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【クロス・オーバー・ポイント】
『黒森の獣は砂糖菓子の夢を見る』1 R-18 禁断のZ×X?ちょっぴり暗黒有り

「何?突然どうしたの???」

どうして俺がこんな行動を取るのか?皆目解らないと言った目でゼノンは俺を見上げる
俺だって解らない…何で病み上がりで、本調子では無いゼノンを押し倒しているのか
ソレもこんな何時誰が来るかも解らない、文化局の個室病棟で

昨夜ココで覗き見た光景が、いくらショッキングだったからと言っても
結局その後も悶々としてしまって、時間を置いて再訪する事も出来なかったとしても
病みやつれた感じがまだ残る彼を、組み敷いていい理由にはならないだろう

ゼノンに大怪我を負わせた相手が、自分の親友であれば尚更に

「………悪い、こんなつもり じゃなかった」

刹那的に興奮した感情と昂ぶりを無理に抑え込むと、ゾットは頭を抱えてながら呟く
大体相手を見れば解るじゃないか…
明らかに自分より体格のある俺に、同意も無くのし掛かられていると言うのに
普通なら…こんな行為をされれば、怯えるのが当然なのだが…
ゼノンは、特に慌てるワケでもなく、キョトンとコチラを見上げているだけじゃないか

武官と学者の差はあっても、魔力レベルはゼノンの方が遙かに上だ、当然だ

しかもあのエースと互角に戦う様な奴なんだぞ、はなっから俺なんて眼中に無いだろう
その気になれば何時でも撃退出来るのだ、落ち着き払ったその表情が、そういう意思表示に見えてしまって
何だか急にカックリきてしまった俺は、慌 ててベッドを降りようとするのだが

「………待って、やっぱり昨夜は…見ていたんだね?」

柔らかな手が、垂れ下がる俺の髪を緩く引き掴むと、そのまま俺を引き寄せる
鋭い指摘にコチラを見上げる視線を直視するのも憚られ、思わず目を背けるのだが
そんな俺の耳に信じられない様な、言葉が聞こえる

「僕の結界どころか、ヨカナーンのソレまで飛び越えるのかい?驚いたよ…大した物だね…
覗き見した、彼と僕の濡れ場はそんなに良かったかい?ソレでムラっときちゃったの?
………犯したいかい?僕を、彼と同じ様に、秘密を守る口止め代わりに…」

トーンの下がったその声に、慌てて相手の顔を覗き込めば
ソコには怒りや嫌悪感はない、妙に静かで冷めた鳶色 の目 が、変わらず俺をジッと見上げている

「そんなんじゃ…そんなつもりじゃない………」
「じゃぁ、どういうつもりなの?」

そんな事聞かれたって解らなねぇよ…ただ…どうしようもなくムシャクシャした
触れたくも上手く触れないゼノンを、組み敷いて好きな様にするあの男が妬ましくて
そして…口では相手に対する悪態と嫌味を吐き、行為を嫌がる素振りをしながらも
甘ったるい声を上げ、その刺激を楽しんでいたゼノンに対しても憤りを感じていた

戸口で、二名の睦み合いに気がついた俺は、かろうじてドアの影に隠れたものの
固まったまま、室内の様子を凝視する事しか出来なかった
ただ…悩ましげに男の背中に絡みつく、ゼノンの生白い脚だけが見えた…
快楽を貪 り打ち震えるソレが、女のソレとは違った意味で艶っぽくて
妙にエロくて生々しくて………その光景が目に焼き付いて離れなかった、ただそれだけ

最近までその存在すら忘れていた【アノ場所】が、再びドクリと脈打つのを感じた俺は
怖くなって…慌ててその場を後にしたんだ、言いしれぬ寂しさと自己嫌悪で逃げる様に

「………俺の思い通りにならないからって、アンタ等の秘密をばらす何て気は、ハナからねぇよ…」

脅迫なんてするつもりは無い、アンタに触れたかった、抱き締めたかったソレだけだ…
覗き見しようと思ってしたワケでもねぇよ…また俺の不注意ではあるけど

「ああ、何だか上手く言えないやっっ……悪かったよ、忘れてくれ………」

もしコレ でアンタが 「俺の事を信用出来ない」と思ったなら言ってくれ、もうココには来ないから
バリバリとに頭をかきながら、少し乱暴にゾッドはそう言い放ったのだが
その尻尾はシュンと垂れ下がり、何時もの元気は全く無くなっていた

本当に解りやすい男だねぇ君は、そんな調子でよく中央で、上手く立ち回れるモノだ
大魔王府内よりかはマシとは言え、軍部だって陰謀術策が渦巻く騙し合い、足の引っ張り合いは日常茶飯事の環境の筈なのに
尻尾だけじゃない、そのクルクルと変わる表情からも、何でも筒抜けでは、長生き出来ないよ

そんなゾッドのドギマギとした様子に、ニヤリと目を細めて笑ったゼノンは
髪に絡みつく彼の手を優しく取ると、ソレを解こうとするゾッドの手を逆に引き掴み、 その手首を強く引っ張った
結果、バランスを崩したゾッドが、その胸の上に倒れ込むと、
柔らかくて温かい手が首の後ろに回っくる、そしてその頭をやんわりと抱き締める

「………イイよ、ちゃんと気持よくしてくれるなら、僕より上手なら…そのまま抱かせてあげる………」
「ホントに?ホントに、いいのか?」
「この状況で、ホントにも何も無いでしょ?ただ………」

さらに続けようとした僕の言葉は、貪りしゃぶりつく様な熱烈なキスに阻まれてしまう
ムードも何もあったモノではない、そのまま胸の館内着の胸のボタンを外されてしまうと
直ぐさま少しガサガサとした大きな手が、その隙間に滑り込んでくる

肌を這うその指の荒っぽさと、そのガッツきすぎた愛撫に思わず苦笑する

同意を得たのだから、そんなに急ぐ必要も無いはずなのだが…やはり不慣れなのかな?
ぎゅうぎゅうと強く抱き締めてくるその腕は、抱くと言うより息苦しいくらいで、
SEXと言うよりも、大型の動物に懐かれているような感じがどうしてもいがめない
おそらく技術面では、到底期待出来そうに無いのは、もうこの時点で解ったけど
何故か不安感はあまり感じないので、彼のしたいように、好きにさせてみる事にする

まずはお手並み拝見と行きますか…多淫は悪魔のたしなみだからね

ゾットの背に腕を回しその身体に縋り付けば、手の甲に当たるのは彼の尻尾か
わさわさと大きく振られるソレは、酷く機嫌が良さそうにに感じるのはいいのだが…

どうだ ろうね…いくら制御薬があると言っても、僕は【鬼】なんだよ?
ちょっと前まではそういう関係になる事は、憚られるくらいに凶暴で、タチが悪かったんだよ?その事を忘れちゃいないかい?

予想通り作為的な部分は無く、悪く言えば行き当たりばったりで、直情的な愛撫を一方的に受けながらも
ベッドに備え付けの引き出しのから、手探りで携帯用のピルケースを探り出す、エースじゃないけど暴走事故は御免だからね

こっそり自制用のタブレットを噛み砕いてはいるものの、乱れた前髪に隠れたゼノンの目は、ねっとりと凶悪な笑みを浮かべている
しかし…思いがけずゼノンを腕に抱いたゾッドは、それどころではなくて、その表情は見ていない

喰らったつもりで、喰われてしまうのはどっちだろうね … ……

※※※※※※※※※※※※※※

「先生、大丈夫かっっ」

崩壊した結界の中に、飛び込んだ俺の目に入ったのは
赤い髪を振り乱し、嫌な笑い声を上げる赤髪のエースの姿と、その足下に蹲る血塗れのゼノンの姿だった
デーモンの姿を確認すれば、赤髪は他の者はどうでも良くなる
あっと言う間に炎の翼を広げると、真っ直ぐデーモンに向かってゆくアイツを確認
副大魔王家の侍従達と共に、慌てて彼の回収に向かったのだが…

酷いなこりゃ…傷口から上がる白煙を見れば、治癒魔法は戻って来ているみたいだが
おそらくコアを引き抜かれ、嬲られたのだろう、その場に広がる血の殆どはゼノンの物だ…
再生能力を封じられたまま、腹を切り裂かれ、腸まで引き摺り出されたその身体は
大型の獣に喰い荒らされた様に、全身をくまなく噛みつかれ、食い千切られている様な状態なのだが

ソレ以上に酷いのは…誰の目にも解る、手酷い陵辱と暴行の痕だ

気を利かせたメイドが、大慌てで傷を隠す物を持ってくるのだが
その間、血塗れのゼノンを、俺はその腕に抱き締めていた…ずっと

助け起こしたかっただけじゃない、俺の背で他魔の目から隠してやりたかったから

なのに腕の中で身じろぐゼノンは、自身の傷の事などどうでも良いといった感じで
同じ結界に紛れ込んで居たらしい、ガキの心配ばかりして
ガキの傷の具合が見たいから連れてこいと、俺に言ってくるのだ

「そんな場合じゃないだろう?アンタの方が酷い傷を負ってるんだぜ」

と言い返すのが 俺はやっとなのに…俺の心配など意に返さない
戻って来たメイドが誰かのケープを、先生の膝の上にかけてやるのだが
視覚的に見えなくなっても、血の気の失せた脚と、その傷だらけの肌の残像が、目に焼き付いて離れない

その無残な傷を負わせたのが、自分の友である事による責任感もある
結界の中に共に残れなかった、自分の力の無さに対する不甲斐なさもあるのだが

ソレ以上に…ソレを見て、身体の奥でドクリと何かが疼いた…その感覚が信じられなかった

戦闘中に強い敵と戦って、興奮状態になる事はある…
噴き出す血に更に昂ぶるのは、魔族であれば当然の感覚ではあるのだが
負傷者を回収する時に、その様な感覚を覚えた事は一度もない、ソレが敵であっても味方であってもだ
勝負がつけば…倒れた相手をさらに傷つけ、嬲る様な趣味は、持ち合わせていないのだ

魔族らしからぬ感覚だと、同じ先鋒部隊の悪魔にも、近しい者には指摘されるが…
既に戦闘不能な相手を傷付ける事に、昔から強い抵抗が有るのもまた仕方がない
表向きは「武官の恥だから」とは公言しているが、単純に言えば怖いのだ
本能のままに相手を切り裂いたら、何かが変わってしまいそうな気がして…

だったら、例え悪魔らしくなくても、今のままの俺でいいじゃないか?

それなのに…傷付いたゼノンを抱き締めて、俺は何故こんなに興奮している?
噎せ返る様な血の臭いが、酷く甘く感じるのはどうしてだ???
そして普段は意識する事もないアノ場所が、ドクリと疼いて… ソレは確証に変わる

こんな非常時に何考えているんだよ…俺は…

途端に胸の中に広がる自己嫌悪と罪悪感の苦い感触、ソレを上手く殺しきれない俺は
俯いたまま強く息を吐き、強くゼノンの肩を、指が食い込む程に強く抱き締めるのだが

「………痛いよ、そんなに強く支えてくれなくても、僕は大丈夫だよ
君のセイだなんて、コレッポッチも思ってないから、気に病む必要なんてないよ…」

俺の挙動不審な態度を、別の意味に捕らえたらしいゼノンは、妙に優しくそう言ったが

そうじゃない…そうじゃないんだよ、先生…
先生にそう言って貰える、心配して貰える資格は、少なくとも今の俺にはねぇよ…

上手くソレを言葉にも出来ず、ただ状況に流されるだけで
ダミアンの応急処置を受けながらも、連れてこられた少女の診察を、テキパキとこなす彼の姿を見下ろす事しかできなかった

【ヒュプノス・コード】の衝撃に備えて、ゼノンをシェルターに格納した時
一番安心していたのは…俺自身だったのかもしれない、あのまま彼を抱き締めていたら

何をしたか解らなかったのは………エースだけじゃない、俺の方だったかもしれないから

暴走事故が治まって、ゼノンが文化局の連中に連れていかれた後も、ぼんやりと考えていた

俺の手にはその感触が残っている、血を失いすぎてた肌のひんやりとした冷たさ
それでも妙に柔らかくて、ふっくりと手に馴染んだ肩の感覚が…
「初めてバイクに乗った」と言って、背中に縋り付いてきたあの指先の感じと同じくらいに

落ち着いたら…文化局に見舞いに行こう、女先生もゼピュロスの事も気になるから
瓦礫と化した副大魔王の館の一角で、ゾッドは立ち尽くしそう思っていた

※※※※※※※※※※※※※※

実際、ゼノンの傷は、見た目以上に酷い傷だったのだろう
女先生とゼピュロスは、比較的早い段階でデーモンの屋敷に戻ってきたが
ゼノンだけは、何度連絡を入れても面会謝絶で、なかなか医療棟には入れてもらえなかった
ようやくOKが出たのは、騒動が起こってから大分経った後だった様に感じる

イザ見舞いとなると…どんな顔をして行ったらいいのか解らない、局員に案内されるままに、文化局の廊下を進んではいるが
更に魔界では恐れられる「生体実験室」の呼び声も高いその場所だ、軍部の自分は入るどころか、コレまでに訪れた事すらなかった

館内の照明の光量が落とされているのは、患者の視覚を刺激しない為の配慮と解っていても、得体の知れ無さを感じずには居られない
途中物陰に隠れながらも、自分を盗み見る視線が、局員なのか?患者なのか?実験体なのか?ソレとも他の何某なのかすら解らない…

ようやく目的の場所に到着したのか?「ソコがゼノンの部屋ですよ」と局員に促され、ヤレヤレと思う暇も無かった

突然ソレまでの静寂を破る様な怒号が聞こえ、目指す部屋のドアが吹き飛んだ
ソレはそのまま勢いよく、対面の廊下の壁にまでブチ当たり、後を追う洋に噴き上がる炎の渦に思わず目を見張る
誰だ!こんな場所で攻撃魔法を暴発噴出している大馬鹿野郎は?

「母上に怪我をさせた言い訳は、ソレだけかな?ゼノン兄?」

俺と局員が慌てて室内を覗 き込めば、部屋は完全に炎の海と化していた
その中央でベッドから半身を起こしたゼノンが、困った様な表情を浮かべ上を見上げている

彼の目の前には、天井ギリギリにまで膨れ上がった、赤銅色の肌を持つ巨漢の鬼が立ちはだかる

筋骨隆々としたその肉体は、抑えきれない怒りにビクビクと震え、溢れ出す魔力波動が炎の渦となり辺りを焼き尽くす
咆吼するその口からは、炎の塊を噴き出し、振り乱れる銀髪の下で、金色に光る目がギラギラと光っていた

「母上の件は謝罪のしようがないよ、ピンガーラ、君が怒るのは最もだよ………
僕が君の立場なら、僕を生かしておかないもの…いいよ、君の好きにしたらいいさ…」

柔らかくゼノンはそう笑うと、自身にかけた防護シールドを一切解除してしまう
そんな贖罪の気持ちなど、相手に通じてはいないのか?
炎を纏ったままの巨大な鬼の拳が、そのままバキバキと倍の質量になると
大きく振りかぶったソレが、一気にゼノンの上に降り下ろされるのだが………

そのまま身体にヒットする筈の痛みが、何時までたっても届かない

覚悟は出来ていても、思わず瞑った目をゼノンが開けば…目の前に尻尾の生えた広い背が見える
何時の間にか間に割り込んできたゾッドが、ピンガーラの巨大な拳を、片手でガッシリと受け止めている
しかし咄嗟の事で、防護結界が甘かったのか、じわりと肉が焦げる音がして、嫌な臭いが室内に立ち込める

「詳しい事情は知らねぇが、病み上がりの先生の傷を増やさないでくれ…
暴走事故が原因の喧嘩なら、俺にも責任があるからな…
殴りたいんなら、代わりに俺を殴っていいぜ、気が済むまで、ソレじゃ駄目か?坊主?」

突然間に割って入ってきた部外者に、呆気にとられる大鬼の拳を、ゾッドは力ずくで払いのける
その顔は軍魔らしく、ニヤリと悪そうな笑みを零してはいたが、焼けた掌の損傷部から白煙が上がっている…
平気な顔をしていても相当な痛みはある筈だ

「ゾッド…何で君が???」

何故自分が庇われたのかも解らない…と言った感じの面で先生が俺を見上げている

そりゃそうだよな…殆ど条件反射で二名の間に割って入り
前後の話は解らないままにゼノンを庇ったが、どう考えても身内のイザコザだろう
他魔の俺が割って入る事の方が、非常識で無粋な事なのか もしれない

けれど…これ以上ゼノンに傷ついて欲しくなかったんだ、俺の目の前で

「ピンガーラッ!!!何をやっているのっっ!!!ゼノンッ!!!貴方もよッッ!!!」

聞き慣れた声に思わず振り返れば、まだ包帯姿が痛々しい女先生が戸口に立っていた
その後ろに隠れる様にこちらを覗いているのは、ココまで俺を案内してくれた局員だ

「だって…母上………」

途端に意気地の無い声を上げた大鬼は、みるみる内に縮んでゆく、俺の半分くらいの背丈に

部屋中に広がっていた炎の渦も消え失せ、赤銅色の肌は白色に、銀髪もウェーブの掛かった黒髪に戻ると
そこには声変わりを迎えたばかりの風体の少年が、ちんまりと立っている

魔力波動の不安定さから、若い奴だろうと予想はしていたが、まさかガキだったとは???
いや違うな…見た目よりも歳は行っているのか?魔道院の制服を着ている所を見れば?

いくら優秀な学生には、飛級制度が用意されていても?見た目通りの幼さでは、入学は認められないはずだ
先程の大鬼の姿とは俄には結びつかない、場合によっては少女と見間違える程の優しげな風貌に
ゾッドはあんぐりと口を開き、ただギクシャクとするのだが

「ごめんなさいね…ゾッドちゃん、紹介するわ、私の末の息子ピンガーラよ」

腕を組んだまま、我が子とゼノンを睨み付ける女医師に言われ
ゾッドは改めて目の前の少年の顔を覗き見る、成る程目鼻立ちは、母親にそっくりだ
そしてその額には、同族である証の二本の角が、威嚇する様にコチラを向いている

「ふん…馬鹿みたい………」

ふくれっ面で俯く少年は、半泣きの目でギンとゾッドを睨み付けると、甲高い声でキンキンと叫んだ

「僕が本気の攻撃魔法を繰り出したって、ゼノン兄にマトモに当たるワケがないじゃん
他魔の喧嘩に勝手に入ってきて、大人ぶってんじゃないよっっ、バーカっっ」

言うやいなや、ゾッドの膝下を、毛皮に覆われた泣き所に鋭いケリを入れると
少年はそのまま母親の脇を括り抜け、部屋の外に走り出て行ってしまった

「ちょっとっ!!!待ちなさいっっピンガーラっっ!!!」

廊下を走り抜けてゆく息子の背に、カリティの叱責が飛ぶのだが、ゼノンは慌ててソレを止める

「待ってカリティ…今回は僕が悪いんだから、彼を叱らないでやって…」
「息子同士の喧嘩に口は出したくないわよ、でも病棟で攻撃魔法は頂けないわ………」

パリパリと起こる稲妻が、彼女の回りを取り巻いてる、いけない相当怒っている

今回の一件、医療事故に繋がった経緯を、彼女からも彼に説明はしたのだろうけど
マザコン気味のピンガーラにしてみれば、納得出来なかったのだろう
そもそも原因になった僕に、その怒りをぶつけてくるのは当然だし
カリティが、僕を庇う事も気に入らなかったのだろう

カリティはカリティで、理路整然と時系列を説明したのに、全く聞く耳を持たず
納得しようともしない甘えたな息子に、ついカチンと来て居る…そんな所だろうけど…

僕も両名の親子喧嘩など望んでないからね

「僕の身体がちゃんと元に戻ったら、魔道士同士の手合わせのカタチでなら、
勝負を受けると彼に伝えてください…ソレにやっぱり、今回は僕が悪いから………」

「………解ったわ、ピンガーラにはそう伝えておくわ………
でもね、ゼノン、私は貴方のセイで負傷したなんて思ってないわよ
邪眼治療の誤診は貴方と私の共同責任よ、ソレは忘れないでね
それに早めに復帰為て貰わないと、制御薬の開発が遅れてしまうから困るのよ」

そう言い残すと、カリティは息子の消えていった方に向かって、ツカツカと歩いてゆく
追いかけて叱りつけるのではなく、フォローを入れる為に

※※※※※※※※※※※※※※

「何か…余計な事しちまったかな?俺???」

事の急展開に付いていけないままに、呆然とするゾッドは
想像する以上に鋭かった不意打ちの蹴りに、思わず蹌踉めき膝下をさすっているのだが
ゼノンは怒った様な、呆れた様な顔をすると、ボソリと呟いた

「手………さっき火傷したでしょう?手を診せて…」
「ああ…いいってコレくらい、舐めときゃ治っちまうよ」
「いいからっ!!!ちゃんと診せてっっ!!!」

少しヒステリーの入ったその声に、ビクリと震えたゾッドが、渋々その手を差し出すと
ゼノンの柔らかい手がソレを引き寄せる、直ぐさま照射される薄い緑色の光り、温かな治癒魔法 …
自分が大怪我してるのに、他魔のソレに構ってる場合じゃないだろう?
ゾッドは慌てて手を引こうとするのだが、見た目からは想像出来ない程の強い力で固定されてしまう

「いいって…俺も土属性だ、確かにアンタより時間は掛かるが、自己修復出来るから…」
「………黙って、僕が受けるべき負荷を君が受けたのが、許せないだけだから…」

コチラを見ようともせず、火傷の痕を凝視するゼノンの様子に
自分の行為が、相手にとっては余計な手出しであった事を、改めて感じる
バツの悪くなったゾッドは、左手でバリバリと頭をかくのだが
結局は上手い言い訳も弁解も思い浮かばなくて、そのまま右手の力を抜いた

「………僕が君に庇われて、喜ぶとでも思った?」

先に静寂を破ったのはゼノンの方だったのだが、怒気を含んだソレに益々いたたまれなくなる

「いや…そんなつもりじゃねぇよ………」
「余計なお世話だよ、僕は女子供じゃないからね…ソレにピンガーラが怒るのも当然でしょう?
カタチはどうであれ、早めに発散させてあげた方が、今後の関係に禍根を残さないと思わない?」

そうだ…あのガキは自分の攻撃が、ゼノンに当たらないと言っていた

普段ならそうだろう、だけどゼノンは直前に防護シールドを解除していた
完全に頭に血が上ったガキは、全然気がつかなかったみたいだが
簡単に避けられると思った自分のソレが、もろにゼノンに当たれば、ガキは驚いただろうし、負傷者に無茶をした自分に慌てふためいただろう
ソコまで本気の贖罪の態度にも納得したかもしれない、今回の一件もソレだけで収束したのかもしれない

そう指摘されてしまえば…考え無しに飛び込んだ自分自身に、強い自己嫌悪を感じて
シュンと項垂れてしまうのだが、ソレでも何処かで納得出来ない部分もある

何で重傷者のゼノンばかりが、また生傷を増やさなければならないのか?

「………見たくなかったんだ…」
「えっ?」
「先生が弱いなんて思ってるワケがない、怪我してヘバッてるからとかも関係ねぇよ…
俺の前でまた傷ついて欲しくなかった…ソレだけだ…ソレだけじゃ駄目なのかよ…」

えらく元気のなくなった声で大男が唸るので、ふと見れば…不機嫌そうに揺れていた尻尾が、しおしおと力無く垂れ下がる
それから、ようやく上を見上げれば…何だか泣きそうな目をした鳶色の瞳が、じっとコチラを見下ろしていた

「エースに無茶苦茶に切り裂かれた傷も見ている…本当に元に戻るのか?逢えない間、マヂで心配していた…
心配していた俺の気持ちも、ちっとは考えてくれよ…先生…」

ココに来るまで、ゼノンを責めるつもりなど無かったのに、俺の口から出てくるのはそんな言葉ばかりで
上手く気持が伝えられなくて、そんな口下手な自分がもどかしくて

ヒーリング効果で痛みが引いた右手から、そっとゼノンの両手を外すと、そのまま病室を出ようとするのだが
そのままスルリと縋り付く様に、腰に回ってきたゼノンの手が、がっしりと俺を掴んで離さない
相手の思わぬ態度に狼狽えるゾッドを余所に、その腹筋に頬を擦り寄せたゼノンは
ふぅと溜息を吐きながらも、小さく声を殺して笑っていた

「………ソレはコチラも悪かったかもしれないね、ゴメン…君の気持ちまで考える余裕がなかった件は謝るよ、心配してくれた事も感謝するよ
せっかく見舞いに来てくれたんでしょ?もう少しココに居てよ、まだベッドから降りられなくて色々困ってるんだ、手助けしてくれるよね?」

相手の顔なんか見なくても解る、視界に入る彼の尻尾は、嬉しそうにバフバフと振られていたから…ホントに解りやすい悪魔だね

機嫌を直してくれたゾッドは、ゆっくりと僕の腕を解くと、背もたれをUPしたマットに丁寧に僕の身体を戻してくれる
ココの局員でもない上に、上級悪魔なんだから、そんな事はしなくてもいいのに
ピンガーラが破壊してしまった部屋の備品を、せかせかと片づけてくれている

勿論この病室にも端末は持ち込んでいる、邪眼治療の方からも外れているワケではない
先に回復したカリティとは連絡を取り合い、例の抑制薬の研究は続行中だが、僕だけが現場復帰が出来ていないのが歯痒くて仕方がない

でも…検査以外に局員も来ないこの病室は、気楽ではあるのだが、些か退屈だ
完全に自分のテリトリーではないだけに、何をするにも色々不都合があってね

だから…ゾッドに来てもらえて本当は嬉しかった、取り留めの無い話をするだけでも良かった
考えていたよりも、自分は寂しがり屋だったのかもしれない…と今回の件で痛感した様にも感じるからね

自分自身より強固な防護結界に包み込み、護っていた端末とサンプルを引っ張り出しながら
ふとそんな事を考えている自分に、ゼノンは苦笑する
通常なら自分の時間を優先して、孤独を愛する自分が、今回は随分気弱になった物だ…

こんな時くらいは他者に甘えてもいいのかもしれないね、本悪魔がイイと言ってるのだし

駆けつけた職員と部屋を片付けているゾッドの背を見ながら、ゼノンはそう思っていた



続く

えっ…何なのこの展開?何でいきなり親分が和尚を組み敷いてるの???
そう思った方も多いとは思いますが、何か先は読めてる様な…そんな感じでしょ
親分…この後どうなってしまうんだ?可哀想に…でもそんな鈍感な所がきっとイイ所だから
前回とは違って、殺伐としない、まったりエロを今回は目指したいと思ってマス☆


◆ピンガーラ カリティの末の息子=マザコン甘えっ子です

『メディカルセンター』の昔話に出てきた子供、ヨカナーンに飲み込まれていたあの子です、モブ増えすぎですよね…ははははは

膨れ上がった戦闘形態の方のイメージは、『ペプシの桃太郎CM』の鬼族に近い感じ
火炎系悪魔とのハーフなので、攻撃魔法全般はそっち系で土属性のヒーリングも使えます
ガキンチョバージョンは、女の子みたいな面をした小学生高学年の男子と言った所
どっちが本当の姿なのかは、読者様のお好きな方で良いです

『3×3EYES』のモブキャラ?【紅娘】の髪を黒くして、そのまま男の子にした感じ
あるいは『黒執事』のインドの皇子様【ソーマ君】の小さいバージョンでも可
普段は生意気なチビッ子ですが、怒ると身の丈3m越えの巨大魔獣になるの特性も【紅娘】と一緒です

ただ彼の場合、その幼い姿は、自分で成長を止めてしまっているようです
母親を護る為に強くなりたいと思う反面?何時までもカリティの小さくて可愛い息子でありたいと思う
【ピーターパン症候群】をガチで暴発させた、マザコン息子ですから(苦笑)

魔族なだけに、お母様の奔放な男関係をどう思って居るのかは…微妙ですが
何だかんだ言っても、自分をほっぽって、婿捜しの殺戮をしていた時期よりかは、ずっとマシと思って居る御様子

中級悪魔ながら混血児故のハイブリッド、戦闘タイプして理想的な肉体を持ってはいるのだが
直接的な戦闘は実は苦手で、言い訳がましく魔道士の道を選ぶヘタレ気味思考は
幼少期の寂しさのトラウマの裏返しかもしれない?

取りあえず何時も偉そうなヨカナーンは、大嫌いで気に入らない
ゼノン兄には…複雑な感情を持ちつつも、魔道士の先輩としては尊敬しているらしいです…(汗)


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あきゅろす。
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