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short
わんこの兄


仲沢呂佳と利央は常にお互いを意識しあいながら生きてきた。
それは、残り1つのプリンの行方であったり、進路決めであったり、些細なことから、大事な事まで色々で。

そんなわけで、利央が桐青高校に入学した理由には、呂佳の存在が少なからずあったのだった。
本人は気付いていなかったが。



わんこの兄



お前は美丞大狭山には来るな。

「だってさ、ヒドイと思わない、準さん」

利央は昼食の菓子パンをほおばりながら、目の前に座る先輩の高瀬準太にそう愚痴をこぼした。
それに対して準太は辛辣な言葉を投げつけてやった。

「いや、それは単にお前がアホだからだろ。ってか、昼休みになる度に2年の教室に来るってどうなんだよ」

お前友達いないわけ。
準さんヒドイ!

コイツ面白いよなぁ、などと高瀬が考えているとは知らず、利央は膨れるばかりだった。

「大体さぁ、準さんも兄ちゃんもなんなの!俺だって不愉快になるんだからねっ」

「その前に、お前、不愉快って漢字書けんの?」


適当にあしらう準太とうろたえる利央は、学校内ではもうお馴染みの光景になっていた。

そんな利央を面白がる準太だったが、ここ最近、利央との会話の内容に引っ掛かりを感じるようになっていた。

「(コイツ、毎日必ず1回は呂佳サンの話すんだよな)」

準太は直接呂佳と関わりがあるわけではない。
先輩の河合から時折話で聞くぐらいであるし、利央の兄であるということしか知らない。

なので余計に、利央がなぜ自分にばかり呂佳の話をするのか不思議で仕方がなかった。

「こないだだってさ、慎吾さんにからかわれたんだよォ」

「(つーか、俺より和さんに話したほうが会話になるんじゃねーの)」

「迅もね、いっしょになって笑ってるしー」

「(あー、なんか気になってきた)」

「って準さん、聞いてるー?」

「わりぃ、聞く気がなかったわ」

準さんのバカぁ!
利央は若干涙目で叫び、準太は耳を塞いだ。

しょげてしまった後輩の気をそらそうと、準太は先ほど考えていた疑問を口にした。

「なぁ、お前なんでいつも呂佳サンの話すんの?」

「え、オレそんなに兄ちゃんのこと話してる?」

「無意識かよ」

そういえば。
利央が野球を始めたのって呂佳サンの影響だよな。
好きなものは一番最初に食べる習慣もそうだ。
いや、兄弟なんだから影響されててもしょうがないんだろうけど。
だけどそれだけじゃない、さっきの話だと、呂佳サンのいる付属校が第一志望で、利央が桐青に来たのは呂佳サンが通っていた学校だからってことに……。
たった一言で進路変えたわけ?

「いや、ないない」

「準さん一人で何喋ってんのぉ」

準太は首をぶんぶん振った。

「何でもね。だからほら、なんで利央は和さんとかには呂佳サンの話しねぇのかなって」

利央はきょとんとして言った。

「だって、オレの知らない兄ちゃんの話されんの、嫌なんだもん」

「は?」

「兄ちゃんは、オレの兄ちゃんだし、他の人から兄ちゃんの話がされんのが耐えらんないの」

オレだけが知ってればいーの。

そう言い切った利央を準太は呆然と見つめた。
逆に利央は準太を不思議そうに見つめて、首を捻った。

なんだ、なんなんだ。
いやでもまぁ、兄弟だし。
……兄弟ってこんなんじゃない気がするんだけど。

「利央、お前やっぱアホだわ」

「ヒドイ!」


影響されすぎて、恋愛的な感情まで呂佳サンに向くって、ブラコン過ぎるだろ。

準太が頭を抱えたのと同時に、昼休み終了のチャイムが鳴った。







end




2010.7.22.
記念すべき初小説です。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。



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