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【見習い拷問官と教官】
『廃城の砂猫』14 近親者 R-18 J虐待シーン・ 暗黒設定・流血表現に注意

映し出されたのは、医療施設を装った、実験室と覚しき場所だった…

比較的開けた処置室を中心に、壁際一面にぐるりと並ぶのは、
硝子で仕切られた、小さな個室?いや…病室とは名ばかりで、
独房の様なソコには、酷く顔色の悪い患者が、一名ずつ押し込められている

スフィンクスでありながら、その権利を奪われた【実験個体達】だ

集められているのは、明らかに生命反応が弱くなり、延命治療を施しても
未来が望めない者、表向きの医療施設で、見捨てられた患者達の様だ

医療知識が乏しくとも解る、それは治療行為などではない、明確な生体実験だった…

被験者の生命維持を無視した、為体の知れない検査、薬物・装置実験を加える光景が
その果ての生体解剖の様子まで…目を覆いたくなるような光景が浮かんでは消える

【慈悲深き賢王】が聞いて呆れる、表の顔は実験個体を集める為の隠れ蓑か?
他の族長が倦厭する、虚弱な幼生を、積極的に引き取るのはこの為だったのか?
例え短期間で死滅してしまったとしても、誰も疑わない、咎められる事も無い…

そう疑いの目を向けられても、反論出来ない現実がそこにはあった

実験台にされているのは、寿命がつきかけている幼生・烙印付きの者の他に
成体であっても、進化が中途半端に止まった、発育不全の者や、
赤翼に進化しても尚、生命力が弱く、翼の育成が極端に悪い者も、混じっている様だ…

なるほど、仮に施術に失敗したとしても
自ら姿と運命を悲観して、自害したと報告しても、差し障りが無い者達なのだろう

医療用の麻薬漬けにされているのか?暗示でも受けているのか?
濁った瞳と表情の患者達は、自分が今何をされているのかも、気がついていない
それが…せめてもの救いだと言うのか?

そして…その悪夢の様な処置室の片隅に、やはり硝子で仕切られた無菌室が一つ
その小部屋の診察台の上で、特別に隔離されている、獣体の幼生の映像に映り込む

エースは息をのんだ、獣の方の姿は、まだ見てはいなかったが、直感的に解った…
コレは紛れもなく、今目の前に居るジェイルだと

無数の薬管と電極に繋がれたその身体を、見下ろす赤髪の男が、その背を頭を撫ででやれば
目を覚ましたのだろうか?頭だけを彼に向ける子供は、ぼんやりとした目で、白衣の伯父を見上げている

『補助装飾は、最高ランクの物を装着しておりますが…呼吸器の発作は今回が3回目
お気の毒ですが、個体識別判定はDランクに下がりました…
この上は…生活反応のある内に【献体】になって頂く事が賢明かと…』

研究員が冷酷に告げる判定と提案に、赤髪の男は、苦虫を潰した様な顔をする

間もなく寿命が尽きると判定された【弱い個体】は、その命を無駄にはしない
後進の医療の発展の為に、同胞の為に犠牲になってもらう
1名の犠牲により、その何倍の数の同胞が助かるのであれば、それは『正道』である
それが当たり前の事として、まかり通っているのだろう…この研究施設では

それでも…血を分けた実の甥を、自らの指示で実験個体に堕とす事には、抵抗があるのか?
僅かながらに躊躇する彼を、その場に居並ぶ研究員の全てが盗み見る

今更…血縁だけは特別とは…言わないで下さいよ、リーダー
我々は…我々の未来の為に、外道の道に堕ちたのではありませんか?

バリングラの幹部、側近中の側近のみが、所属するその場は
赤翼の未来を支える為の『暗部』なのだ、我々は咎人であり、血塗られた共犯者だ
そこに居並ぶ金の目は、強くそれを訴えているようだが…

赤髪の男は、暫く目は伏せはしたものの、その視線を鼻で笑った…

『もとより、諸君達と同じ覚悟は、既に我が内に有り…我が近しき血縁とて例外は無い
判定堕ちした以上、つまらぬ情で無駄な時間を稼いだりなどしない
【烙印】は直ぐに与えよう…だがこの献体は、生体解剖には回さない
私と弟の遺伝情報を、追跡調査する為の貴重なサンプルだからな
その代わり、心肺の活動停止後は、標本サンプルを前提に、解剖に回すと約束する…』

慣例化している、生体解剖を避ける甘さはともかく、その骸の標本提供の宣言に、場はざわめく
死後の世界を尊ぶ彼等にとって、処置後の遺体の返却は絶対なのだが…
それをねじ曲げる、提案が効を成したのか?大多数の研究員は、その採決に納得はしたようだ

お気持ちが変わらない内に…と手渡されるのは、半透明の紫色の薬品が充填された注射器
それを受け取った男は、手早くその中身を目の前の甥に注入する
何をされたのか解らないままに、痙攣する小さな身体から発せられる魔力が、不自然に膨張して…獣の姿の輪郭が緩む
台の上では半人半獣の子供が、吹き出す汗を滴らせてて、カタカタと震えていた
器の限界を無視した上で、強制的に魔力レベルを上げる薬品なのだろうか?一時的に

『相手は誰を?』
『判定堕ちしたと言っても、愛する甥である事には変わらない…私がやろう
諸君達が証人だ、データーは残らず取る様に…』

そう告げると、男は子供の顎を持ち上げ、その唇に自分のソレを重ねる
上昇する男の魔力と、分け与えられる膨大な量の気が、一気に子供の中に流れこんでゆく
光りは完全には戻らないものの、大きく見開かれた目が相手をみつめ、小さく身じろいだ
逃げうち震える身体を抱え込みながら、男は更にその唇深く重ね貪る
移動する大きな手が、さわさわと毛皮を弄り…ソレをやんわり捕まれると
口付けから逃れた、子供の口から小さな悲鳴と拒絶の声が洩れる

『や…伯父貴…こんなの嫌だ…』

かなり強い薬を使用しているはずなのに、自己意識が残っているのか?
それでも…小さな手の弱々しい抵抗は、あっさり封じられ、簡単に組み敷かれてしまう
混濁する意識下でも尚、藻掻く子供の耳元で、男は囁く…奇妙な程優しく

『何も心配する事はない…これは夢だから…怖くて、悪い夢だから…』
『………夢…』
『怖い夢を見た時はどうする?もう一度ゆっくり眠ればいい…それだけだろう?
ずっと側に居るから…お前が眠るまで側に居るから、安心するがいい』

そう言い利かせながら…手渡される注射器を受け取ると、更に薬物を注入してゆく…
より深く意識レベルを落とす為の、導入剤を兼ねたソレが、徐々に効いてきたのか?
コトリと落ちた身体は、そのまま身勝手に開かれる…肉親と信じていた者のその手で
彼を【物】としてしか見なくなった者達が、見下ろすその場所で

スフィンクスは早熟だと言っても…まだ幼すぎる子供だ、経験などあろうはずもない
それでも…前を扱き上げ、生理的な快楽を与えてられれば、身体は緩みはじめる
誘淫作用の高い薬物を、たっぷり含んだジェルを、直腸に塗り込んでやりながら
狭い内側への刺激も加えてやれば、身体だけは埋め込まれた指を徐々に受け入れ始める
ついさっきまで堅く閉ざされていたのが、嘘のように…

『ふぁ…ああっ………』

決して苦痛だけでは無い吐息が、小さく洩れはじめてはいるが…
その目は虚ろで、何処を見ているのか解らない、その首筋に男はキスを落とす

寿命のつきかけている甥を穢そうとする、叔父の心境は…いかばかりの物か…

何も解らないままに、与えられる刺激に悶える身体と声は、それでも淫らで
男の下腹は既にドクリと脈打っていた…そこに罪悪感は無いのだろうか?
まるで…最初からこの結末を望んでいたかのような、身体の反応に男は自嘲する
彼なりに、初めての甥を愛していたはずなのに…邪の感情を元より持っていたのか?

いくら、丁寧に広げてやったとしても、小さな身体は男を受け入れるには早すぎる
解っていながらも…男はソコに自らを宛がうと、一気に刺し貫いた

『ーーーーーっ』

声に成らない悲鳴は、子供の口を塞ぐ手に阻まれる
激痛に溢れ出す涙が、診察台にぽたぽたと滴るが、男は構わず楔をうがつ
内側にも、男のソレにも塗り込められたジェルが、掻き回される卑猥な音はするのだが、
出血は免れられなかったのだろう、痙攣する太腿に赤い筋がつたう…

『痛い…痛いっ痛いよう……』

譫言の様に苦痛を訴え、藻掻く子供を抱きしめると、
繋がったままの身体を引き摺り起こし、その無残な連結部分を見せつける

我に迷いは無い…その証として、コレを見ろと言わんばかりに

いくら…潤滑剤を入れても、限界まで広げられたソコは裂けて、
鮮血が流れているのだが、それすらも、淡々と記録に取られてしまう
意識レベルは落とされていても、激痛に啜り泣く甥の悲鳴を聞きながらも
男は待っていた、太陽の紋が…落伍者の烙印が、浮かび上がるその時を

だが…幾ら待っても、その【烙印】は現れなかったのだ…どういうワケだか

そうだ…極当たり前のスフィンクスの様に、ココで【烙印】が出てしまえば…
その子供はその後の、苦しみを味わう事はなかった…
献体として何かを仕込まれ様と、厳重な記憶操作をされようと、
短い生涯を、あっと言う間に終えてしまった筈だった

肉親の情からくる不正は一切無かった、多数の研究員が監視するな中
確実に赤翼のソレに穢されたと言うのに、印が現れないのは何故だ

理論上は有り得ない、前例が無いだけに、研究員達の研究欲は一気に加速する

この時からその子供は、生体実験の被験者リストから外され
要経過観察が必要な、【特別研究対象】となった
表向きは…ごく当たり前の【発育不全の幼生】として

地獄の皇太子の魔力を受けたせいで、赤翼化しなかったワケでは無いのだ
元々…【特異な体質】の持ち主だったのだ、彼は

だがソレを知る者は極一部…、幹部クラスの間で、ひた隠しにされる極秘事実になった

赤翼に堕ちたのにも関わらず、戦艦を操る程の、強大な魔力を持つ「兄」
その反面、親神に進化しても、充分な魔力も生殖能力も持たない「弟」
そして…未熟児で発育不全の個体でありながら、何故か赤翼にならない「子供」

近しい血縁間で起きた、劇的な進化の過程と差は、研究対象としては魅力的だった
しかも…この三名の場合、分化前の幼生時の魔力レベルの差は、関係していない
重複する部分の多い、この三名の遺伝情報の差分を比べれば…
進化の分化が決定する、そのプロセスが解明されると期待されるのも当然だ

当事者であるアイを中心に、極秘扱いの研究チームが組まれる事になるが
その原因を突き止める事は叶わず、ただ時間だけが流れてゆく

そうなれば…再び再燃するのが、生体解剖の提案だ
表向きは病弱な幼生として、まだ認識されている内に、実行するべきだ
烙印が現れない事実が、主家に知られてしまう前に…そう主張する研究員達も少なくはなく、
経過観察派の者達との、激しいやりとりもが、まるで他人事の様に映し出される
子供の命が掛かっていると言うのに…

その議会の中心で、叔父はただ目を伏せている様にも見えた

議論は平行線上ではあったが…問題の子供が、彼等のリーダーの甥である事もあり
その最終案が、他よりかは強行的に推されなかったのは、幸運な事だったのだろう

本魔のあずかり知らぬ所で、その命が風前の灯火であった事を…ジェイルは知らなかった

※※※※※※※※※※※※※※

そして映像の画面は、大きく変わる… 

エキゾチックな垂れ幕の奥、私室ベッドの上で睦み合うのは、一組の男女
赤髪の男と、その逞しい胸板の上に、しどけなく抱きつく女は、獣の形質を強く残していた
そう…あのイナンナと呼ばれていた、半獣半人の娘の様だ

『ねぇ…何時になったら、あの子の解剖を許可してくれるの?』

ピロートークとしては、些か殺伐としすぎた問いかけに、赤髪の男は苦笑する

『不可抗力とは言え、悪魔と接触してしまった以上、此方の都合通りにはいかないさ
チャンスと言えば…翼が生えて成体に進化する時だろうね………』

とそってけなく応える男に、彼女は不機嫌そうな顔を向ける

『意気地なし…結局貴方は、自分の甥を手に掛けたく無いのよ…
わざわざ記憶操作までして、好かれる伯父様のままで、居たいだけなんでしょう?
これ見よがしに皆の前で、あの子を穢した時もそう…他者に触らせたくなかっただけ
あの悪魔との接触だって…本当は貴方が仕組んだのではなくて?
確かあの時も、生体解剖が押されていた頃よね?』

『口がすぎるぞ…その様な事は無い………』

『慈悲深き我等の王に、残された情を、責めて居るワケでは無いのよ…
憎い弟君の息子でも、肉親だもの…割り切れないのも解るのよ、皆も納得はしているのよ
ただ私は、気に入らないのよ、あの子が…何の苦労も疑問も無く、貴方の庇護を受け
当然の権利の様な顔をしているあの子がね…』

私だって一度は、Dランクに落ちたわ…でも自分の努力で、這い上がったのよ
例えDランクでも、正当な延命治療を受けるに値する、処分するには惜しい女になる為に

研究員としての価値も磨いたし、進んで生体実験の実験台にも成ったのよ
この姿だって発育不全だけじゃない、開発途中の魔力促進剤を試した副作用よ
でも後悔なんてしてない、ただ漠然と他者の言いなりの癖に、権利だけを主張する連中とは違うわ
外の医療スタッフに匙を投げられ、何も解らず裏に送り込まれるボンクラとは違うのよ

なのに…あの子は、何の努力もしない癖に、貴方の庇護を無条件に受けている

加えて悪魔からも、愛されて護られているなんて、こんな不条理ってないわよね
あの子の経過観察が、私の研究と被らなければ…貴方の大事な甥でなければ
とっくに、テトラドキシンでも注入している所よ…誰に何と言われ様と、病死を装ってね

不満だけとは思えない毒を吐き散らし、フーフーと毛を逆立てる彼女を見て
男は苦笑いを零すと、その細腰を強く抱き寄せる

『なんだ…妬いているのか?ネフティス…お前だって、私にとっては、特別なのだがな』

イイ女だよお前は…助手としても最高だ、お前が忌々しく思っているこの姿すら
私は愛おしいと思っているのだよ、それだけでは、満足出来ないのか?

背中から包み込む様に、娘を抱きしめると、その乳房をやわやわと揉みしだく
途端に洩れ始める甘い吐息を楽しみながら、その耳にしゃぶりつき囁く

甥の命が惜しく無いと言えば…確かに嘘になるな、お前が考えている通りに…
咄嗟に生体解剖の候補から外したのも、身内の情と責められてても仕方がない

だが…甥は雄だ、天地がひっくり返ろうとも、私の仔を孕む事など叶わない
私は産んで欲しいのだよ、私自身の仔を、お前のこの腹から一番に

我々はまだ…赤翼のみで仔を成すまでに至っていない、種としては著しく不完全だ
あの無駄に大きな身体に、未練などあるワケも無い
だが…主家から分離独立する為には、赤翼だけでの生殖と、虚弱体質の改善は絶対だ
その糸口が…烙印の現れないあの子にある筈だ、おそらくは…
だから…今暫くはあの子を生かしてくれ、あの子のゲノムの解析が、終わるその時まで

そう言って…今はまだ仔を宿す事が叶わぬ腹を、優しく撫で回す掌の感覚に
娘は気持良さげに、うっとりと目を細めると、男の首に腕を回し、そのまま縋り付く

先程までの勝ち気な表情は消え失せ、とろんとした瞳で男を見上げる彼女は
男の唇を強く貪り、お返しとばかりに、相手の肌をそのざらついた舌で愛撫する
下へ下へと移動する娘の頭をなで上げ、その様子を見下ろしながら
赤髪の男は、ねっとりとした薄暗い笑みを浮かべている

ネフティス…役にたつからこそ、お前は可愛いのだよ…今はただ見張るのだ、
あの子の本当の秘密が、悪魔側にも魔神側にも洩れない様に、用心深くな…

※※※※※※※※※※※※※※

『………セトッ!!!貴様と言う奴はっっ!!!』

その場の静寂をつんざく様な絶叫が、響き渡る
慟哭の叫び声を上げたのは、他でもないジェイルの親神だ

チャーム魔法の余波で、脳震盪が治まらず、未だ立つ事も叶わぬ彼は
それでも…従僕達が支える輿に身体を横たえたまま、渦中の現場に同行していた
行方不明のままの息子の姿を、ただ求めて…

その声を皮切りに…地上の彼方此方から、嗚咽の声と慟哭が上がる

犠牲者は…ジェイルだけではない、他の実験個体にも近しい肉親が居る、親神が存在する、
手厚い保護を受け、その生を全うしたと信じていた近親者が、
実際は…惨い末路を辿った事実は、部分的な画像であっても一目瞭然だ…該当者であれば

その涙と怒りに、親神も赤翼の差など有るわけが無い

何か裏はあるとは考えていたが、弱者の擁護者を装った者達の、忌まわしい犯罪行為に、
悪魔の俺もただ言葉を失った、呆然とビジョンを見上げていたが
その間にも、砂漠中に散っていたスフィンクス達が、この場に集まってきていたようだ

場違いな場に唐突に出現した、【裁きの天秤】と、それが映し出す映像を目指して

赤髪の男の罪状の暴露は、まだまだ続くのだが…
それすらも切り裂く稲光と閃光が、巨大な天秤を打ち付ける

受け入れがたい現実に、動揺を隠せない魔神が、一斉に空を見上げれば、
厚い渦雲を切り裂き、その場に降り立ち出現するのは、純白の巨躯
砂漠の王と彼を先導する側近達、そして、その肩口に縋り付くのは、悪魔の皇子

球形の結界を解除したダミアンは、優雅に砂の上に降り立った

「ダミアン…」
「何処で道草を食っていたんだ?馬鹿皇子、用事が済んだならとっと帰ってこい」

完全な羽化の前に皇太子が帰還した事に、安堵の表情を見せながらも
胸くその悪くなる映像を、見せられた憤りからか?
苛ついた視線を向けるエースに、ダミアンは涼しい顔で応える

「五月蠅いね、此方は此方で色々事情があったんだ、仕方が無いだろう?」

最早立ちあがる気力も無く、砂の上にペタンと座りこんでいるジェイルの前に
しゃがみ込んだダミアンは、ふわりと茶色の髪を撫で上げる

「ああ…こんなにボロボロになって、あの意地悪な悪魔の仕業だろう?可哀想に
遅くなって悪かったね…王とは、ちゃんと話はつけてきたよ、
魔神のままで居たいのか、悪魔になるかの最終判断は、お前が決めて良いからね」

悪魔の皇子が、ふんわりとジェイルを抱きしめ、その安全を確保する様子を見届けると
天秤に縋り付いていた神官長は、もう一名の主の前に、砂漠の王の前に歩み寄る

平服し、静かにその手を宙に翳すと、手元の空間に出現するのは…
獣体だった頃のジェイルが、装着していた【補助装飾】と
地下神殿に上がる直前まで、その胸を飾り、彼を支えていた【隼の胸飾り】
被験者に常に密着していたソレは、医療データーの記録媒体としての意味も兼ねているのだが
ソレ等の全てを王に、捧げ上げながら…神官長はただポタポタと涙を落とす

『流石に…私の監視と、ダミアン殿の保護が始まった後は、
和子に対する、不当な実験行為は行われていないようですが…
それ以前の記録には、改ざんと白紙の部分が多すぎました
和子の魔力波動の不自然な増減…薬物の痕跡、欠落した記憶と身体の傷跡…
お仕えした当初から、疑念は持ちましたが…セト様のお立場を考えれば
確証を証拠の収集に、時間を掛けすぎた事をお許し下さい…
そして…結果的には、従僕の身でありながら、魔神に牙を剥く事になりし事も………』

与えられたアンクを捧げるだけでは済まないのは、私の罪でございましょう
そうむせび泣く彼に、砂漠の王は静かに言う

『いや…長き間、よく我等に仕えてくれたものよの、メネプ、大義であった
この度の役目は…正道の為には、スフィンクスに噛みつく意思と覚悟の有る者
黒犬の神官である其方にしか、出来ぬ大仕事であったのは間違い無き事よ…
次こそはゆるりと眠るが良い…一足先に楽園にて待つがいい』

【再生の印】はお主に返そう…

その言葉と共に差し出される王の巨大な前足、その爪の先に現れるのは
黒犬の頭を模した蓋があしらわれた、シンプルなデザインの素焼きの壷
中身は見えない…だがその内側で、ドクリと脈打つ何かを感じる

『ああ…もったいなきお言葉、我が王よ、それではお先に、あちら側でお待ちしております』

【再生の印】と言う事は…その壷の中身は、奪われた心臓か?それとも記憶か?
神官長は手渡された壷を、しっかりとその腕に抱きしめる…
すると…未だに荒い呼吸が止まらない、その身体の輪郭が末端部が崩れ、サラサラと砂に変質してゆく

そう…心臓を奪われたその時に、とっくに彼の生は終わっている
生きながらえていたのは、かりそめの命、心臓の替わりに与えられたアンクの力によるもの
そのアンクを砕いてしまった今、彼は二度目の死を迎える、ただソレだけだ

『正直…私は、罪人上がりの貴方の事が、気に入りませんでしたが…』

王の傍らに控え、神官長から補助装飾を受け取った、青鷺の男・トートが呟く

『この度のお役目は私にも、マアトにも、その血に連なる者には荷が重すぎたのも事実
貴方は使命を果たされましたよ、コレ以上ないくらい完璧に…いずれ楽園でお逢いしましょう、
貴方と同期として、共にお役目に着けた事を、私は誇りに思いますよ…』

最後まで嫌味な口調は曲げない同僚に、ニヤリと笑う神官長は
その横で大粒の涙を流す、もう一名の同僚、鳥乙女マァトにも笑いかける

『カゲイヌ…嘘だろ、なんで…お前が滅びなければならない…』

悪魔の腕に抱かれながら、半泣きの目で、此方を見ているのは養い子
最後にその顔を見つめながら、黒犬の男は静かに微笑む

『泣かなくていいのですよ、和子、私はとっくに滅んでいる身の上
和子もそれは御存知でしょう?役目を終えて、眠りにつくだけですよ
小さかった貴方が、翼を授かりし今、守り役の役目は完了いたしました
至らない従僕であったとは思いますが、笑顔で楽園に送り出してくださいませ
魔神と悪魔…和子がどちらの道を選択されても、
この先は何の憂いも、心配事もございません、どうか健やかに………』

肉体は、ただ乾いた砂の様に崩れ…肉の下の骨格すらも露出してゆく
その様を…ただ為す術もなく見つめながら、ジェイルは半狂乱に叫んだ

『嫌だっ…勝手に滅ぶなんて許さないっ!影を繋いだ以上、お前の主は俺だ!
アメン・ラーが、ソレを認めても、俺は絶対に認めない!帰ってこい!メネプ!!!』

悲鳴の様なその声に、男は少し驚いた様だが、
半分髑髏化したその顔に、コレ以上ないくらいに、幸せそうな笑みを浮かべる

足下に伸びる影、2名を繋ぐそれが中程からブチリと音を立てて千切れると
クルクルと踊りのたうつ様に、神官長の足下に消えてゆく

『久しぶりですね、カゲイヌでは無くメネプと呼んで頂けたのは…
砂漠の王と同様に、最後の主が貴方で良かった…愛しい和子、いやホルス様
あちら側でお逢い出来るかは解りませんが、貴方の幸せを願っておりますよ』

それだけ言い残すと、黒犬の神官の身体は完全に崩れ堕ちてしまった
大切そうに抱えていた壷、カノプス壷諸共に…
後に残ったのは、彼が身につけていた、その身分を表す金の装飾品だけだった
その上にも…風に飛ばされた砂漠の砂が、降り積もってゆく

『嫌だ…何でだよ…何でみんな死んでしまうだよ…俺を残して』

泣き喚き藻掻く子供を、ダミアンはただ優しく抱きしめる



続く


ド根暗展開になってきましたね〜まぁそれがこのサイトの十八番なので仕方が無い

◆アイ伯父様→真名はセト様(汗) 賢王どころか実は真っ黒けでした

【赤髪】で【太陽の船】を操つる軍神で、【悪い叔父さん】のキーワードがあれば
エジプト神話を多少なりと、読んだ事のある方には、バレバレだったかもしれませんね
実際はオシリス神の方が兄君で、セトは弟君になります
ただ先に生まれて来たと言うだけで、神々の王になった兄貴に納得できず
とうとう兄を殺害、その後釜に納まるのですが…
成長した甥(ホルス神)がその座を奪還する物語は、中々のスペクタルですよ
興味のある方は…是非読んでみてください、なかなかドロドロしてて面白いです

オシリス神を殺害した敵役ではありますが、軍神としての彼は必要不可欠です
アメン・ラー(太陽神兼引退した神々の王)を、空に運ぶ船の操者であり、守護者でもあります
彼が居なければ、当たり前の様に太陽は登って来ないのです
悪魔の様な悪神・邪神でありながら、何処か憎めないのも不思議な魅力ですね

まぁ…そんなワケで、セト神の名前は借りたのですが
多分本物よりかなり凶悪ですね〜最終章に向けてどうなるのか…こうご期待

◆イナンナ→真名はネフティス

名前だけはせめても…と、セト神の妻神の名をお借りしています
仮名のイナンナとは、メソポタミアにおける、同女神の別名ですが
メソポタミア版の方がキレ気味です、それでも特定の相手に一途な、純情すぎる乙女ちゃんです
『ベルセルク』における、鷹の団時代のキャスカ姐御の様に
本家エジプト版は…亭主元気で留守がいい(浮気し放題だし)な、したたかさの持ち主

多分どちらもモデルにはなってないかな?
姿は…『グインサーガ』のグイン系ですが

似ているとすれば…多分?EVAの赤城リツコさん?あるいは赤城ママ?
じゃぁ…伯父様はゲンドウなの???何かちょっと違うと言うか、ソレは嫌かな

ただ…単純に代官が悪魔になれて、めでたし・めでたしで終わらない様に
投入したキャラでしたが…重い…重すぎる展開になってしまったのが、真相というか

何なのだろう?この【だめんずうぉ〜か〜】体質丸出しの娘は、
若干過去の激痛だった頃の自分を思い出し、凹んだのは私だけかな


本音を言えば、この娘の死ぬシーンと、メネプが崩れるシーンが、
今回書いてて一番シンドかったです(T_T)(T_T)(T_T)


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あきゅろす。
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