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morning(D灰.LA)

※リン(→)(←?)アレ


新しい本部でもエクソシスト一人一人に部屋が与えられた。
しかし、ベッドを二つも押し込めば途端に狭くなる。生活に不自由は無いとはいえ、互いの寝息がかなりよく聞こえる程度には、狭い。

朝の静けさの中、二つあるベッドのうち、片方がむくっと起き上がった。
ハワード・リンク監査官は枕もとの時計に手を伸ばして、時間を確認した。

今朝はいつもよりも早めに起きて、報告書の見直しをしようと思っていたのだが。

針は後15分で6時になる、ということを示していた。

少し寝すぎたかもしれない、気が弛んでいるのだろうか、これはいけない。

時計を元の位置に戻して、動きを見せる気配の無いベッドに寝ぼけ眼を向ける。

いや、彼よりはマシか。

静かにクローゼットを開けて、着替えようとしたリンクは唐突にあることを思い出した。
昨日、ラビがアレンに鍛錬しようと誘ったのだ。
アレンは二つ返事で頷き、ラビが夕方から任務のため、約束の時間は朝になった。

確か7時だったはずですが、この様子ではすっかり忘れていますね。

「ウォーカー、起きなさい」

リンクは乱れた金髪を軽く手櫛で梳かし、アレンに声をかけた。

ウォーカー、朝ですよ。

もっと寝かせてくださいよ、そうもごもご呟くアレンの掛け布団を、リンクは勢いよく捲る。
アレンもすかさず布団の端を握り締める。
リンクの額に一瞬青筋が走った。

「起きているじゃないですか」

「いいえ、寝てます。ほら見てください、目を閉じているでしょう」

「眠っている人間は、そんなにはきはきと喋らないと思います」

じゃあ、寝起きってことで。

では目を開けなさい。

なぜ私がこんな子守みたいなことを、しなくてはいけないのか。

リンクは、アレンと行動を共にすることになった初めの頃のことをふと思い返した。
コムイ他科学班の作った薬の事件時は、まだ明確な一線があった。
いつからそれが薄れてきたのか、監視する人間がこんなことでは、長官に申し訳ない。

「いい加減に、なさいっ」

もう一度布団の中へと戻ろうとするアレンだったが、リンクがなんとかそれを奪い取った。
アレンの悲しげな声を無視して、リンクは背を向ける。

「没収です。さあ諦めなさい」

これで彼も起きるだろう、その考えは甘かった。
リンクはパジャマの上を脱いだ所で、急に静かになった大きな子どもに気が付いた。
訝しげに首だけを振り返らせ、リンクは自分の眉間にしわが寄るのを感じた。
ベッドの上に白いシーツで頭から足まですっぽり包んだ、大きな繭がある。

「ウォーカー。何をしているんですか」

「シーツに包まってます。布団には包まってません、寝てます、起こさないでください」

大きな繭は屁理屈をごねながら、もぞもぞ動いた。

「なるほど」

リンクは着ようとしていたシャツを自身のベッドに放り出し、無表情でシーツの端を引っ張った。

「痛い、冷たっ、何するんですか」

縋り付いていたシーツまでもが剥ぎ取られてしまい、アレンは無様に床に落下した。
外気に震えるアレンを彼の監査官は呆れたように見下ろす。

「忘れたんですか。ジュニアとの約束をしたのは君でしょう」

「そうでした」

アレンはその言葉でやっと目を開き、おや、と思った。

「上半身裸なんて、珍しい」

「着替えてたんです」

そう言って、リンクは何事も無かったかのように着替えを再開した。
アレンは、目を輝かせてリンクを見つめる。
流石の監査官も居心地が悪くなったのか、視線を咎めた。

「じろじろと、なんですか」

「いえ、前から思ってたんだけど、リンクの筋肉って、何か、ほら、うーん」

アレンが少し頬を赤くして下を向いた。

「えーっと、その」

まどろっこしい。

「朝の時間は過ぎるのが早いんですよ。一言で」

お願いします、と言いかけたリンクの言葉を、アレンが遮った。

「リンクの筋肉って、ものすごい僕の好みですっ」

アレンは、きゃっ、言っちゃった、というようなベタなポーズで顔を覆った。
満足げなアレンとは反対に、リンクは驚いて目を丸くした。

「は、え」

君、いきなり何を言い出すんですか!とは言えず、口をぱくぱくさせるだけである。

何か、裏の意味があるのか、というか、ウォーカーは風呂場で私のことをそんな風に見ていたなんて。

まさか、恋愛感情、いや。

それは、まずいのではないだろうか。

両手の指の隙間から、アレンがリンクを見て怪訝そうな顔をした。

「リンク、何やってるんです、金魚ごっこですか」

「それだけは絶対違います」

ていうか早く、その美しすぎる筋肉を隠してください。恥ずかしいです。

恥ずかしいのは、私のほうだ!

ボタンを全て留め、リンクは動揺する心を隠すように深呼吸した。

「君はもう少し、自分と私との距離の測り方をしっかりするべきだ」

「距離ですか」

「そうです、一線とでも言いましょうか」

アレンは、顔を覆ったまま不思議そうに返事した。

「そんなもん、僕のプライベートが完全になくなった時点で崩壊してます」

君だけでしょ、そんな規則だなんだと、一線とかね。

「僕は、君に何も隠してないし、隠せません」

思わずリンクは黙り込んだ。
これは仕事で、彼のプライベートが許されなくなったのも、仕方ないのだ。

「私は望んでここにいます」

リンクはアレンの腕を掴み、顔から離した。
現れたまっすぐな目に心臓が跳ねたのは、気のせいだと言い聞かせ、平静を装う。

「知ってますよ」

「だから、せめて楽しみましょうよ」

アレンは、困ったように笑った。

「僕はね、リンクの筋肉がお気に入りです」

どんな反応をしろというんだ、この子は。

「私は、君たちと仲良くなろうとして、ここにいるわけではありません」

「僕を好きになってと言っているわけではないんですよ、一部分でいいんです。人を好きになるかなんて、そんなもんでしょ」

でないと、師匠がモテるわけがない。

アレンは心の中でそう付け足した。

「例えば、僕の顔、どうですか」


それは、自他認めるように、整っている、が。
どうですかって、何かおかしい。
まるで遠まわしな告白のようだ。
そんなバカな。

アレンの本意がわからずにリンクは困惑した。
しかし、先ほどといい、アレンは単純に興味本位で発言しているだけである。
なぜこんなにうろたえているのか、全く理解していない。

「目の色は、どうですか」

目の色は、それは。
何だ、どうすれば、何が正解ですか、長官っ。

アレンのことを少しずつ意識してしまうリンクに、さらに追い討ちをかけるように近付く少年に悪気はない。
ないが、性質が悪い。

「ねえ、リンク」

ものすごい僕の好みです、リンクの筋肉がお気に入りです、好みです、お気に入りです、好み、好み。

「私、は」

ガタン。

突然ドアが開き、何かが倒れこむように室内に入ってきた。

「ご、ごめんさ、邪魔するつもりはこれっぽっちも。うん、ちょっとした野次馬根性で」

ラビじゃないですか、別に邪魔でも何でもありませんよ。

え、なに、そうなの。

はい。なにうろたえてんですか。

あー、まあ、もともとは、約束の時間に来ないお前らが悪いわけだしなあ。

アレンとラビの会話をどこか遠くで聞きながら、リンクは額を押さえた。

危なかった。
いや、何が危なかったのかわからないが、危なかった。
それに、今何を言おうとしていたのか、自分でもわからないなんて。

鍛錬場に向かう途中で、あれは朝のテンションってやつさあ、とラビがリンクの肩に手を置いた。

テンションで片付けるには、ちょっとアレですけど。

元気よく揺れる銀髪を追いかけながら、リンクは胸に手をあてた。

白い少年の監査官の朝が始まる。






morning






end






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