[携帯モード] [URL送信]

【リクエスト・過去作品サルベージ】
◆『流刑惑星の楽園』2 鬼畜J×天使X R-18G 拘束・ブランディング有り注意

真っ赤な月が恨めしい…月明かりの射し込む大きな窓の下で
ゼノンは空にぽっかりと浮かぶ『女の月』を、忌々しげに見つめる
局員の全てを下がらせた文化局のサロンで、彼は一名で佇んでいた

ヴァルギブスの夜、年に数回ある赤い月の夜

生粋の魔族が内包する闇が、最も活性する特別な夜は
普通の悪魔にとっては…気持ちが昂ぶり、心地の良いものなのだが
変異悪魔…特に元は光の生き物であった堕天使達にとっては少々辛い夜だ

転魔したと言っても、光の部分の全てが、消え失せてしまうワケではない
生命維持に最低限必要な部分だけは、身体と心の奥底で生涯燻り続ける
勿論…だからと言って、悪魔が天使に戻る事はありえないのだが
その僅かに残った光の性質の為に、著しく体調を崩す者が多いのだ、この赤い月の夜は

個体差も有る…元々どちらの力もさほど持っていない下位の者は、影響も少ないのだが
上級天使だった者は…特にその反発作用に苦しむ事になるため
早々に引き籠もってしまう事が通例だ、赤い月がその姿を完全に隠すまで

元々高位天使だったゼノンにも、勿論その影響は色濃く出るのだが
彼の場合は…体調が悪くなる程度では済まされない
この強い痛みと渇きにも似た焦燥感は、呪縛の様なモノなのだ
ソレを彼に、直接刻み込んだ者の強い支配欲と言うべきか………

「………お待たせ、遅くなってゴメンね」

少しも悪いとは思っていないであろう声が、突然耳元に降りかかる
学者のゼノンであっても、通常であれば、そう易々と背後を取られたりはしないのだが
反射的に振り返る前に、背後から延びてきた手がやんわりとゼノンを抱き締めた

「もう息が荒いね、身体もこんなに熱い…そんなに待ち遠しかった?」

暗闇から浮き上がる様に出現したジェイルは、着衣の上から胸を弄り
スンスンとゼノンの耳元の臭いを嗅ぐと、過敏になった首筋を舐めあげる
ゼノンは反射的に身体を硬直させ震えた

それでも…クスクスと笑う相手は、此方の都合など一切考えない
緩慢とも思える程にゆっくりと、ゼノンのジャケットのボタンを外してゆく

襟の詰まったデザインの上着の前が、すっかりはだけられてしまうと
途端にツンと臭ってくるのは、消毒液と真新しい鮮血の血臭
首に巻き付いた包帯では、その出血を止める事が出来ないのだろう
既に半分以上赤く染まっているソレは、意味を成している様には見えない

「自分で手当なんかしたって無駄なのに………解ってるんでしょう?」

鋭い爪の生えた指が、体液に湿ったソレも丁寧に外してゆく
ジェイルに好きにさせながらも、ゼノンはダンマリを決め込み何も答えない…これも何時もの事だ

やがて…金色の目の視界に入ってくるのは、赤黒く発光する幾何学的な模様
首に巻き付いている刺青は、かつてジェイルがその肌に刻みつけたモノだ

火炎系悪魔であるジェイル自身の血を染料に彫り込まれたソレは、特殊な呪詛を含んでいる
ヴァルギブスの夜の度に浮き上がるソレは、チリチリと肌を焼焦がし、傷口をこじ開ける

かつては天界人であった事を「裏切り者」である事を、未来永劫忘れさせない為に
そして…身体を開き悪魔に堕としてやったのは、自分である事を主張するかの様に

剥き出しになったソレを、満足気に見下ろしたジェイル
ざらついた舌でペチャペチャとそれを舐め回す、ワザと卑猥な音をたてて
赤く腫れ上がり熱を持つソレをしゃぶられ、牙で傷口を更にこじ開けられるのだから堪らない

我慢しきれなくなったゼノンの口から、ようやく短い呻きが漏れ始めるのだが
血の臭に酔っているジェイルには、その声すらも心地良くて仕方がない
そのままするりと下に移動した手が、ゼノンの前をくつろげてその中を探れば
生温かいソレが、緩く勃ちあがったナニが指先に触れてくる

「刻んだ時と同じくらい痛い筈なのに…気持ちがいいの?いやらしくて可愛いね………」

小馬鹿にされた様な軽口に、鳶色の瞳がギロリと相手を睨んだ
一体誰のせいでこんな事になったと言うのだ………

通常は厳重に隠して居るこの首の呪縛も、赤い月の夜だけはどんな目くらましも無効だ
まるで虜囚の首輪の様なソレは…それだけでも恥だと言うのに
一緒に彫り込まれた神の隠し名…転魔した今となっては憎いだけの相手の名を
誰にでも見える場所に、くっきりと刻まれているのは、屈辱以外の何者でもない

『神の犬』…葬り去りたい過去の忘却さえも、この男は許してはくれない…
そして厄介なのは…紅い月の夜の度に開くその傷は、ジェイルにしか塞ぐ事が出来ないのだ

「………僕は君が大嫌いだ」

忌々しい呪詛で縛り付けながらも、奇妙な程に優しい手管に身体は勝手に答え始める
既に熱に濡れた息の下から絞り出す恨み事に、ジェイルはニヤリと目を細める

「こうしてると思い出すよ…あの惑星での事を、天使のアンタも悪く無かったけど
悔しそうに俺を見るアンタはもっといい…嫌いでいい、恨めばいいさ俺の事を…
ソレだけでその面が見られるなら悪くないからね」

アンタの哀しみはとても良い匂いなんだよ…悪魔であっても、神紛いの天使であっても

「さあ…俺にどうして欲しいゼノン?リクエストには応えてあげるよ………」

赤い月の夜はアンタと俺の契約の証、ヴァルギブスの狂宴は始まったばかりだ

※※※※※※※※※※※※※※

「んぐっんっーんんっーーー !!!!」

口に押し込められた枷を噛みしめ、僕はただ泣き叫んだ
首筋に当てられた彼の爪は火箸の様に熱く、僕の首筋の肌を焼きジワジワと焦がしてゆく

「ああ…駄目だよ動いたら、せっかく綺麗に輪郭線が引けたんだから…
仕上げの色入れで歪んじゃったら意味がないだろ?」

一見優しげに見えて、ドロリとした毒を含んだ笑みを浮かべた悪魔は
ガタガタと震える僕の頭をヨシヨシとなで上げる、僕がこの惑星の動物たちしてやるソレの様に
ガチャガチャと軋む鎖の余剰と拘束具が、またキツクなった様に感じるのは気のせいじゃない
目の前の金色の目を見れば…そのくらの事はもう解る様になってしまった

僕の首には…もう血塗れの輪郭線が出来上がっていた
まるで咎人のソレの様にぐるりと首を一周する様に
彼がその指先で3日も掛けて彫り上げた、嫌がり苦しむ僕を押さえつけて

それでも…その痛みにはまだ耐えられた
さっきの【色つけ】とやらに激痛比べれば我慢出来る範囲だった
これから与えられるであろう、耐えがたい苦痛に怯えながらも
ただ震える事しか出来ない僕を見下ろして、悪魔は言った

「そんなに嫌?泣くほど痛い?それならソコから逃げ出せばいい…」

そうだ…彼の、この悪魔の言う通りなんだ…
酷く丈夫な鎖と拘束具で、もう何日もココに繋がれているけれど
その気になれば、引き千切る事も可能な筈なのだ
まだ残っている今の力と体力の全てを、かき集め爆発させれば…

だけど…ソレは出来ない、出来る筈もない…………

背面でソレを抱える様なカタチで固定された両腕も
同様に淫らな形に大きくこじ開けられた両脚も、満足には動かない
幾重にも肌の上に重なる革拘束と鎖に、全身を締め上げられる格好で
僕は完全に【彼女】の幹に吊られ括り付けられているのだ、僕の大好きなあの【古樹】の根元に

呼吸をも阻害する程に締め上げる拘束は、僕の肉体の上だけではない…
連結された鎖は、彼女の幹をもギチギチに締め上げていた、所々に無残なアンカーを打ち込まれて
僕が痛みに苦しみ身じろぐだけで、彼女の幹をも大きく揺さぶられ悲鳴を上げるのだ
まるで僕らと同じ血液が流れている様にすら感じる、黒赤い樹液をその開口部分から滴らせて

もし僕がこの戒めから脱出しようと、持てる力を全解放すれば
その前にこの脆弱な古樹は引き裂かれ、即座に崩壊してしまうだろう
半ば手放しかけた意識下でも、それだけは解る………だから出来ない………

「天使のうちに彫り込んだ方が、発色もいいんだよ…転魔した後にやるよりもね…
綺麗に出来あがってから、ちゃんとシてあげるから、もう少し我慢してよ………」

天使うちとか転魔とか、彼の言っている事は、何一つ解らない
ちゃんとするって何の事?コレ以上酷い事をされるのだろうか………
彼が「悪魔」と呼ばれる存在である事だけは、何となくだが理解出来たけれど

僕はただこの惑星とココの生き物を『罪の樹』を護りたいだけなのに
何故こんなにも酷い目に、理不尽な目に、遭わされなければならないのだろう?

他の侵略者達とは違うから…『罪の樹』の言葉がわかる等と近づいてきたこの男を
何故無防備に信用してしまったのだろうか?気を許してしまったのか?

「まだ動く元気があるのがいけないのかな?
もう少し遊んであげれば、お利口に我慢出来るかな?」

ニマニマと笑う彼の姿に、ゾッとした僕は、唯一自由になる頭を振り拒絶するのだが
彼はそんな僕の要望を、聞いてくれる筈も無いのだ
僕の側を離れると、少し離れた場所に放り出してある、トランクの中身を探り始める
何某がを選び出した彼が、此方に戻ってくる様子を、ただ見て居る事しかできない

「昨日は…何番まで挿ったかな ?今日はもう少し大きいのを挿れてみようか?」

彼の手に握られている金属質のソレは、昨日のソレより少し大きくて長い
泣きながら嫌がり身じろぐ僕に構わず、引き気味の腰を捕まえると
下腹部を戒めているベルトを外してしまうのだ
抑えを失った昨日のソレが、ゴトリと足下に落ちた…僕の中から滑り落ちる様に

体液にまみれて、ぬらぬらと光るそれはまだ動いて…足元に転がってゆく
血行不良ですっかり冷たくなり、ジンと痺れている僕の脚に当たりながら
足先に感じるソレのぬめりと生温かさと質感に、どうしようもない羞恥心を覚えた僕は
彼の顔を見ない様に目を反らすのだが、彼はそんな僕を愉快そうに眺めて言った

「駄目じゃないか…俺が抜いてあげるまで、咥え込んでなきゃ駄目だって最初に言っただろう?
でも…随分広がったみたいだねぇ、この調子なら最初も痛くないかもね………」

粘着質のモノを追加され塗られているから、痛みは感じないのだが…気持ちが悪くて吐き気がする
ひくつくソコを確かめる様に、彼の指がねじ込まれ中を探ってくるから

「ふぅんっんっんんっ…んんっ」

自分の声とは思えない程に、甲高い声が枷の隙間から漏れる
何の為にこんな事をするの?何で?駄目だ…何かを考えようとすると頭が割れそうに痛い

最初にソレをされた時は…ただ痛くて、哀しくて、彼女の幹を折ってしまいそうな程に暴れたけれど
徐々に別の感覚が、身体を支配してゆくのが解るから、怖くてたまらない

もう嫌だ…もう僕に触らないで、お願いだからこれ以上、僕の身体を勝手に作り替えないで………

「やっぱり、まだ後ろだけじゃイけないよね?
少しだけ優しくしてあげるけど、勝手に堕天しちゃ駄目だからね…
我慢出来なかったらお仕置きするよ、酷い目に遭いたくなかったら我慢してね」

だから………君の言ってる事は、何一つ解らないんだよ…僕には

でも…彼がこれから何をしようとしているのかは解る、僕の嫌がるアレをする気だ
動かない身体をねじり、何とか逃げ出そうとするのだがどうにもならない
その間もぐちゅぐちゅと僕の中を指で掻き回す手を、少しも緩めてはくれない

彼はストンと僕の前に身体を屈めると、その赤い唇が僕自身に触れる
温かい舌が僕のソレに触れられるだけで、僕の身体は跳ね上がる
背中に何かが駆け上がるこの感覚が怖くてたまらない

嫌だ…お願いだからもう辞めて…許して………

首を振り抵抗しても何の意味もない、震える僕の脚を押し広げると
柔らかな唇は完全に僕の前を含んでしまうと、くちゅくちゅとソレを吸い上げる
その舌で嘗め回され、甘噛みを繰り替えされてしまえば、我慢なんて出来ない

あっという間に立ち上がる前は、僕の意思に反して喜んでいると、悪魔は言うけれど
そんな事は絶対に違う、身体だけだ…心はこんなにも痛くて、背徳感にギシギシと軋む
無理に強いられる行為と、恥ずかしさに…僕の心は折れてズタズタだ、屈辱感しか感じない

「優しくしてやってるだろう?いい加減に素直に感じたらいいのに…」

尚も泣き喚く僕を、あやして宥めているつもりだとうか?
鋭い爪の生えた指が、さわさわと僕の尻と太ももを撫で回すのだが
快楽を恐怖にしか感じなかった僕にとっては、ソレもまた拷問でしかなかった

こんなのは嫌だ…誰か…助けて、誰か…

封じられた口から、ぐもった声と唾液を垂れ流しながら
天使はただぽろぽろと大粒の涙を流す、何時終わるとも解らない行為に絶望しながら

※※※※※※※※※※※※※※

そうだ…その日も…あの知的生命体が、しかもかなり大規模な攻撃を仕掛けてきた
最近は直接的に剣を交えるのではなく、戦艦の大砲で僕を狙ってくる
惑星の住人達が巻き込まれる危険性を考えれば、彼等を地上には下ろせない

僕には翼は無いけれど…空を飛ぶ事くらいは、最初から出来たから
成層圏に近い上空で戦斧を振るい、船ごと敵を殲滅するのだけれど
空中戦が増えた事は僕にとっては救いだったかもしれない…
戦艦ごと壊してしまえば、彼等の断末魔も聞こえず罪悪感も和らぐから

この頃の僕は酷く疲れていた…もう無駄な殺戮はしたくは無いのに

いくら追い払っても、湧き出る様にやってくる彼等にうんざりしていたのだ
今はまだ僕の方が強いけど、回数が重なれば此方もダメージを喰らう事になる

ようやく諦めてくれたのか?一斉に退却しはじめる船隊と、敗走兵を見送りながら
僕はヨロヨロと地表に降り立つと、【罪の樹】の元に向かった、仕事はまだ終わらない…

一応樹木の周囲には、動物避けの結界は張ってあるけれど
頻繁に戦闘状態に陥る僕の留守に、果実を狙う者達も増えたから
休む前に様子を見に行かなければならないのだ

鉛の様に重い身体を引き摺って、肝心の【古樹】の元に辿り付いた僕は愕然とした

誰かが居る???消滅した僕の結界の替わりに、誰かが新たなソレを同じ場所に張っている
そして…食い散らかされた果実の残骸が、樹木の下に散らばっているのが見えた

誰だっっ誰がこの「罪の樹」の果実を口にしてしまったのだろう?
初めて果実を盗まれた事に、動揺を隠せない僕の耳に、至って軽い口調の声が振ってきた

「随分ゆっくりの御帰還だったねぇ、天使さん?
待ちくたびれちゃったから、勝手に休ませてもらってるよ」

すっかり果肉をしゃぶり取られてしまった芯が、ぽとりと目の前に落ちてくる

その先を見上げれば、古樹の一番下の太い枝の上から、垂れ下がる縞々の尻尾
酷く禍々しい雰囲気の細身の男が、大樹の上で長々と猫の様に身体を横たえていた

黒一色の衣装はタイトなデザインなのだが、肌の露出も多くて目のやり場に困る程で
赤と黒に縁取られた金色の目が、此方を見下ろしている
【罪の樹】からもぎとった赤い果実を、しゃりしゃりと齧り付いていた

「………食べてしまったんだね、その果実を………」

この惑星の生き物では無さそうな男が、何故この場所に居るのか?
簡易結界とは言え、僕のソレが易々と破られたのは何故か???
混乱する頭は冷静さを失ってゆき、怒りにもにた感情が沸き起こる
自分の絶対的なテリトリーで、好き勝手をされている事実に苛立ちを覚えているのか?

わなわなと震える僕の様子など、相手は問題に思ってないのだろう
大型の猫の様なその男は、パタパタと尻尾を振りながら更に続けた

「あれ?駄目だった?俺はこの惑星の生き物じゃないから、別に問題ないでしょう?
それに【彼女】が、食べて行けって言ったんだよ、俺にさ
世話をしてくれるアンタが、全然食べてくれないのが哀しいからって
アンタの結界を内側から解除して、俺をココに招いたのはこの大樹だよ………」

サラリと伝えられた衝撃的な話に、僕は目を見開き男の顔を凝視する

「そんな…そんな馬鹿な事が………」
「俺が信じられないなら、彼女に直接に聞けばいいだろう?
アンタの霊力のレベルなら、樹木や植物と話す事くらい簡単だろう?」

男はニヤニヤと笑いながそう答えたが、僕は言葉に詰まってしまい思わず下を向いた

「………聞こえないんだ………」
「うん?何が???」
「この樹の言葉だけは、僕には聞こえないんだよ………」

絞り出す様に発せられたその声は、蚊の鳴く様に小さくて、酷く哀しげで、消え入りそうで
排除すべき侵入者の前だと言うのに
泣きそうな表情をする天使の様子に驚いたジェイルは、ストンと彼の目の前に飛び降りた

「話が通じない化け物って聴いていたけど
そういうワケじゃ無さそうだね…俺はジェイル…アンタの名前は?」
「名前………名前なんて、そんなものは僕には無いよ…
この惑星で呼んでくれる者は居ない …」

※※※※※※※※※※※※※※

略者達と姿形は殆ど変わらないのに、何処か違う雰囲気も持っているその男を
完全に信用したワケではないのだけれど

『罪の樹』が自己意識を持っていると言う話だけは、信用出来ると感じた

他の植物や生物達も、僕が操る様な、明確な言語体系は持たないけれど
彼等が何を感じて、何を訴えたいのかぐらいは感じ取る事が出来るから

ところが…【罪の樹】のソレを僕は感じる事が出来ないのだ
意思疎通が出来ないのは【この樹】だけなのだ…この惑星上では
だから…この樹の【番人】だと言うのに、しっかり面倒を見きれていないのだ
他の生き物達の様に、事前に状態の全てを察知する事が出来ないから

【罪の樹】だけが自己意識を持たない…そんな事は絶対に無いと感じていた
だとしたら…問題は僕側にあるのだろう、それを受け止める能力が元々無いのか
何らかの形で、その部分が壊れてしまっているのだろうか?
いずれにしても…僕にとっては不都合で、愉快な話とは言いがたい

なのに…外部から来たと言うこの男は、いともたやすく【罪の樹】の声を聴いたと言う

それも【罪の樹】が…いや【彼女】が、僕の結界を内側から開けただなんて
俄には信じられなかったけど………
他の事はともかく、自己の結界や封印に関しては自信があった…
他者に破られた事なんて、今迄一度も無かった

しかし内側からの結界の解除は可能だったのは確かだ、今回の彼女に施したソレに関しては
戦闘に使う力を残したくて…内側に対する鍵を簡略化したモノを施していたから
植物の彼女にソレを解除出来る力と、意思があるなんて思っていなかったから
そして僕の封印は確かに解除されていたけど、外側から強引に破壊された痕跡は無かった

招き入れた僕の庵の中で彼に、自家製のお茶を出すと
キョロキョロと辺りを見回していた相手は、僕に尋ねてきた

「アンタ、ここで一名で住んでいるの?家族とか?仲間とかはいないの?」

そんなごく当たり前の質問が、何故だか心にチクリと突き刺さる

茶器を傾けたままの手が止まり、表情が強ばっているのが、自分でも解る
そうだ…特定の生物個体が、一個体で存在する事の方が異常な事なのだ
群れやツガイでなくとも、同等の個体が、接触可能な場所に複数存在するのが自然な事だ

この惑星の生物も例外ではない…僕とあの【罪の樹】以外はね…

「ああ…もうずっと独りだよ、何時からココに居るかも、解らないくらいに」

以前はそれに疑問を持った事など無かったけれど…
君達が来る様になってからだ、自分の在り方に疑問を持ち始めたのは…
何故僕は、僕とあの樹は独りでこの惑星に存在するのか?その意味は何なんか?

もしかしたら…その答えを【彼女】が知っているのではないだろうか?

そう思えばこそ、彼女と明確に意思疎通が出来ると言うこの男を
この場所に引き留めずには居られなかった…そして単純に話し相手も欲しかった

「見た所、翼も無いみたいだけど…天界で何かをやらかしたの?」
「翼?何の事???僕に翼なんて無いよ、最初から…それに天界ってなに?
何だか君は質問攻めだね、こっちも聴きたい事は沢山あるけれど
僕はただの管理者だよ、この惑星を護る為だけの存在
そしてあの樹の果実を、ここの生き物が食べてしまわない様に見張る者だよ」
「ふ〜ん…あの樹が説明してくれた通りなんだ」

淡々と答える僕に、男はまた【彼女】の話を絡めてくる
【彼女】が何を思っているのか?何を話したいのか?それが聴きたくて彼を足止めしたのに
この胸の奥から迫り上がってくる、嫌な気持ちは何だろう?

「………僕からも聴いていいかな?君達は何者で、何故この惑星にやってくるの?
他にも条件の良い惑星なんていくらでも有るのに、ここに固執するのは何故???」

出来るだけ平常心 を持って男に切り返すと、彼は幾分困った様な顔をしながら言った

「まいったな…天界も解らなくなっている天使様に、どこから説明したらいいのやら
長い話になるし…あんまり面白い話でもないかもしれないよ、それでもいいのなら………」

と前置きをされて始まる話は…二つの世界の確執の説明は、確かに長かったけれど
他者との会話に飢えていた僕には、少しも苦痛には感じなかったのだが
ただ外の世界を知らない僕にとっては、その全てが荒唐無稽な夢物語の様に感じた

僕は認識していなかったけれど
この世界には天界と魔界と呼ばれる二つの勢力があり、常に争い殺し合いをしていると言う
そして僕は天界側の種族で、彼や侵略者達は魔界側の生き物らしい
更に悪い事に、その二つ種族の戦闘地帯にこの星は浮かんでいると言うのだ

魔界側の作戦を円滑に為るための補給基地として、この惑星に砦と街を作ろうと降り立った連中が
白い姿のアンタを見かけて「敵」と勘違いした、だから攻撃してきたそれだけさ

掻い摘まんでそう説明されれば…一連の出来事の説明はつき、理解は出来たのだが
だからと言ってこの平和な惑星が、戦争に巻き込まれてしまう件はとても納得できなかった

「何の関係も無いこの惑星に、君達の災いを持ち込まれたら困るよ」

とほんの少し声を荒げた僕がそう切り返すと、男は笑って答えた

「だったら…アンタも悪魔になってしまえばいい、天使はね悪魔にもなれるんだよ
悪魔になって、この場所と住んでる連中を支配する権限を得る
そうすれば、今迄通りにアンタはココに居られる、何も変わらないよ
それに…こんな寂しい場所で独りきりで居るより、外の世界も見てみればいい
俺の仲間になって魔界に行った方が、ずっと良いと思わない?
大丈夫、アンタが殺し回った悪魔の件については、俺も取りなしてあげるから………」

アンタの大切な【彼女】もソレを望んでいるよ
「永いこと独りきりで、寂しそうなアンタを見て居られない」と言ってね
だから【彼女】は俺をあの場所に呼び込んだんだよ、自分の意思でね…

また【彼女】の話か…やはり胸が痛んだ、だが僕が護るべきは【彼女】だけではない
この星の全ての生き物を、外部の力から護る義務と責務が有る
そう易々と、悪魔とやらになれるとは言えないのだ…言えるワケもない

混乱する頭を抱えて、完全に黙ってしまった僕の側にスルリと近づくと
自分を悪魔だと名乗った男は、背後から僕の肩を抱きゆっくりと囁く

「ホント…ゼウスの分身かもしれないって、疑われるだけの事はある
アンタはこの惑星のカミサマみたいな存在なんだね………」

ゼウス? あれ?その名前は、以前、何処かで聞いた事がある様な気もする…
僕はぼんやりと霞の掛かった記憶を、過去の思い出を、何とか遡ろうとするのだけれど
頭の奧が…脳幹の辺りが急にズキズキと痛みだすのだ、アレどうしたのだろう

ゴロゴロと喉を鳴らす音は、彼が発しているのか???
妙に心地の良いその振動と音、自分と近い姿の彼の肌の暖かみを背中に感じて
安らいでいる自分も居るのだ、ずっとこの星で独りきりだったから、寂しかったから

このまま彼の誘いに載って、魔界とやらに行くのも悪くないのかもしれない
だけど直ぐに決める事は出来ない…「少しだけ考える時間をくれないだろうか?」
振り返り喉元まで出掛かった言葉を、僕は口にする事は出来なかった

深々と刺さった麻酔針は、的確に僕の頸動脈を刺し貫いていたから

声も立てられずに狭くなってゆく視界、そして遠のいてゆく聴覚の向こう側で、彼は無慈悲に僕に言った

「考える時間ね…あげたいけれど、今は無理なんだ、アンタを横取りされたくないからね」

時間がない?横取り?何の事???何も理解出来ないまま、僕は深い闇に落ちてゆく

※※※※※※※※※※※※※※

自分も殺戮に興じられると思っていたのに、召還に応じてみればツマラナイ依頼だ
最初にダミアンからそれを聴いた時は、単純にそう思った

はぐれの熾天使の一匹や二匹、何時もひっついてるゾッドにでも捕まえられるだろう?
ワザワザ俺を呼び出す意味が解らない、そう思っていたけれど

でもそれがタダの熾天使じゃなくて、【神の分身】とか言われている奴等と言うなら話は別だ

きっとソイツは強いだろう?何たって神の廉価版みたいなモノなんだから
その男との戦闘は間違い無く楽しいだろう、血みどろの殺し合いが楽しめる

最近は使う事もなく、錆び付き気味な攻撃魔法を炸裂させて
肉を切り裂き、焼き払う高揚感も得られるはずだと思っていた

そして…指定された惑星に飛んでみればどうだろう?

問題の目標は簡単に発見出来たのだが、本当にあの天使で間違いないのだろうか?

惑星の成層圏にポツンと浮かび佇むその姿からは、確かに為体の知れない力を感じるが
特に変わった様子はなく、普通の戦闘タイプの天使にしか見えなかった

ゼウスの分身と言う事は…その姿も似通ったモノだと想像していたが
その天使の姿は、そのイメージからはかけ離れていた

歳の頃は俺達とそう変わらない程に若く見えるし
天使にしては…あまり手入れの行き届いてい?
少しぼさぼさのハニーブロンドの前髪の下から覗く目は
何処か物憂げで…飄々としていて、半分寝とぼけた様なそんな印象を受けるのだが

魔界側の戦闘艦が到着すると…その表情が一変するのが見える

一気に爆発する彼の霊力の波動が、ビリビリと辺りに拡散する
さっきまでの穏やかさは、一体何処に消えたと言うのか?
その手の中に突然出現した巨大な戦斧を振り回し、迫りくる砲弾を次々と薙ぎ払う

銀白に光り輝くその姿は、高慢な程に神々しく、力の波動は確かに神のソレそのもの
敗走兵達がゼウスと見間違えるのも、無理はないと思われた

しかし…その天使は、何かがオカシイのだ…何かが歪んで見えるのだ

戦闘状態だと言うのに、彼は霊力の増幅器官である筈の「翼」を出す気配はない
加えて、その力の波動が酷く不安定で、揺れ動いている様にも感じた
まるでその強大な魔力制御が上手く出来ない、上級悪魔の子供の様に

そして何よりも目についたのは、はためく衣装の端から見え隠れするモノ
その天使の身体に巻き付いている、アールデコ調の模様だ

刺青?いや天界人には、自らソレを肌に施す風習はなかった筈だ
となれば…アレは何かしらの封印なのか?それとも罪を犯した者に対するペナルティか?

だが仮にそうだとしても関係ない
霊力の一部を封印されていても、その状態で魔王軍の一個中隊を手玉に取るなら
この天使の本来の霊力とは…一体どれほどのモノなのだろうか?
と思えば背中がゾクゾクする、久しぶりに見つけた強敵だ…
奴の捕縛指令など知った事ではない、アレは俺のモノだ俺の獲物だ

幸いダミアンは俺には甘い…例え命令違反をしたとしても
手に余ったから殺してしまったとでも弁解すれば、それで許されてしまうだろう

ただ戦いたかったその男と、思う存分殺し合いがしたい…剥き出しの戦闘本能に火がつく

虎の子の戦闘艦を繰り出してまでの作戦だと言うのに…偵察部隊の敗色は既に濃厚だった

…もし俺がデーモンやエースなら、そのまま戦場に躍り出て割って入るだろう
味方に加勢する事を第一に考えるだろうけど、俺は敢えてソレはしなかった

ダミアンの私的な指令で動いている俺は、彼等の敗走を助ける義務はないからだ
むしろ、たった一匹の天使に手玉に取られるアイツ等が悪いのだ、退却くらい自己判断出来るだろう?

何よりも、既に始まったソレに途中参加するよりも、俺はアイツとサシで仕切り直したかった

そう感じたジェイルは、敢えて空中戦を無視すると
そのまま警護が手薄になっている惑星の地表に、降り立つ事になるのだが
途端に感じるのは、その惑星の持つ強い違和感だった

何だ?この世界は?やたらと弱い生き物で、あふれかえっている
恐らく他の世界では秒殺されてしまいそうな程に、脆弱な連中ばかりだ

痛みも苦しみも知らないであろう生き物達は、警戒心が無い
最初こそは、間の抜けた無防備な面で、俺を見上げたが
ほんの少しの殺気を出して、威嚇してやれば、何と言う事はない
初めて感じたであろう【悪意】に怯え、蜘蛛の子を散らす様に一斉に逃げ出す
物陰でガタガタと震えて、此方の様子を伺っている、ただソレだけなのだ

俺はこういう連中が大嫌いだ、妙に勘に障るのだ昔から

その消極的で臆病すぎる態度と視線が、自分の生存本能まで丸投げの奴等からは
自力で生きる意思も、最低限度の意地も感じない、その偽善的な気配に苛つくからだ

ところが…そんな緊張感の薄い世界に、唯一禍々しい気配を放つ生命体が居る事に、俺は気がついた
そしてその気配はソイツの言語で俺を呼んでいた、甘酸っぱい芳香を放ちながら

戦艦と戦う【目標】が地表に戻ってくるには…今暫くの時間が掛かるはずだから

ジェイルがそう思った矢先に、上空では派手な閃光が上がり
戦斧で真っ二つにされた戦艦が、爆発を繰り返しながら、燃え尽きるのが見えた…
しかしそれも計算ずくなのだろう、あの狡猾な天使の
動力を失った船の残骸は、惑星の引力に引かれて墜ててはくるのだが
大気圏に突入する前に、完全に焼き焦げて消失してしまうだろう

この生温い世界には損害など与えないのだ、その破片の一欠片も降り注ぐ事もない

それでも…ジェイルは、慌てる事はない、まだ時間に余裕はあるはずだ
誘われるままに、その気配の元に向かって歩き出した、そしてその先には…
強大な霊力を持ちながらも、何処か禍々しい気配を放つ古樹が…枝葉を揺らして佇んでいた

本来の寿命など、とうに越していると思われるその幹は捻れ、節榑立ち
大振りの枝の上に、満開の花と、かぐかわしい果実を揺らして彼を待っていた

自らを特殊な樹木であると告げた【彼女】は、ようやく現れた、自分の声が聴けるモノに語りかける
呼びかけに答えた悪魔に必死に縋り付く、叫びその哀しみを訴える

例えそれが侵略者であろうとも、敵対勢力であっても
彼女にとっては最早どうでも良い事だったのだろう

この惑星に流刑され、捕らわれた【哀れな創造主】の孤独な運命を
彼の解放を望んでいる事を…譫言の様に繰り返すのだ、まるで熱病に冒されたモノの様に

樹木の話をただ黙って聞いた悪魔は、そのまま彼女の木肌に指を這わせると、優しく撫で上げた

ジェイルは彼女の嘆きにも訴えにも、明確には答えない…答えてなんかやらない

だが…今回の仕事は自分に振られて、良かったと確信していた、他の奴になんて譲ってやらない
殺し合う前に面白い話を聴けたモノだね、ならば…ただ殺し合うのも勿体無いじゃないか

戦闘と言う正攻法だけで、相手を這いつくばらせる事だけが、全てではないなからな…
神に近いその男を誘惑するのもまた、闇の生き物には、悪魔にとっては刺激的な事だから

この【樹木】の話が本当なら、そのお綺麗すぎる天使様をグチャグチャに苛むのも悪くはない
俺のヤリ方で身体も心も真っ黒に染め上げて、闇に突き堕とすのも愉快に違い無いからだ

薄暗く、火炎系悪魔らしいマグマの様なネットリとした笑みに
何かの悪い予感を感じたのだろうか、樹木の枝先がブルブルと震えたが

回り始めた歯車は止められない…作りモノの楽園の崩壊まで後少しだ………




続く

多分3回で終わるはず…絶賛長文化しつつありますね、毎度の事ながら…
かなりマイルドに修正したつもりですが、天使和尚様が可哀想すぎます
御本尊様とX宗の皆様にスライディング土下座 すみません・すみません・すみません

奇特な方はもう気がつかれているかも?全体的なモチーフは
有名な「聖セバスティアヌス」の処刑シーンのアレですね
⇒長くなるので詳しくはググってください

首の刺青シーンは、本物の刺青を入れる時のソレではなく
「ブランディング」と呼ばれるモノの方のイメージを採用しています
読者様・御自身に検索して頂くと…衝撃映像に繋がる恐れがあるので補足説明
↓↓↓↓↓
熱した針で肌を焼いて人工的にケロイド状態に、好きな図案を肌に刻み込む手法です

流石にやった事はないけど、火傷の経験はありますから勿論痛い…
多分刺青より絶対に痛いでしょうし、そういう行為は好きじゃないのですが

火炎系悪魔様が自分の爪で傷を彫り込んで、そこに自分の血を流し込んで作るソレは
「ブランディング」の方に近いかな…とも思いまして(~o~)(~o~)(~o~)
+ヴァルギブスの夜の度にソレが開いて疼く「聖痕」設定は、管理人の趣味です

それと…今回の堕天現象ですが、本物のナニを挿入されて
直接中に出されてしまわない限り?セーフとか?ワケのワカラン仕様になってマス

だってほら…首のアレが彫り終わるまで、天使でいてもらわなきゃ困るし
ちょっと和尚の堕天は、普通のソレとは違う感じにしたいので
かなり可哀想だけど、もう少し頑張ってもらう事に…永く苦しめてゴメンなさい

グズグズドロドロのまま、其の三に突き進みますが…
この酷すぎるノリについて来られる方のみ、最終章をお楽しみ下さい


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!