっくりするでしょ、ねっ」

「いいえ違います、私は普通に声をかけただけで」

「普通、あれがですか」

 その後もなお続くやり取りを見て、ラビはぽかんと口を開けた。勝手に巻き込んでおいて、取り残されたことに呆れたのではない。あまりにアレンが必死だということに気付き、ぎょっとしたのだ。

 これは、アレだ。好きな子にかまってもらいたくて、必要以上に喋り捲る、興味を引こうとする行動さね。もっといい相手が他にいるだろうに、あえてのホクロふたつか。

 ただ、ラビから見てあのリンクの様子では、はっきり言って、脈なしのようである。

「あれまあ」

 人の恋愛事情は面白い。それだけに、関わると厄介だということも理解していたラビは、二人に気付かれぬようにその場を後にした。





 それから十分後、ラビがいなくなったことにようやく気付いたアレンとリンクは、互いに怒りのオーラを隠さないまま部屋へと向かった。

 部屋につくなり、アレンは自分のベッドに潜り込む。しかしすぐにリンクが布団を剥ぎ取った。一体何をするんだ、とじと目を向ける少年に、リンクは告げた。

「浴場に行きますので、準備を」

寒い廊下にいたため、リンクとしては一刻も早く湯に浸かりたい気持ちでいっぱいだったのである。

「そうですか。嫌です」

「嫌じゃありません。君を一人にするわけにはいかないんですよ」

「まだ夕方ですよ、嫌です」

 アレンはリンクの手から布団を奪い取ろうとしたが、それは失敗に終わる。

「5分時間をあげますから、準備を」

 そしてリンクは自分の机に向かって、何の気なしに手帳を開きため息を吐いた。

図書館にてウォーカーにキスされる。
















[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!