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【見習い拷問官と教官】
『廃城の砂猫』 11 瑠璃と赤 R-18? A×Jかも?微エロ+根暗設定注意

すっかり混濁した意識が戻って来たのは…どれほど時間が経った後か?
身体が…とにかく重たくて、眠くて…掛けられたブランケットの下で背を丸める
瞼が重くて、再び眠りの淵に沈んでゆきそうになるけど、駄目だ…寝てなんかいられない
これは…単純な疲労困憊から来る、眠気だけじゃないんだ多分…

強引に止めている【羽化】も、ジワジワと進んでいるから

意識を失う前は無かったはずの、手の甲に張られた呪符が、
状況が決して良くは無い事を物語っている
その下から、皮膚の下から迫り上がってくる魔神の力に、ソレは今にも焼き切れそうだ
符の端はめくりあがり、所々に焼け焦げた黒い染みが、ぷすぷすと燻っている

やっぱり、間に合わないかもしれないな…仕方の無い事だけどさ

哀しいのに、何処か冷め切った自分がいる、決められた運命には逆らいきれないと
それでも…まだ身体が小さい内に、行きたい場所があったんだっけ

霞がかかった様に、はっきりとしない意識で、ぼんやりとそんな事を考えていると
聞こえてくるのはギターの音、当たりは強いのに何処か繊細で優しくて…
滅多に居ない程の好みの音だけど、今は…多分かなり苛立っている様だ、
追いかけっこの前に、誘われる様にココで聞いた音とは違って………

気怠い身体を無理に起こして、ブランケットの下からモゾリと這い出ると

少し離れた所で、あの悪魔がダミアンのギターを抱えていた、煙草をふかしながら
ジャラリとまだ首から垂れ下がったままの鎖を、その手に取ってクイと引っ張ると
相手もその腕にソレを填めたままだから、此方を振り返る

どうしてだろう?最初にココで彼を見た時は、警戒心が炸裂していた事もあるけど
本能的な恐怖心しか湧かなかった そして…ついさきっまで手酷すぎる扱いを受けたのに
意識が混濁してしまう程に、無茶苦茶に犯され続けたと言うのに

どういうワケだか、今はあまり怖くは無い…

決定的に違うのは…威圧感が消え失せてしまった、その目つきかな?

苛立ちよりも、哀れみを含んだ今のアンタの目は…ダミアンのソレと同じだね
羽化が止まらない事に、止められない事に、アンタが責任なんて感じる必要ないのに

同族達から投げかけられる、生温くも、何処か冷ややかなな視線も苦手だったけど…
それよりも更に苦手だったのは…必要以上に俺を【哀れむ】この視線の方だ、

頼んでもいないのに、俺への過剰な罪悪感も含んでるんだ、勝手にさ 
俺はアンタ等だ思う程に、傷ついてもいないし、不幸じゃないんだけど?

まぁ…その最たるは、ダミアンなんだけどさ…

俺がわざとセフレを呼んで、鉢合わせてる様に仕組んだり、悪さをして困らせ、挑発するとさ
ただ悲しそうな目で見る、哀れみを含んだ目で俺を見る、ロクに怒りもしないで

苦手なんだ…その目がさ、それくらいなら、ムカついてるなら、ちゃんと怒ればいいのに

何で無理に気を遣うんだよ俺に?俺はアンタ等が思う程、可哀想な奴なんかじゃないのに
特に初対面のアンタにまで、そんな顔される理由なんて無いんだけどな

「何だ …目を覚ましていたのか…」

赤い悪魔が素っ気なく言うので、俺も答える、
進行が止まらない羽化や、封印の事は何も触れずに…未だ帰らないダミアンの事にも

「そんな乱暴な弾き方しないでよ、どうせなら俺をココに呼んだ時みたいに弾いてよ」

悪態をつかれる、或いは罵詈雑言が飛び出すとでも、思っていたのだろね、
俺の口から出た言葉に、驚いたらしい悪魔は、それでも少しは気を良くしたのだろうか?
俺がまだ聞いた事の無い異界の歌詞を口ずさみながら、奏でられる旋律が心地がいい

出会ったのが、こんな時じゃなければ、一回くらいお手合わせ願いたかったけれど
硬化が進んでいるこの手じゃ駄目だな…多分もう…
俺の方が、納得できるプレイが出来ないから…

そう思うと、涙がポタリと頬を伝ってゆく…やっぱり俺は、このままで居たかったな
俺は【赤翼】の方で良かったのに、『小さな身体』の方で充分だったのにな
どうして俺達は、選べないんだろう?でちらの翼が必要かぐらさ…
選ぶ事が出来るなら、誰も不幸にはならないのに…不満も憤りも発生しないのに

曲が終わるのを見計らって、溜まった涙をもう一度だけ、手の甲で拭いあげると、
俺は悪魔に声を掛ける、また勝手に深刻な面をされては叶わないから、極力軽るめの声で

「ねぇ…アンタに…お願いがあるんだけど…聞いてもらえる?
行きたい所があるんだ…外じゃないよ、この砦の中の別の部屋…
ダミアンにも内緒で作った、俺の宝物入れの隠し部屋があるんだけど
ちょぅとだけ…行ってきちゃ駄目かな?まだこの身体の内に…駄目かな………」

語尾は少しだけ消え入りそうだったけど、そう尋ねてみたのだが、相手は答えない
やっぱり駄目かな?駄目だよね…一応?この悪魔に拘束されてる立場だし…

シュンと耳を伏せて下を向く俺の耳に、コトリとギターをたてかける音が聞こえる
もう一度そちらの様子を伺うよりも先に、俺の腕をひっぱり上げた悪魔は
適当なクロスを俺の肩にかけると、そのまま俺を抱き上げる そして静かに言った

「砦の中なら問題ない、場所は何処だ?連れていってやるから、案内しろ…」

そうだよね…流石に鎖を外してやるから、一名で行ってこいなんて状況にはならないよね
ガキと言われても…男でいい歳の俺が、こんな情けないナリで運ばれるなんて
本当はかなり抵抗があるんだけど…時間ももう無さそうだから、贅沢は言っていられないよね
俺は素直に悪魔の肩に手を回すと、その長身にすがりついた

やっぱり最後にどうしても、あの部屋に行きたかったから…
羽化してしまうなら、大好きなモノに溢れたあの場所がいい、きっと諦められるから

もし…このまま【親神】になってしまったら…いの一番に海を見に行こう
せっかく【瘴気】には負けない肉体にはなるのだから…
悪魔の領域の上を、飛び越えて行かなきゃならないけど
それくらいのワガママはきっと許してくれるよね?ダミアンも?この悪魔も?

悪魔の腕の中で部屋への道順を指し示しながら、少年はポツリとそう思っていた

※※※※※※※※※※※※※※

王の自宮に招かれたダミアンは、グルリと辺りを見回していた

その長すぎる歴史を象徴する様な、蔵書の数々は、さながら文化局の図書館の様に幾重にも連なり、
古代魔法文明だけではなく、悪魔のモノとはまた少し異なる機械分化もある様だ、

ここには…他の親神は居ないのか?王の足下に従う半獣姿の高位従僕達も、
外のソレとは…少々違う様に見える、側近中の側近と言った所か?

王は地下神殿を出る事は殆どなく、砂漠に立て籠もっているばかりに見えるが
【情報】に疎いと言うワケでは無い、直接話した機会は、極僅かだがソレは解る

どうやら…忠誠心の熱い従僕を中心とした、諜報機関すら持っているようだ…

以前他の魔神達の同席の元、会談を行ったあのサロンに通されると、王は定位置にその身を横たえる
従僕達がに設えさせた、席にダミアンを案内すると直ぐに、王は静かに問いかける

「単刀直入に申し上げよう…貴殿は今の我が一族達をどう思う?」

投げかけられた唐突な問いに、ダミアンは思わず絶句はしたものの、困った様に答える

「いきなりですか…随分と意地の悪い質問をされますね、王よ…」

外交相手の他族としては、特級レベルに気を遣う必要のある相手ですよ、相変わらず
だからこそ…あの子をココには残してはいけない、貴方もそう思ってらっしゃるのでは?

【異端】の彼が、地下神殿の皆様に、受け入れられるとは到底思えませんからな………

「流石に…最初にココを尋ねられた時とは違いますな、気を遣われる必要は無い…
砂漠の隠遁生活は、我等の怠惰と敗退を進行させたにすぎない、貴殿の感じた通りだ
特権階級に縋り付くばかりで、少しも進歩などしようも無い…残ったものは…
同族すら蔑視する、ねじ曲がった選民思想と、他者への粗探しだけだ
翼の色にも、男女の差すら関係は無い…近年生まれてくる子等は、
身体は小さく、寿命も縮んだ…それに比例するかの様に心も矮小に劣化してゆく、
コレも我等の滅びの一端を担う事になるのでしょうな………」

そんな閉塞した我々の未来に、あの子は、一筋の可能性を示してくれた
孤独に耐え、充分に一族には貢献してくれた

その【功績】を考えれば…彼が【瑠璃の翼】を授かりし今
ネメスに連なる権利は、当然のモノと、儂は考えてはいたが
残念な事ながら、ソレを快く思わぬ者も多い…赤翼はおろか主家の者達すら
他の幼生と同様に、この地下神殿に招集いたしましたが…
やはり馴染めないのでしょうな、ココの生活には

悪魔の気を受けたからでは無い、【掌の罪】はそれ以上に重い

幼生には、余計な知識は与えない…それがしきたりではございましたが
あの子の【孤独】を思えば…ソレを慰める【罪】を、取り上げる事など叶わなかった
私にも、側に仕えしメネプにも、そしてあの父親にも…コレは貴殿の罪ではなく
我等の罪ですな、翼の色を【赤】と決めつけ、予測を見誤った我等の………

「その【掌の罪】とは、一体何の事なのですか?」

メネプ殿も砦に来られた時は、最初だけは、盛んにソレを口にしておられたが…
ダミアンが皆目解らないと言った表情で、王に尋ねれば、王はただ苦笑して答える

「ダミアン殿…貴方は御自身の肉体は、何処が罪深いと考える?」

悪魔も魔神も関係無い、その【魔力】を抜きと考えるのなら…
そう改めて問われて見ても、思い当たる節がない
スフィンクスお得意の、謎かけの様なその問いを、反芻し、フツと目を落とすのは、自らの【掌】

そしてソレをただ、キラキラとした目で見ていた、獣体の頃のジェイルの姿を思い出す

「まさか…」

そう…貴殿にとっては、その『まさか』がその正解だ…罪深きはその【掌】

成長に伴いその姿が、大幅に変化する事がない種族にとっては、理解出来かねる事だが
【己の掌を使う楽しみを覚えてしまう】…ソレは我等・魔神にとっては最も罪深き事

進化の過程で、一度は【自由に使える掌】を持ちながらも、
最終的には、獣のソレに戻ってしまう掌に、固執する事が罪なのだ…

翼の分化前に【掌の罪】を知った者は…【親神】への進化を拒絶する者が出るのは当然
これもまた…【巨大な力】を持つ者が、通らなければならない【試練】なのですよ

【力】を手に入れる【代償】とは言え、ソレを失う事はあまりにも重い

【最終形態】になってしまった魔神は、二度と【擬態】の姿を取る事は無い
姿を変える能力を失ってしまうから、二度と【自由な両手を備えた肉体】には、戻る事は叶わないのだから…

己の【両手】を取るべきか?親神に進化する【名誉】を取るべきなのか?
【絶望】にも近いその選択を、極力子供達に、味わわせない為に
【翼の分化前の幼生】には、何も教えないのだ、教えてはならないのだ

いくら【掌】を惜しもうと、【瑠璃の翼】を持つ限り、【親神】への進化を拒絶する事は許されない…

逆に【赤翼】に進化しても、嘆くばかりではない【自由な両手】は残される
その【ありがたみ】に気がつくには、翼の分化が終了した後
ようやく許された、知識の吸収が始まってからだ
少々の時間差はあれど、【瑠璃の翼】よりも【掌】を喜ぶ者も、少なくはないのだ

逆に【力】の代償に【掌】を失ってしまった事を、嘆く者も出るだろう
その者は…幼少時に叩き込まれた、【選民思想】と【特権】を心の糧としてゆく
自らのアイデンティティーを護る為に、より強固なソレを持つ事になるのであろう

そして…おそらくは、それが【赤翼】が決定的に【主家】を敵視せずに従う理由でもある、
子を成す力を失ってしまう【赤翼】は【主家】から離れられない…と言う種としての事情も勿論だが
【特権】に変わる【掌】に対する優越感が、彼等の不満と怒りの矛先を収めてしまう
雁字搦めのしきたりに縛られる【主家】とは異なる自由な立場も

そうやって…異なる階級の均衡は、
互いに対する、薄暗い優越感の上に、危うげながら保たれてきたのだ
砂漠と言う限定された空間と価値観の中で、密やかに脈々と

だが…その両者の価値観を、根底から覆してしまう者が現れたのは、彼等にとって大問題だ
それが【掟破りの幼生】ジェイルなのだ…

翼の分化前には、禁忌とされる他者の気を、しかも悪魔の気を受けただけではない…
【瑠璃の翼】を持ちながら、自ら【親神】への進化を躊躇する彼の行為は

二重の意味で、同族を裏切ってしまう形になるのだ…その在り方そのモノを

例えジェイルの羽化と進化を喜ぶ者は、血族しかいなかったとしてもだ…

「それは…罪になるのですか?偶発的な事故の連続を、両階級の思惑の全てを
まだ若い彼一名が、負わなければ成らないのですか?」

絶句するダミアンに、王は更に続ける

「それが …古き血族の悪習でもあるのですよ、そして滅びに向かう我等を、
かろうじて繋ぎ止める、原動力でもあるのでしょうな…忌々しい程に…
だが…あの子はまだ、運が良い方だ…少なくても、儂の命がある内に
【赤翼】の真の意味を知る者が存命の内に【その時】が来たのだから…」

【赤翼】の真の意味とは…大昔、養い子の叔父は、ソレは可能性の一つだと言っていたが…

「我等が砂漠に引き籠もる以前、その数も多くまだ中央に居た頃を知る者は少ない…
その当時から有ったのですよ、【掌の罪】は…
かつてのソレは、【親神】への進化を自ら拒んだ者の姿…」

授かるはずの【力】と【身体】を、自ら捨てる選択をした愚か者が、
【魔神】の姿と能力を捨て、群れを出奔する為の姿だったのですよ…

種族として【力】を失いつつある今は、本人の意思に関係無くなってしまった
何時しか…スフィンクスの成体に進化出来ない程に、体力と魔力の弱き者は、
体力の維持が優先され、自動的に【赤翼】の姿が選択される様になってしまった
その反動か?生殖能力すら失ってしまいますが…

本来の【赤翼】とは、意図的に変化するべき姿、もう一つの選択
スフィンクスである事を捨て、別の世界に踏み出す為の姿だったのですよ

勿論コレは禁忌だ…その方法を知る者は、ネメスの中でも高位のモノに限られ
【赤翼】に堕ちた者は、近しい血族への別れすら許されずに、速やかに群をはなれた…
儂がまだ幼生であった程の古き時代では、そういうモノだったのですよ

故に…魔神側の公式の記録にすら残っていない…否、意図的に残されてはいない
そうでなくても少なくなった【瑠璃の翼】から、これ以上脱落者を出さない為にも

「では…王は、魔神族が、意図的に【赤翼】になる方法を御存知なのか?」
「いかにも…恐らくは、儂が最後の一名でしょうな、その【外法】を知る者は…
再びソレを使う日が来ようとは…思ってはおりませんでしたが…」

しかし…あの子が【赤翼】になる、それだけでは、貴殿も満足されないのであろう?
しかも今の【赤翼】は昔とは違う…砂漠の外に出れば【瘴気】にその身を滅ぼす…

ここまで騒ぎが表面化してしまった以上、あの子を【赤翼】の群に戻す事すら、最早難しい

選択の時が来たのだろう…あの子がこのまま、スフィンクスとして生きるのか?
或いは【悪魔】に転魔するべきなのか…前例が無い分、危険が伴いますがな………

「但し此方も条件を出させて頂こう、選択の権利は必ずあの子に…
命が掛かる事項ゆえに、先程の様な強制的な形は、御遠慮願いたい…」

そう言ってキロリと此方を睨み、威圧する王に、ダミアンは涼やかに答えた

「もとより、【チャーム】をあの子に掛ける気はございませんよ…
仕掛ける前にバレてしまいますから、それだけ長い時間を共にしておりますから」

外の喧噪を余所に、着々と速やかに進んでゆく両種族の会談は
穏やかな結論と結末を迎えようとしていたその時、部屋に駆け込んで来るのは小さな影
青鷺の頭の男、書記官が酷く取り乱した様子で報告する

「大変でございます!!!天秤が!地下神殿の外に召還されております!」

彼等の神器の中でも、最重要な物の一つである事は間違いない
特にソレを用いた【裁判】を司る彼にとっては、一大事でなのは無理からぬ事
しかし王は動じない、その意味を先に察知したのだろう、静かに彼を諭す

「トートよ…そう慌てずとも良い、今、アレを召還出来る者は、
お前とマアト、そしてメネプしか居らぬでは無いか………」

メネプ…そう言えば、神官長は、一体何処に行ったのか?
これだけの騒ぎを起こしながら、まだ一度も姿を見ていない、砦にもその姿は無かったはずだ

「時は近い様ですな、我々もココを出なければ、なりますまい…
トートよ、天秤の召還地点を探査を急げ、我々もその地点に向かう
マアトッ、マアトは居らぬか、儀式の準備じゃ、呼んでまいれ」

「御意…」

矢の様に部屋を走り出る、書記官の背を見送りながら、王はゆっくりと立ちあがる

「ダミアン殿…貴方にも御一緒して頂きますよ、ソレにもう一つ
貴方には、お知らせせねば成らぬ事がある…知る権利がある
側に侍り、あの子の身体の全てを調べた、メネプからの報告の全てを
あの子に【瑠璃の翼】が生えた理由と共に、身内の恥を晒す事にはなるが…」

身内の恥とは…一体何の事なのか?道々聞かされるであろうソレは
王にとっても、私にとっても、あまり気持の良い話では無さそうな事だけは、彼の表情からも読み取れるが…
嫌な予感を抱えながらも、ダミアンは王の後に付き従う

一体外の状況はどうなっているのか?通信機を逆探知される等の初歩的なミスで
エースの動きを阻害しない為にも、その全てを投げ渡してきてしまったが…
ジェイルを確保したと言う知らせが、ココに上がってこない事を考えれば
無事に確保して隠蔽しているのだろうか?あの男が?

進化と羽化の進み具合は、何処まで進んでしまっているのか?間に合うのか?

心配と不安は尽きないが、砂漠の王が、此方の意向を飲んでくれた件は収穫としては大きい…
半分自暴自棄になった、無理な別行動も、強行した意味は有ったと言う所か…
後は…その姿をキチンと確認する事だ、最終的にジェイルがどちらの選択を下すとしても

※※※※※※※※※※※※※※

このまま間に合わない様なら、出来るだけコイツの望みも叶えてやるか?

事前に詳細を聞かされた事もあるのだろう…
自分でもびっくりする程、相手に同情していたエースは
ジェイルを抱き上げると、案内されるままに砦の中を進んでいた

カツンカツンと靴の音が鳴り響く、ココは一体何なのか?案内されたのは、巨大な縦穴
砦の北側には巨大な塔があり、その地下には、何処までも続く深い穴が続いていた
縦穴の淵には、螺旋状の階段と通路が伸びており、一種独特の雰囲気を醸し出していた

「何?もしかして怖いの?大丈夫…何にも企んだりしていないよ…
外はさ…気温や湿度の変化が結構あるから、この場所を選んだだけだよ
音もあんまり外には漏れないし…ダミアンには、秘密にしておきたかったから」

この縦穴の中頃辺りになるかな?この通路の一番ドンツキの部屋だから
ちょっと足下は悪いから、気をつけてね…それだけ言うと、子供はギュッとしがみついてくる

この縦穴が、何なのかは解らないが、噴き上がる風に、適度な湿り気を感じる所を見れば
下に地下水脈でも通っているのかもしれない、砂漠の中継地には良くある事だが…
逆にこの場所から、侵入者を許してしまう結果にもなりかねない

砦である以上?何らかのトラップは付いているとは思うが…
用心に越した事は無いと、一応簡易結界は、張っておくべきか?
エースは、通路を急ぎながら、そんな事を考えていた

階段を降りる度に、ソレに先行する形で、ポツポツと無限燭台が灯ってゆく
たっぷり50m程は下っただろうか?通路の途中には、他にも幾つかの部屋があったが
倉庫と覚しきソレ等の部屋には、少しも目もくれずに、問題の部屋を目指す

他の部屋に比べると、一際重厚な作りの扉の前に立つと、その扉の中央にも、
あの不可思議な形の十字架の紋章が、金属で出来たソレがはめ込まれている

『Aberto』

青錆の浮き出たソレに、ジェイルが手を伸ばし、何やら唱えると
金色にソレは発光して、カチャリと音をたてる、施錠魔法か?
ギーッと音を立ててて、開く扉は主を内側に招き入れる、同時に部屋内部の燭台にも火が灯る

「これは…凄いな…」

その内部を一目見たエースは、思わず感嘆の溜息を漏らした
彼にとってもソコは、玩具箱をひっくりかえした様な、魅惑的な部屋だった
壁一面に丁寧に並べられた、古今東西の弦楽器の数々

何でもござれで…雑食らしいチョイスは、ダミアンと同じではあるが
ガキが集めたソレらしく、極端に高価なモノは無い様だが
無駄に奇をてらう傾向はなく、実用性の方が重視されている、材質に関しても

ピカピカに磨きあげられたコレクションを見れば…如何にコイツが、此等を大切に扱っていたかは解る

部屋の内部に見とれる俺に、ジェイルは降ろしてもらえる?と小さく笑った

「ダミアンには、内緒にしておいてね、ほら…スグに拗ねるじゃん、皇子様のクセに」

コレをどうするか…ずっと悩んでいたんだ 

一番下に立てかけてある、利用頻度の高いと思われるギターを撫でながら、彼は続ける

【羽化】してしまったら、【親神】の身体になってしまったら、もう使えなくなっちゃうから

たまにココに寄って遊んでくれた、演奏好きの悪魔か、楽団のキャラバンに渡そうか?
持ってきてくれた悪魔に返そうか?とも思ったんだけど…それも何だか寂しくてさ出来なくて

何度も帰ってきては悩んでさ、結局はズルズルと、ここまで一緒に居てもらっていたんだけど

いざこうして、もうすぐ使えなくなっちゃうんだな…そんな瀬戸際にきてみると
やっぱり悲しいや…こんな事なら、綺麗さっぱり処分しておくべきだったかも

落ち着いた物言いではあったが…
此方に背を向けたままの背中は震え、語尾は嗚咽にかき消されてしまう

ようやく見せた、コレがコイツの本音か…ちゃんとガキらしい所もあるじゃないか

その背を見下ろしながら、エースは唇を噛み締めた




続く


う〜ん…何だか根暗モードがまた炸裂???

どうなんでしょうね〜【掌の罪】って?

確かに管理人も一度、ソレに似たモノを味わった事があります
SM業界ではなく、また別の業界ではありますが

一応?独立思考だけは強く、決して豊かではなかったものの生活力も有りまくりだったので
夢の為に親/親族のスネを齧ると言う選択はなく、社会人にはなっていましたが、

学生時代から、どっぷりと浸かっていた【夢追い的な業界】で
生きた時間と、楽しさが忘れられず、結構いい年まで悩んだモノですよ

製作と仕事・その他アルバイト、一日が24時間じゃ全然足りなくて、貧乏のどん底だったし
睡眠時間もロクに取れず、身体も壊したし、大変な事の方が、遥かに多かったはずなのに
多分あの時が、一番生きている事を実感出来た…ソレだけは間違いないんですよね

大きなホールを借り切って、動員数を集める様な、売れっ子と言うワケではありませんでしたが
少額ながら、慰問や営業、各種イベントに参加する形式は楽しくて

家族を養うまでは無理ですが、自分一人くらいなら、何とかなるレベルくらいにはなっていたのですが

結局は…表の仕事との両立と、世間体を気にする親族の理解のなさ(直接的な妨害)など色々あって、
その【夢追い的な業界】に、完全に埋没する事は不可能と判断
所属していた劇団の解散と同時に、普通の?社会人としての人生を選択はしましたが

時折、未練がましく思い出すのですよ、
あの時道を違えていたら、どうなっていたかな?と?

一から全てを構築する楽しみを知ってしまうと
何も知らなかった、時間には自分には、戻れないんですよね

趣味と言う形で、今も時々は古巣の手伝いはしますが…
趣味と割り切ったソレとは違うんですよ、やっぱりね

ソレから手を引かねばなら無い時の、ダメージって結構計り知れなかったです

まぁ…あのまま続けていたら、
自分の体力限界を全く顧みない暴走状態が、無理が祟って、
身体は更に悪くなったろうし、下手したら過労死もあり得た上
大好きなライブや芝居にもあまり行く事も出来ず、凝り固まった思考になっていたかもしれませんから

今の選択も間違いだったとは、思ってはいないのですが…

そんなほろ苦い青春?あの時の気持ちが、上手くかけたらいいな?そんな感じかもしれません

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あきゅろす。
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