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【金色の時間】
やせ我慢もつらいんです 2 【赤い砂】(完)

纏まったの休暇、屋敷に戻るのも久しぶりだ

要らないモノを処分しようと、ガラクタだらけの倉庫を整理する
けど…イザ処分しようと思うと、なかなか思い切れないもの
使わなくなって久しいモノばかりなのに
手にとれば…それに詰まった思い出の様なモノが
まるで昨日の事のように頭をよぎるので、整頓するつもりが中々進まない

気がつけば…昔の雑誌や譜面を読み漁ってる自分にカツを入れる
このままモノが溢れれば…個悪魔的な事に文句をつけるつもりは無いが
ゼノンの屋敷やデーモンのコレクションルーム?と同じ状態に…
流石にソレは避けたい………と思う

ガサゴソと整頓を再開すると、棚の中からコロコロと転がり出るモノが
落下する前に慌てて受け止めると、それは古びた砂時計
バロック調の過度な装飾が施された真鍮の外枠の内側に、
仄かに発光する赤い砂を閉じこめたガラスが収まっている

「こんな所にあったのか…なつかしいな…」

サラサラと下に流れる砂を眺めながら、懐かしいその音を聞く
特殊なその砂は、よく見れば個々が極小の針の様にとがっており
金属質な美しい音を小さく立てるのだが、かつてはコレに苦しめられたモノだ
この身を流れる血が、完全に悪魔のソレに置き換わるまでは…

※※※※※※※※※※

久しぶりの休暇だと言うのに、連れてこられた魔王宮
堅苦しい謁見が終わった途端に、ネコナデ声を上げるダミアンは
相変わらずの過保護っぷりを炸裂させる、だから俺は愛玩動物じゃないから

過度のスキンシップに、少々げんなりしつつも…
ココは我慢我慢と自分に言い聞かせる

決して、ダミアンの事がキライなワケでは無いのだが…
何時までも出会ったその時のまま、子供扱いされるのは…やっぱり苦手だ

一時期は成体に進化する絶望感から、半分八つ当たりの様に彼を避けた事
にも関わらず悪魔にしてくれた、感謝と後ろめたさ?からか?
以前の様に?ズケズケと強く言えなくなってしまった事もあるのだが

いい加減助けて欲しいと、同行者であるエースをチラリと見れば
久しぶりなんだから、少しは我慢してやれと苦笑いで返される

※※※※※※※※※※

ほどなく、職務に戻った皇太子の腕をすり抜け
同じ軍議に参加するエースとも別れると

待機と休憩と称して抜け出してきたのは、緑の溢れるアトリウム
ココの空気は少しはマシかもしれない…
隅に設えられたベンチの座り、流れる雲を見上げ小さく溜息をつく

誰も居ないここならゆっくり休めるかな?咳を出しても大丈夫かな?

誰にも内緒にはしているのだが…ここ数日変な咳が止まらない
他魔の目を、特にエースの目を気にしてやせ我慢はしているが…

少し激しい運動をすれば、肺の奥の方がズキズキと痛くなる
理由は解っている、多分…まだ置き換わっていない砂漠の民の血が
魔都の空気と反発しあっている【拒絶反応】だ

エースが自由に使っていいと言ってくれた、デスクの端末で自分でも調べた

それと耐性が極端に弱かった幼少の頃、長と衝突して砂漠を飛び出した時も…
同様の痛みを感じた、最もあの時は…もっと酷い拒絶反応で
何とか自力で砂漠に戻っては来たが、境界エリアで血を吐き気を失っている所を
長に助けられるというみっともない状態になってしまったが…

今回はあの時とは違う、血が完全に入れ替わるのに3ヶ月程掛かる
とダミアンは言っていた…だから…たかだか3ヶ月の我慢だ
それまでは誰にも知られちゃいけない、我慢出来ない痛みじゃない

コフコフと小さな咳をたてながも、背を丸めて横になれば少しは楽になる
緑が多い分?空気中の瘴気が少しだけ薄いような感じがする
なによりも、やわらかな日差しに温められた木彫が変に気持ちがいい

少しだけ眠らせてもらおう、ジェイルはうとうとと目を細める

「具合が悪そうだな…ちゃんとした場所で休んだ方がいいのではないか?」

不意に声をかけられ、ビクリと金色の目が見開かれる
慌てて飛び起きれば、同じベンチに金色の悪魔が腰掛けている
まったく気配を感じなかった…こんなに至近距離に接近されても
野生動物の本能で思わず後ずさり、毛がバチバチと膨れあがる

「ああ…そう警戒せんでもいいぞ、吾輩はデーモン、エースの同僚と言った所だ」

刑務所の外で、しかも単身で他魔に合った事が無かったジェイルは
唐突な出会いに、緊張気味だったが…エースの知り合いと聴いた瞬間
少しだけ安心したのか?威嚇の表情から力が抜ける
だが同時に、マズイものを見られたと言う思いの方が募ってしまったようだ

「エースの知り合いなの?」
「ああそうだな、ジェイルだったかな?お前の話も良く聴いておるぞ」

差し出された手に触れれば、確かにエースの気と臭いを感じる
ならばどうしよう…咳の事がこの悪魔からエースにバレたら…
きっとまた要らない心配を掛けてしまう

「言わないで…」
「ん?」
「咳をしていた事を…エースに言わないで」

心配かけたくないから…3ヶ月我慢すれば、血が入れ替われば治まるから
うつむき加減でそう懇願する少年は、酷く頼りなげに見えた

デーモンは薄く笑うと、マントで包み込む様にその細い身体を抱き寄せる
ビクリと震えるその背を優しく撫でながら
頬を支え上を向かせると、金色の瞳を見下ろし囁く

「では…こうしようではないか?吾輩は口止めの対価を頂く…それでよいな?」

宣言とともに、返事を待たずに深く重ねられる漆黒の唇
突然の口付けに、ジェイルは目を見開き一瞬身体をこわばらせるが
すぐに視界が霞んでしまいそうになる程の巧みなキス
力が抜け落ち、崩れ落ちそうになる身体を支えてやりながら、
さらに貪る様に中を掻き回し、濃紺の目がほくそ笑む

同時に肺の異物を回収しながら、治癒魔法を流し込んでいるのだが…
経験の薄そうなこの坊主には解らないだろう

誰に似たのか?意地っ張りな所は悪く無い、なるほど2名が気に入るワケだ

ぽかぽかと流れ込んで来る熱いモノ
それが何なのか解らないけど、ちょっとだけ気持ちがいい

エースやダミアンにされるのとはまた違う、優しいキス
口止め料って…この先も???ああ…何だか腹の中が温かいよ
もう何でもいいや…何だかもの凄く眠いよ………

長いキスの後に、ぐにゃりと力が抜けた少年を抱きかかえると
トロンとした目が吾輩を見上げる まだまだ子供だ刺激が強すぎたか?

「沈黙は守ろう、今は眠れ…起きたら少しは楽になっているから」
「………うん」

少しばかり強めにかけた治癒魔法が、効いている事もあるが
茶色の頭を撫でてやれば、素直にコテンと眠ってしまう
吾輩の膝に頭を預け縋りつく様に…

おそらく止まらない咳で、充分な睡眠が取れていなかったのだろうが

警戒心があるのか無いのか?よく解らないが
まるっきり猫だなこの坊主は、懐かれて嫌な気はしないのだが

眠ってしまった猫を起こさない為には、吾輩も動けないでは無いか………

まぁいいか、軍議が再開されるまではまだ少し時間がある
子守唄でも歌ってやろうか?
初対面だと言うのにそんな気持ちになるのは何故か?
保護欲がくすぐられる気持ちは…解らなくはないかな

小さな声で紡ぎ出される歌声に気がついたのか?
緑を掻き分け、長身の悪魔がコチラにやってくるのが見える
吾輩はシーと合図を送る、足音を立てないようにと

「こんな所に居たのか…」

スピスピと眠るジェイルの顔を覗き込み
安堵の表情を浮かべるエースに、少しだけ苛立ちを覚える
勿論この状況を放置しているであろう殿下に対してもだ

こんな子供の些細な嘘も見抜けなくてどうする?

グッとエースの軍服の袖口を引っ張り、手を出せと言う
翳されたデーモンの手の平から、サラサラと真っ赤な砂が落ちる
砂漠の民の血と魔都の瘴気が混ざり合い、反発しあった結果結晶化したもの
こんなモノが常に肺に突き刺さっては…身体の弱い個体はたまらない
一握り分はあるだろうか?金属質で尖ったソレは鈍い光りを放っていた

「もう少し気をつけてやれ、こんなモノが肺に溜まっていては相当苦しいハズだぞ」
「………すまない…ここまで酷いとは思っていなかった」

想像していた以上の質量に思わず絶句する

俺の端末からジェイルが、こっそり拒絶反応について調べていたのは知っていた
それでも俺と居る時は、気を遣って我慢しているのか?咳一つ出さないから
敢えて気がつかないふりをしていたのだ…それ程深刻な状態と考えずに

まさかココまで酷い状態だったとは、迂闊だった…
多分ダミアンも同じ様な所だろう

先日鞭傷の治療の際、ゼノンに忠告された事を思い出す
無理にでもちゃんと精密検査と治療を受けさせるべきだったか…

「血が完全に入れ替わるのは…後どれくらいだ?」
「おそらく2ヶ月弱…とダミアンは言っているが…」

生粋の砂漠の民とは言っても、ジェイルは元々悪魔との関わりが深い
だから新しい血が身体に馴染むのは、もう少し早いかもしれないとは言っていたが

「ならばその間、定期的に吾輩の元によこせ、理由を適当につけてな
ゼノンに弄くられるのが嫌なら、ソレしか方法はあるまい」
「しかし…」
「拒絶は聴かない、こやつと約束したのだ…お前に黙っている口止めだと
ならば…この子に面目も潰れないだろう?それが一番良かろう?」

ほわほわの髪を撫でてやりながら、金色の悪魔は優しく笑う

「それに…吾輩もこの坊主が気に入った、
関わった以上、お前と殿下だけに独占させるともりも無いぞ…」

意味深なその笑みを眺めながら、思いは複雑だ
言い出したら聴かないデーモンの性格を思えば
それがベストな方法なのだろう…だが何処か釈然としない

困惑気味の俺の表情に気がついたのか、闇色の爪がくいくいと俺を誘う

「そんな顔をするな、お前の方こそ変なヤキモチをやくな」
「そんなつもりじゃ…」
「全く…何処がポーカーフェイスだか…
そんな顔を見せるのは、吾輩の前だけにしてもらおうか?」

誘われるままに唇を重ねれば、何時もの優しいキス
ほんの少し香のは…ジェイルの肺を蝕んでいた血の結晶の錆びた味

何処までも優しく、同時に残酷な愛魔
誰よりも近いハズなのに…何処までも遠い存在

※※※※※※※※※※

その後どんな取引があったのか?深く眠っていた俺は知らない
ただそれから頻繁に副大魔王閣下の元に、理由を付けて出された事は事実

何時も優しく出迎えられて、エースが教えてくれない事も教わったけど

要求されるのは口止めのキス…甘くて深いキス

それが実は【治療】だったと知ったのは、かなり経った後だったけど…
その事をデーモンに聴いたら、この【砂時計】を渡された

「例え身体を蝕んでいたとしても、お前にとっては大切な故郷
大切にとっておくのが筋だろう?」と言われて…

俺の肺から回収したと言う【赤い砂】は
いかにもデーモンの趣味らしい器に封入はされていたけれど
砂の落ちる音は何故か懐かしくて…故郷を思い出す

同時に頭を過ぎるのは、あのアトリウムでの始めての出会い

優しい紺色の目… エースの臭いと気を感じていたのもあるけど
変に安心出来たのは何故なのか? 初対面だったと言うのに?

サラサラと流れ落ちる砂を見ていると、急激に眠くなってくる
なんかもうどうでもいいか…もう一眠りしようかな
何時もこんな調子で、なかなか片付かない倉庫…思い出のたまり場

すぐ側の棚にあった砂時計の箱を見つけると
ビロードが敷き詰められたそれに、丁寧にソレを納める

悪魔になった事を後悔はしていない

それでもフと思い出す、何も無かったけれど優しく懐かしい砂漠と空
ああそうだ…砂漠の空に似ていたんだ、あの目は…

ぼんやりとそんな事を考えながらも、
眠気には勝てずにコテンとソファに横になる
また倉庫が片づかなかったけど…まぁいいかな?

まどろみで過ごす休暇もまた贅沢な過ごし方



end


なんかまた時間が空いてしまいましたが
このお話はここで完です。本編に戻らなきゃ〜いい加減に

ちょっとした思いつきで書いたチビ代官ですが…
結構お気に入りかもしれません


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あきゅろす。
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