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【金色の時間】
朔の夜に… 2(完)

まぁ…最初からあれだけ酔って運動したのなら
先に潰れて当然だな………

小さく寝息を立て始めた男の腕を、そっと抜け出すのだが
下腹部が酷く重く痛い…スグに動き回るのは正直おっくうだ

どちらが付けたのか解らない、露骨なキスマークの散らばる肌に
ドッと溜息が出る 少しは吾輩の立場と言うモノをだな…
とぼやいてみても、どうせ両名とも聴く耳は持たないだろう

衣装からはみだす場所は…特に念入りに治癒魔法をかけておかないと

鈍痛に最悩まされた、おぼつかない足取りで、
床とベッドに散乱した2名分の着衣を、ソファに移しながら
長々とベッドに横たわる男を見下ろす

一応吾輩の方が、階級的には上なのだがな………

ここにはメイドの一名もいるわけでは無いから
自力で片付けるしか無いと言う事だ

散々鳴かされた喉がひりつき…奥の方で何かがつかえている感じがする
今は刺激物は、酒はやめておいた方がいいだろう
備え付けの飲み物をあさりながら、ぼんやりそんな事を考える

【朔】の夜は何時もこうだ

普段からは想像もつかないであろう?男の酔いつぶれた醜態と
悲鳴に近い自分の嬌声は…誰にも見られたくない聴かれたくもない
自分の侍従にも、エースの屋敷の者であってもだ

だから…どちらにも帰らず、こんな場末の宿を使う…
最初に提案したのは吾輩の方だ
場所を探して来たのは、裏町の情報にも詳しいエースだが

そんなに見ているのが、嫌なら…苦痛だと言うなら…
屋敷の警備兵に任せると、何回言ったか解らない
だが何時も答えは決まって「No」だ

他のヤツに任せるくらいだったら、見せるくらいなら
俺がやると言って聴かない

大魔王家と魔界の古い豪族の間では、よくある駆け引きの様なモノだ

勿論他に知られたくは無いが………
一族の者・信の置ける古くからの侍従達は
みな暗黙の了解で、この関係を知っているのだから…
一晩単独で魔王宮の警備を担う程の腕利きを、
他に用意出来ないワケではないのだ

わざわざ多忙の情報局長官にお出まし頂く必要は…本来無いのだ

実際、エースと【そういう仲】になる前は、
その役目を担っていたのは、守役であり執事でもある侍従だった

特にデーモン一族だけが、吾輩だけが特別なワケではない
そんな事はエースも解っているはずなのだが

でも…どうしても他には任せたくないらしい…

毎回前夜からは不機嫌…殿下との逢瀬が済んだ後は、
そのまま幾つかの【隠れ家】に直行、手酷く抱かれるの繰り返しでは

正直…身体が持たないのだがな………

※※※※※※※※※※

悪魔なのだから、複数の相手と関係を持つのは当たり前
思惑は色恋よりもむしろ【駆け引き】や【打算】
魔力の弱い者は己の身を守る為に、より強い他者に侍り
その力と魔力を盾にするワケだが…

上級悪魔ともなれば、その必要もない
それは単純な【欲情・欲求】であり
時には【ゲーム】や交渉の【切り札】でしかない

だが…エースとの関係は、【ソレ】とは少し意味が違う

上手く言えないのだが…【駆け引き】抜きで安心してで眠れるのは
この男の側だけなのだが…それは絶対に言えない、言うつもりもない
ソレを言えば、この【居心地のいい関係】が壊れてしまうだろう

エースが悪魔らしからぬ感情で、苛立っているのは承知の上
吾輩を独占出来ない事が悔しいか?でも独占なんてさせてやらない…
【身体】だけなら、この感情と引き替えにいくらでもくれてやろう
だが【心】まではやれない…吾輩が今の吾輩のままで居る為にも

※※※※※※※※※※

汗まみれの肌の不快感から、一度シャワーを浴びるつもりだったのだが
疲労感と目眩が酷く断念してしまう、身体を起こしているのがしんどい
疲れ果て消耗しきっているのは同じ

飲みかけのミネラルウォーターを流し込むと
静かにベッドに戻り、エースの隣に潜り込む
何もかもが面倒くさくなった…とりあえず可能な限り眠りなおしてしまおう

過ぎ去った嵐の余韻に浸る間もなく
ウトウトと短時間の惰眠を貪ろうとすると
するりと腰に手が回されてくる 少しだけ驚いたが
未だ目を瞑ったままの男の頬を優しくなでる

「なんだ…起きていたのか…」
「少しだけな…」

流石に?これ以上事に及ぶ体力は残っていない無いのだろう
背中をさする手も何処か緩慢だ
安心して、その広い胸板に潜り込み、擦り寄ると
ゆっくりと脈打つその鼓動を聴く

ついさっきまで、どんなに鳴き喚いても許してくれなかった手に
今は優しく抱かれているのが…何故か不思議な感覚だな何時も
そしてこの静かな安堵感も………

起きているのか醒めてているのか…深い眠気が降りてくる

「このまま何処かに閉じこめて、繋ぎ止めておければいいのに」

ぽつりと呟かれる危険な提案を笑って聞き流す

「ソレはどうだか…吾輩が本気を出したら、押さえ込む事など出来ないだろ?」

クスクスと笑うデーモンは、酷く残酷で綺麗だ

そう…一見華奢に見えてこの男は、副大魔王でデーモン族の長
最高司令官にして全魔王軍の総裁でもあるのだ
単純に魔力だけならば、俺より遙かに強い…その事実を忘れがちだが

愛されているとは思う、他の誰よりも【特別扱い】で

悪魔なのだから複数の他者と関係を持つのも普通だ
実際俺自身もそうだ…深い仲・浅い仲に関係なく
端から数えたらキリがない

だが…コイツだけは特別だ、例え悪魔であっても何故か許せない
デーモンが他のヤツとデキてると思うと、ただ単純に腹が立つ
例え相手が【地獄の支配者】であってもだ

俺だけのモノにしたい…出来うる事なら誰の目にも触れさせたくない

こんな気持ちにさせるヤツは、後にも先にも多分コイツだけだろう

薄暗い俺の欲望を知ってか知らずか?
コイツの【身体】は好きには出来るが…
【心】までは、未だに手に入れる事が出来ない
やんわりと躱されるばかりで、自信が持てない…確信が持てない

〜翻弄しているつもりで、翻弄されているのはどちらだか?〜

「もう何もしないから、そのまま眠れよ…」
「………そうだな…」

何時もながらの手酷い扱いに、文句の一つでも言ってやりたかったが
喉まで出かけた所で、辞めてしまった
せっかくの居心地のいいまどろみ、今は惰眠を貪ろうお互いに…
長い夜が明けたばかりだ

ようやく部屋に訪れた静寂

それを確認するかの様にカーテンの隙間から飛び立つ、小さな金色の【蜂】?
孔雀石の複眼を光らせながら、静かに飛び急ぐその先は………

※※※※※※※※※※

「相変わらずお熱い事で、何だか妬けるね…」

大魔王宮のアトリウムにて、遅めのティータイムを楽しむ皇太子は
戻ってきた【金細工の蜂】に手をさしのべる、
偵察機能を備えた【蜂】は、ふわりとその中指にとまると
指輪の装飾品の姿に戻り、金属質の鈍い光りを放つ

悪いねエース、偵察機能は情報局の専売特許じゃないんだよ

出刃亀はお互い様だろ? 大体エースは贅沢すぎるんだよ
充分好きにして居るではないか?
あの孤高の魂の全ては手には入らないよ
例えこの私であってもね…

私ですらまだ見た事の無い、デーモンの【紫の目】を見ているくせに

普段は深く青みがかった色をしている、デーモン族の瞳
精神的な高揚が高まった時のみ、明るい紫色になる事を
父上から聞いた事がある

表向きは…感情の起伏が激しい様に見えて
実は冷静沈着な一族でもあるため、瞳の変化を確認出来る事は希だ
戦闘中か閨の中ぐらいの話と言っても、恐らく過言では無いだろう

可愛いデーモンは、副大魔王に上りつめた今でも
律儀に【朔夜の約束】を忘れない、私に尽くしてはくれるが
その瞳が紫になった事はない…何よりも私の快楽を優先するからだ

それがどうだい?エース?
意趣返しと、興味本位で覗いたお前との睦み合いでは
きっちり紫色になっているじゃないか…私は少々ショックだったよ

ベッドの上では、間違いなく全てを手に入れているだろ?
それなのに…その他も全部だなんて、どれだけ強欲なのかねぇ…お前は

今更こんなクラシカルな方法で、主従関係を確かめ合う必要は無い
デーモンの忠誠心は絶対だ、時に私の方が苦しくなるほど真っ直ぐだ
だが…この関係を辞める気は無いよ………
可愛い臣下の全てをお前にくれてやるワケにはいかないのだよ、エース

静かな午後のティータイム、黒い皇太子の笑みを見たモノは誰も居ない


end


うわわわわ…思ったより、ねちっこく?ドス黒くなってしまった
最初はもっとえげつなかったけど…ドライに纏めなおしました(汗)
流石に暴走のしすぎだわさ…反省 ひたすらスンマセンの雨アラレ

そりゃね…ベタベタ甘々な関係も悪くないけど…
好きだから大事だからこそ→→→
本心は見せられない、確信には触れて欲しくない…
現状維持を続行したい…って関係の方が自然じゃないかな?
と思ったらこうなってしまったワケですよ(汗)

多分次回も基本は…多分こんな感じ?
もうちょっと明るめな方向にしようかな?とは思ってます

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あきゅろす。
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