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【見習い拷問官と教官】
『廃城の砂猫』 3 擬態 ダミ様×J 関係発覚編

パチパチと燃える暖炉の薪を、火かき棒で調整しながら、エースはもう一度深い溜息をつく
これは…王都を出た時に考えていたよりも、事態は根が深く、深刻な事なのかもしれない

「経緯はどうであれ、ソイツとの出会いは解った…
だが…擬態にすらなれない幼生が、親神に進化なんてするワケがない、お前…まさか…」

「ああ…エースの考えている通りだよ…」

【不可侵条約】もクソも無い…力を分け与えたのは、私だ、
王族の皇太子としての立場なんて、その時はどうでも良かったからね
最も…本人の意思確認もなく、転魔させてしまうつもりは無かったから
加減してはいたのだけどね…


城のゲートが開く振動か、波動が、解るのか?私が砦を訪れると、彼は必ずやってくる
時には先に砦に入り込んみ、寝こけている彼に出迎えられる
そんな風景が、当たり前になってしまう頃には…

私にとっても…この砂漠での息抜きは、重要なモノになっていた様に感じる

ココに居る間は、私は皇太子じゃない、普通の市井の悪魔で居られる
そんな錯覚さえ覚える程に、この場所の居心地は良かった

砂漠の外の世界を、殆ど知らないジェイルは、
私が持ち込むモノの全てに関心を持ち、外の世界の話を聞きたがる
最初はその貪欲さに、少々戸惑い、そして疑問にも感じた

悪魔以上に長い歴史を持つスフィンクスは、その知識の備蓄にも定評がある
なのに…何故その幼生であるこの子は、それなりの情報を持っていないのか?

それとなく彼に尋ねてみれば、どうやら一定の成長・進化を終えないと
必要以上の知識を与えてはならない?奇妙な掟?と言うより暗黙の了解があるようだ

スフィンクスは卵から生まれた時は、等しく【獣体】であり
身体と魔力の成長と共に、悪魔に良く似た姿の【擬態】を習得する
ここまでは、個体差はあれど同じなのだが…その後の進化に差が生じるらしい

【瑠璃色の翼】が生えてきたモノは、スフィンクスの親神に進化するのだが
【深紅の翼】が生えてきたモノの進化は、【擬態】の小さな身体のまま止まってしまう
通称【赤翼】と呼ばれる彼等は、親神にはなれなくとも、立派に「成体」ではあるのだ
だが…子供を成す事はなく、力のレベルも、進化前の状態と、さほど変わりはしないらしい
砂漠でしか生きられない、虚弱体質すらも変わらない、幼生程には弱くはなくとも…

故に【赤翼】の殆どは、育ったキャラバンに留まり、
羽根の生えそろわない子弟達と生活を共にする、その面倒を見てやりながら

自らの弟妹達には、【瑠璃色の翼】が生えてくる事を期待して…

どうやら我々悪魔が、【擬態】と思い込んでいた「砂漠の民」は
その殆どが、この【赤翼】と呼ばれる者達だったらしい
砂漠の特産品を糧に悪魔と取引をして、外界の情報を得るのも又彼等の重要な役目だ
本当の意味での幼体・分化前の子供は、【赤翼】と親神に厳重に護られ、悪魔の前に姿を表す事も希らしい

そんなに大切な幼体なら、いっその事?秘密の【地下宮殿】とやらで育てればいいのでは?
と、私なら、単純にそう考えてしまうのだが、ソレもどうやら具合が悪いらしい
繊細な【幼体】が正常に育つには、砂漠の奥底から湧き出る【大地】の力と【大陽】と【月】の力が不可欠で
成長期に地下に籠もってしまうと、後者のソレを充分に受ける事が出来ない

故に【幼体】のキャラバン生活は、危険が伴っても必要不可欠である事、
合理的に砂漠で暮らす悪魔を利用するだけでなく、自らの一族でもある【赤翼】すらも、
ダミーの役割を果たしながら、彼等を護っている…翼の分化が、決定されるその時まで

そして…その翼の分化が、はっきりと決定した後に、
初めて『外界の知識』を吸収する【権利】を得ると言う話だ

コレは一種の『純粋培養』みたいなモノなのだろうか?無用な先入観を与えないための?
ジェイルから、その話を聞いた時には、その程度にしか考えておらず
その『本当の意味』を深くは考えていなかったのは、愚かな事だったかもしれない

「でもさ…今更ナンセンスな【決まり】だと思ってるんだ、俺はね………」

絨毯の上にペタンと寝そべるジェイルは、尻尾を振りながらぼやく
私が持ち込んだ、お子様には少々早い?魔界のグラビアを眺めながら

「悪魔にこんな事を話すのは、問題有り?かもしれないけどさ
スフィンクス族の力が、弱体化してるのは、目に見えているんだよね
ちょっと外界の瘴気を吸っただけで、直ぐに血を吐くこの体質が、いい証拠だよ
【瑠璃色の翼】が生えた奴なんて、殆どいないし、最近は良くて【赤翼】ばかりだよ
それどころか…俺みたいに、【擬態】にすらなれない奴も、珍しくは無いんだよね
翼が生えるまで、何も知っちゃイケナイのなら…俺みたいなのは、どうしたらいいのさ?
何も知らないままで、寿命を終えろ!って言われてるのと同じだよね………」

時間の経過だけが、彼の成長を助け、解決する…と言うワケではなさそうだ
初めてその気配に気がついた時から、解ってはいた事だが…

この子の寿命は、そんなに長くは無いだろう、魔界に住まう魔神ではあっても

力の波動は、間違い無くスフィンクスなのだが、あまりにもの生命力が弱すぎる、
潜在的には有るはずの、その強大な力を振るうには…虚弱な【器】の方が持たないのだ

【擬態】に変化できないのも、体力を無駄に浪費しない為の『自浄作用』だ
生命維持を優先して、身体がに制限が掛かっているのだろう、彼の自己意識とは無関係に
おそらくは…他の「進化出来ない子供達」とやらも、きっと同じ事なのだろう

強大すぎる力を駆使する一族が故に、その力を得る為の【器】は選別される

残酷な事の様だが、ソレが自然の摂理だ
そしてその選抜にすら、勝ち残れない者は、弱肉強食の魔界では生き残る事は出来ない
ソレはこの私も、当事者であるこの子も、理解はしているのだが…
正論で全てを片付けてしまうには、私達は、親密になり過ぎていた

『いっそ…私の血を飲んで、悪魔になるつもりは無いかい?』

その問いかけが、何度、喉元まで出掛かったかは…解らないくらいだ
並の悪魔の血なら、おそらくは魔神のソレに打ち消されてしまう、いくら力が弱くとも

だが…私の『特別な血』なら…論理上は、彼の身体にも馴染むはずなのだ
全てのモノを悪魔に変質させてしまう、大魔王家の血ならば
前例は無いが、魔神からの変異悪魔を作る事は、可能なハズなのだが…

器の方は…瘴気に触れただけで、激しい反発作用を起こす身体でもあるのだ
ソレにより何が起こるかは、想像もつかない………
そうでなくとも身体に負担が掛かる転魔現象に、この脆弱な身体が持ちこたえられるのか?

そう思えばこそ、ソレを口にする事は出来なかった
私の判断ミスで、ジェイルの寿命を削る様な真似は、絶対にしたくはなかった

いいじゃないか…このままの穏やかな関係で
この子の寿命が尽きるまで、この子の望むモノを与えてやればいい

自分では、そう納得しているつもりだったのだ
だが、私が考えていたよりも、ずっと早くに『その時』が来てしまった

その夜も、ジェイルが喜びそうな、異界のレコードを数枚と
まだ実物は見た事が無いと言う、海の写真が沢山載った写真集を持って、砦へのゲートを潜った、
お決まりの減らず口を叩きつつも、夢中になって読み漁るその姿を期待して

砦に到着すれば…中の照明は既に灯っていた、また勝手に入り込んで居る様だ
最も…私が彼に渡すお土産を、彼は自分のキャラバンに、持ち帰る事は出来ない

この関係は、あくまでも秘密のモノだから

累積してゆくソレ等を備蓄する場所は、結局はココしか無いのだから、
彼にもココを自由に使っていい、とは言っていた
何時でも好きな時に、ソレを楽しんでもらう為に…

私との時間は、無理に空元気を装ってはいるが…
最近は…また身体の具合が、あまり良く無さそうだったからね
これで少しは、元気になってくれると良いのだが

眠っているかもしれない、彼を起こさない様にそっと部屋を覗けば
見慣れた姿が、暖炉の前でうずくまっているのが見える

「ジェイル?」

何時もの光景なのだが、何かが変だ… 静かすぎる、その息づかいすらも
直感的に、薄ら寒さを感じた私は、荷物を放り出して、慌てて彼に駆け寄った
通常ならその手や肌に、じんわりと温かいはずの毛皮が、変に冷たい
呼吸は?かろうじて、してはいるようだが…小さく浅い…今にも消え入りそうだ

もう…その時が来てしまったと言うのか?この子は、まだこんなにも幼いと言うのに?

抱き上げた彼を連れてゲートを戻り、王都のメディカルセンターに、連れて行こうにも、
王都の瘴気が、トドメになるのは明白だ…ダメだココで何とかしなくては…
治癒魔法は使える…だが悪魔のソレを、弱り切った魔神の身体に、直接注入しても大丈夫なのか?

それ以前に…おそらくその行為は、【不可侵条約】に著しく抵触するのは解っていた

どうしたら良いのか解らず、ただ冷たくなってゆくその身体を、抱きしめていた私の目に飛び込んで来たのは
彼の為に持ち込んだ、青い海の写真だ、取り落とし、半開きになったページがパラパラとめくれる

そうだ…ジェイルは海を見たがっていた、私から見れば…そんな些細な望みすら叶えられずに、
この子はここで死ぬのが、運命だと言うのか?、そんなの絶対に間違っている

【不可侵条約】などクソ食らえ、どうでも良かった
ただ…生きて欲しいと願った、このまま死んで欲しくないと思った

私の両手から、最大出力で放出する治癒魔法が、一気にその小さな身体に流れ込む
ぐったりと私の腕に収まり、微動だにしなかったジェイルの身体が、ソレに呼応する様にビクビクと震える
一瞬…悪魔のソレを拒む隔壁が、バチリと反発の火花を散らすが…
彼が弱りきっていたせいか?易々とそのシールドを破壊する事は出来た

いける…いけるハズなんだ…悪魔も魔神も、同じ魔界の住人には違い無い、
多少の反発作用はあっても、このまま何もせずに見ているより、遙かにマシだ

「戻ってくるんだジェイル…まだ幼い君が、レテに身を沈めるなんてまだ早い」

高度な治癒魔法は、自らの命と生命力を削り落とし、相手に注ぐ事になる
半ば暴発した状態で、ソレを注ぎ続ける私も、頭が朦朧としてくるが…
まだ止める事は出来ない、もう一度、その金色の瞳を見るまでは、声を聞くまでは

治癒魔法は効いているハズなのに、なかなか鼓動が強く戻らない、冷え切った体温も
その身体を強く抱きしめながら、私はダラリとうなだれるジェイルの頭を持ち上げる
少しだけ開いたその口に、自らのソレを重ねると、
ソコからも、ありったけのヒーリングを流し込む…頼む目を覚ましてくれ…

ふぉん そんな音がしたように感じたのは、多分気のせいではないだろう

室内の空気がビリビリと震え、振動しはじめる、床も家具もガタガタと揺れている
重ねられた唇から、両手から、急激に力を吸い取られているのを感じていたが…
構わず施術を続けた、そうだ…必要なだけ喰らえばいい…それが生きる糧に成るならば

全身が…仄かに発光しはじめるジェイルの身体の輪郭が崩れ、徐々に別の形を取り始める

美しい毛皮が消え失せた後には、白い肌が、指先も足も私のソレと同じモノに
柔らかい茶髪の下には、白く変容した顔が…そしてソレに浮かぶ、特徴的な紋は…
成る程…確かに悪魔のソレとよく似ている、これが…噂に聞くスフィンクスの【擬態】か?

腕の中の獣は消え失せ、年端もいかない子供が、唐突にそこに現れる
どうやら過剰に供給したヒーリングが、偶発的な【進化現象】を引き起こした様だ

身体の変異が、完全に完了すると、着実に戻ってくる呼吸と鼓動…

良かった…取りあえずは、彼をコチラに繋ぎ止める事には成功したのだろう
問題はこれからだ、この後始末ではあるけれど、そんな事は本当にどうでも良い
ただ生きてくれれば、生き延びてくれればソレだけで良かった

そのまま彼を抱きしめていると、体温が戻るのと当時に、薄すらと目が開く
ああ…姿は変わっても、その目は変わらないのだね、
待ち焦がれたその金色に、半泣きの…みっともない顔をさらしていたのだろうか?
まだ力なんて入らないであろう、ジェイルの手が、たどたどしく私の頬に触れる

「………ダミアン?何で泣いてるの?…あれ…俺どうしたんだろう?」

ボンヤリとした目は、何時もとは、形の違う自分の手に驚きつつも
状況をあまり把握出来ていない様だが…その声を聴けただけで良かった、
私はもう一度、痛い程に強く、彼の身体を抱きしめた

「痛いよ…ダミアン」
「痛いって言うのも、生きてる証拠だよ、良かった…戻ってきてくれて
まだ無理をしてはいけないよ、後は私が何とかするから、今はそのままお休み」

額の髪をかきあげて、その額に優しくキスをすると
少し強めにかけたヒーリングと暗示を、素直に受け止めてたのだろう
特に抵抗も見せずに、ジェイルはコトリと深い眠りについた

もう安心だとは思うが、容態が急変されては叶わない
ダミアンは強引に翌日の公務をキャンセルすると
一晩中ジェイルを抱きしめていた、砂漠の砦の空を眺めながら

コレは確実に大問題になる…【不可侵条約】に、いくつ違反した事になるのやら
まずは大魔王のカミナリへの言い訳と、スフィンクス側が、納得する回答を用意する必要がある
緊急事態とは言え、計らずも、掟と習慣を破ってしまった形になってしまった
ジェイルの今後の身の振り方も含めて、考えてやる必要が出てくるだろう

どちらにしても、もうコレは私のモノだ…
大魔王が、怒り狂おうが、誰が何と言おうとも、皇太子の地位すら惜しく無い
死神にも魔神にもくれてやる気など、毛頭無かった

※※※※※※※※※※※※※※

「………無茶苦茶な皇子様だとは思っていたが、ソコまで大馬鹿だったのか?お前は?」

「大馬鹿で結構だ、あの時、彼に死なれる方が、よっぽど大問題で堪えたからな…
だが私は、廃嫡にはなって居ないだろう?」

「お前の気持ちも、解らなくは無いが…タダでは済まないだろう?そんな条約違反は?」

「ああ…そうさ、翌朝には親父殿から、大目玉さ だけどそれだけじゃ収まらないだろ?
内々の側近のみで、緊急招集された議会は大荒れで、謁見の間が、弾劾裁判状態にはなったな…」


実際…強引に呼び戻された、魔王宮は、既に騒然とした状態になっていた
最悪の場合、魔神との戦闘状態が、勃発する可能性もあったからだ
大魔王の大目玉は勿論だが…「いかなる形で、責任を取るおつもりですか!!!」
と激高する重鎮達の中には、面と向かって、私の廃嫡を提案する者まで居たくらいだ
だが…そんな連中の罵詈雑言も、その時の私にとっては、五月蠅い雑音でしかなかった

この議会に参加する為に、やむなく側を離れたジェイルの事の方が、気がかりだったからだ
バトンタッチで宮廷の医療スタッフを数名、砦には置いて来てはいるのだが
知らない悪魔に取り囲まれたあの子が、変に怯えてはいないか?そちらの方が心配だったからだ

「各々方も少しは冷静になりたまえ…形ばかりの責任問題など、この際どうでも良い事だ、
問題は魔神サイドに、どう申し開きをするか?と言う事ではないかね?」

堂々巡りの議会に、それまで沈黙を守っていた強い声が、ピシャリと鳴り響く
閣僚達が、一斉に其方を振り返れば…老齢の水妖が、末席から彼等を見渡している

老大師セネカ、かつて参謀本部の『影の怪物』と呼ばれた【前副長】だった男だ
下級貴族・中級悪魔の家柄故に、そのトップに付く事はなかったが
三代に渡る参謀長をサポートし、支え続けていた、事実上の裏のトップだ
退役後もその才を惜しんだ、現大魔王に招かれ、私的な相談役・知恵袋のとしてその側に侍り
仕官学校に入学する前の、皇太子の家庭教師でもあった経歴をも持つ

「貴公にそのような口きかれる覚えは無い、そもそも其方の皇太子殿下に対する教育が、
充分では無かった故に、このような問題に発展するのだ!!!」

別の重鎮が噛みつき吠えれば、それを擁護するような罵声が上がるが
セネカは全く意に介す事はなく、静かな口調でかつての生徒に問いかける

「殿下におかれましては、今後の魔神達との関係は、どうあるべきとお考えですか?
まずはそこから、お聞かせ願いますでしょうか?」

「どうって…勿論争う様な事は避けたい、あの子と出会ってから更にそう思う様になった」

魔神はスフィンクス族だけでは無いのだが、共通して言えるのは…
弱体化する一方の種族ではあるものの、変にプライドが高くて排他的で
形ばかりの条約は結んでいても、何時、敵になるやもしれない【危険な存在】
等と、ついこの間までは考えていたのだが、今は全く違う印象だ…

スフィンクスの、あの幼生から、知り得た内情から察するに
我々が考えている以上に、彼等の力の弱体化は進んでいる儚い存在だ
滅びる事が彼等の運命なら、そっとその成り行きを見守る度量が、
悪魔側にあってもいいと感じた…末端では交易する者も居るくらいだ
弱体化がコチラの好機と、無理に征服し蹂躙すべき相手ではない、
話が全く通じない相手では、ないと言う印象だからね

咄嗟の判断とは言え、私の行動が、軽率だった事は認める

だが逆に今回の一件で、彼等の【困難】になんらかの形で、助成する事が出来れば
力強い味方となってくれる事も、可能ではあるまいか?
私に次期大魔王としての資格が、まだ残って居ると言うのなら
悪魔の国益の為にも、彼等とはもっと良好な関係になりたい…そう考えては居るのだが…

国益云々など、本当は考えては居なかった
しかし魔神と戦いたくは無い、否…最早戦えなくなったのは、本心であり事実だった
ただ…あの子を手放したくなくて、一晩中考えた言い訳だが…
元師であるセネカに親父殿や、他の重鎮達に届くのだろうか?

私の演説めいた回答に、議会は一瞬静かになった、ソレを受けたセネカは再び口を開く

「では…ダミアン様、一度皇太子としての地位を、陛下に返上していただきましょうか?
そして一王族の特使として、単身でスフィンクスの地下宮殿に、赴いていただきます
先方もソレを、納得のゆく説明を望んでおります故…首尾良く相手を説き伏せ
新たなる調印を結ぶ事が出来た暁には、皇太子に復帰して頂く…ソレで如何ですか?」

結果はどうであれ…軽率な行動の責任として、皇太子の地位を掛けて頂くのが貴方への懲罰
これでここに居並ぶ皆様に対する面目も立ち、申し開きが出来ると言うモノではございませんか?

立場上、一方的にダミアンを擁護すると思われていた、セネカの口から出た以外な言葉に
議会全体がザワザワとざわついた、皇太子の擁護派の重鎮達は

「仮にも皇位継承者を、単身で魔神の巣穴に放り込むなど、とんでもない話だ」

と、セネカに詰め寄る者も現れたが、
ダミアンにとってはそんな事は、そんな事はどうでも良かったに違いない

皇太子は、ニヤリと笑って席を立つと、右手を中に翳す
掌の中央から、体内から、メキメキと生える様に出現するのは…
大魔王家の紋様が彫り込まれた、一振りの豪華な宝剣だった
形式的なモノではあるが、皇太子の身分を証す代物だ
ダミアンはソレを、円卓の中央に恭しく置くと、父王に礼を取る

「コレは一度父上にお返しいたします、只今の時間を持って一王族として、特使として、
スフィンクスの地下宮殿に赴きます事を、お許し頂きたい…」

皇太子では無く、家臣の礼を取り、真っ直ぐに自分を見る息子に、
大魔王はただ黙って頷くと、ダミアンはマントを翻し、謁見の間を後にする、

残された閣僚達はざわめくが…大魔王の最終決定は絶対だ、
特に今回は、問題が思わぬ方向に発展しただけに、下手な反論は自分の頸を絞めかねない
かくして議会は解散となり、残された部屋には大魔王とセネカだけが残った

「セネカよ…其方も存外、厳しい師であったようだな…」
「御心配は無用でございます陛下、彼等がダミアン様に危害を加える事はありませんよ」

少なくとも魔神は、下等な蛮族ではございません、
どうすれば自分達にとって有益か?ぐらい理解する筈
でなければ…西の砂漠に引き籠もる様な真似は、最初から致しませんよ

「だが…あの向こう見ずな息子に、新たな調印など可能なのか?」
「もう少し、殿下を信用なされても宜しいのでは?そこまで不出来ではございませんよ
それに御執心の魔神の幼生が居りますゆえ、最大限の努力はされるでしょう?」

要はこの調印自体が、形式的な通過儀礼の様なモノです、悪魔・魔神に双方にとって
余程の事が無い限り、反対の立場を強く取る者は居ないでしょう

これだけのお膳立てが整った状態で、それすらも出来ないと言うのであれば…

その時こそ、私めは殿下の教育方針を間違えたと言う事…
またその程度の者には、次期大魔王の地位に就く事は不可能なはず

万が一失敗する事があれば…遠慮は要りません、あの方を廃嫡になされませ
次の御子に期待されるのもまた、大魔王陛下のお役目と存じます

「加えて…仮に失敗されたとしても、
皇太子殿下の地位は返上されております、大魔王家の威信に傷がつく事は無いかと…
スフィンクス族も他の魔神族をさしおいて、単独で悪魔と接触した挙げ句に、
拗れて戦闘状態となったとなれば、タダでは済みますまい
悪魔と争う前に、魔神族内の内乱で終結するでしょう…
力の弱体化は、かの一族だけに留まっているとは思えませんから…」

条約破棄が開戦の狼煙に成る…と言いながらも、その実双方がソレを望んではいない
そのまま運良く、ダミアン様の甘いお考えの様に、
魔神がコチラの参列に加わってくれるのであれば…それはそれで御の字ですが
最悪でも…今の魔界の勢力分布の均衡を保つ為には、
魔神は【為体の知れない存在】のままので居てくれればソレで良い

どちらににても、彼等は、適度な緊張感を保つ『抑止力』として、有り続けて貰わねばならない
先方もまた…弱体化を隠し通し、最後の時を穏やかに迎える事を望んでいる

それで充分では無いでしょうか?【真実】を知るのは一部の支配者階級のみで構わない…

「スフィンクスの子供は、その均衡の鮮度を護る為の、一つの切っ掛けにすぎませんよ
例えどのような結果になろうとも、ダミアン様が為政者として成長する上では
良い経験と成られる事でしょう、机上の空論よりも実経験は、必要不可欠でございます」

うやうやしく、礼は取ってはいるものの、やはりこの男は抜け目ない
大魔王家に忠誠を誓うと言うよりも、魔界に有利な状態での現状維持が、この男の行動原理なのだろう
その一方で、皇位継承者たる、ダミアンにも監視の目と、保護の手は差しのばしている
単身で向かわせたとは言っているが、万が一に備え刺客ぐらいは、既に放っているのかもしれない

「全く…恐ろしい男だなお前は、私もダミアンも、所詮其方の駒に過ぎないと言う事か…」

「その様な者だと解っていて、お側に置かれているのは、陛下御自身でございましょう?
御心配されますな…多少時間はかかっても、それなりの成果をご期待くださいませ」

確かに綺麗事では済まされない、暗がりの部分の習得は、まだ不十分ではございますが…
あの方も、私の可愛い生徒の一名ではございますから…

セネカはそう言って…ニタリと黒い笑みを零した




続く

あれ?次回はエロって言ってなかった?
すみません…予想外に長くなっちゃって、人名救助シーンだけになってもうた〜
まぁ此もこのサイトではよくある事なので、気にしないでくださいね、トホホホ

しかし…一種の人工呼吸のはずなのに、何故か微妙に腐に見えるのは
書き手である管理人と読者様の、目と脳内再生が、腐寄りだからですよ…多分

ちびジェイル君は、ようやく【擬態】になれましたが、
まだこの昔話シーンでは小学生5年生くらいです、ちびっこです
そういうのが、好みの方には…もう少し幼いイメージでもいいかも?

ダミアン殿下が…高校生くらいかな?この頃はまだ???
だから緊急招集の閣僚の中に、長官は居ない(汗)エースもまだ仕官学校生だから
内密に処理されてしまった、この砂漠の騒動は知らなかったワケですハイ…

エ:「そういやダミアンの奴、なんで授業に出ないんだ?また王族の公務か?」

何て思っていたのかもしれませんねぇ…多分(かなり強引だなぁコレ)
瑠璃色の翼が生えたのは、ジェイルが中学生くらいになってからのお話です
回想シーンが終わるまで、先に進むのは暫し待たれよ〜

さて…今回も、意味不明なオリキャラの登場ですね
幼少期のダミ様の家庭教師、老大師・セネカさん、詳細は本分参照

名前だけは、皇帝ネロの家庭教師と一緒ですが…
本物のセネカさんは、生徒が悪かっただけで、ここまで策士ではありません
むしろ頭がいいだけの?臆病なインテリですから、中身は全く違います

水妖ではありますが、中性タイプではなく、外見イメージは目つきの悪いヨーダ
内面は…徳川家康の知恵袋・懐刀と呼ばれた、天海入道をイメージしてます
山田風太郎の『甲賀忍法帖』版がお気に入りですが
ピンと来ない方は、同作品を原作とした『バジリスク』に登場した
あの一見穏やかそうなのに…腹の中は真っ黒けの姿を、
思い浮かべて頂ければいいかな?と思ってますm(_ _)m


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