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【RX+師弟悪魔】
ソレが二つある理由 2

重厚な扉にまで、幾重にもからみついた蔦を払いつつ
先に進めば…図書館の内部も一面の緑に覆われている
所々に【無限燭台】の明かりは、灯るものの
薄暗いその中は、まるで底のしれない洞窟のようだ
ゼノンには悪いけど…ちょっと薄気味が悪いんだよねこの部屋

こうやって苔と緑に覆われてしまう前から、何となく恐かったから

「薄気味が悪くて当然だよ………」

心を見透かされた様なつぶやきに、ライデンが振り返れば
ゼノンが植物に押し出され、床に散らばった本を
無造作に棚にもどしなから続ける

「ココの管理者と言うか【主】は、筋金入りの…変質者だからねぇ
普通の悪魔も魔物も、出来れば関わりたくないんだよ本能的に
貴重な資料の守護者としては、これ以上ない適任者だけれどね…」

うんざりとした表情を浮かべながらも、目標の生体反応はこっちだと
薄暗い書架の間を抜けてゆくゼノン、取り残された二名も慌ててついてゆく

ある程度は目標物に近づいたのか?暗闇に向かってゼノンが声を張り上げる

「ヨカナーン…話があるんだ、専門的な君の意見が聞きたい
貴重な読書時間を割いて済まないが、出てきてはくれないか?」

シーンと静まりかえる室内、本当に居るのか?俺達以外が?

「ようこそマスター、お父様に御用とはお珍しい事ですね」

抑揚力の無い機械的な音声が、唐突に聞こえたかと思えば
いつの間に、ここまで接近を許してしまったのだろうか?
機械仕掛けの球関節人形?そう見せかけた作りのアンドロイドの少女が、
音も無く目の前に現れる、古風な踊り子の衣装を纏って

「やぁ…サローメ、今度の君は何番目になるのかな?」
「機体製造番号は、68体目になると聴いております」
「君のお父様も飽きないねぇ…それで、お父様は今どこにいるのかな?」
「御案内するようにと、お父様からの御命令です、どうぞコチラへ」

ぎこちない動きの少女が、フラフラと一行を先導する

「相変わらず…悪趣味なじいさんだな…」
「まぁそう言わないであげてよ、管理者としては確かに優秀だから」

外から見れば…室内の規模的にはそれ程広く無いハズ
それなのに…迷路の様に無限に続く書架…ふと来た路を振り返れば
同じように、暗がりに続く書架の群れが、折り重なって見えるだけ

「ねぇ…俺達ちゃんと帰れるのかなぁ…」

ゾッドのベルトを引っ張り、心細そうにライデンが呟く

「なんだ恐いのか?まぁ…迷宮を作ったのはヨカナーンでも
大本の結界全体を張っているのは、ゼノン自身なんだから大丈夫だろう?」
「でも…」

今のゼノンって本調子じゃないんだよね?
それに理由は解らないけど…本能的に近寄りがたい薄気味悪さと言うのだろうか?

ゼノン自身も、時々得体のしれない?謎めいた部分を見せる事があるが
ココの【異質】さは…また質が全然違う…
必要以上に不安を駆り立てると感じるのは、きっと気のせいでは無いのだろう
一度貼り付いたら離れない?ねっとりとした執着心のような…
ドロドロとした思念を空間全体から感じる…常に誰かに見られているような視線も

※※※※※※※※※※※※※※

「お父様はこの奥でございます、ごゆっくり…」

機械少女にそう告げられたその先には、仄かに明るい光りが
書架の隙間に、少しだけ開けた談話室?小部屋の様な空間がある

空間の片隅には、錆びた歯車や機械の金属部品が、無造作に積み上げられている
その手前に放置されている機械は…作りかけなのか?解体中なのか解らない

その反対側にひかれた絨毯の上には…恐らく主のくつろぎスペースなのか?
作りこそは豪華だが、ちぐはぐなソファが2台並び
過度な彫刻と寄せ木細工の美しい、大きな円卓がドンと置かれている
床は勿論、円卓の上にもソファの上にも、無造作に本が積み上げられ
足の踏み場も無い、ゼノンの私室とよく似た状態になっている

立ちこめる煙の臭いは…煙草?いやもっと強い葉巻の臭い?
チョコレートの様に変に甘ったるい不思議臭いだ
でも…部屋の主の姿は見えない?あれ?ココに居るって言ってたよね?

「苦手な私に御用とは…余程お困りかな?私のサローメ?」

足元から聞こえるその声に、ふと目を下に落とせば…

「ーーーーーっ」

声にならないライデンの悲鳴も、もっともだ

ボサボサ頭に無精髭を生やした壮年の男が、
丸縁のサングラスの奥で、ニヤニヤと笑っている
ただ…その首から下は…小さな小動物?猫?
いや猫を模した機械の身体、サイボーグと言った所か?

銀色に鈍く光るそのボディーを、丸く屈めると一気に円卓の上に飛び乗る

「お初にお目に掛かる、雷帝の御子息殿
この禁書室の管理者ヨカナーンでございます、以後お見知りおきを…」

作法通りに恭しく頭は下げては居るモノの、ニヤニヤと笑うその視線には
何故か寒気を感じずにはいられない、一体この男は何者なんだろう?

「ちゃんとした身体は用意してるでしょ?お客様が居るのは解っているのに
どうして普段使いの身体の方に着いたままなのかな?」
「君がソレを言うのかい?愛しいサローメ?
アレは君の為にしか使う気もなければ、つもりもないんだがね…
それとも…いい加減に私の気持ちに答えてくれる気になったかい?」
「ライデンの前で、気色の悪い事を言わないでくれるかな…」

他のモノなら震えあがるであろう、静かで冷たい怒気を含んだゼノンの声にも
ヨカナーンは少しもひるまない、寧ろその反応すら楽しんで居る様に感じる
フリフリと振られた尻尾の先に、無限燭台のランプを一つを吊り下げると
小さな機械の獣は、再びぴょんと床の上に降りて手招きする

「薄暗いココでは患部の細かい部分は診られない、ついておいで」

ヒタヒタと小動物が歩くその先には、また白い光りの洩れる扉が見える
一体この空間は、何処まで広がっているのだろうか?

「ねぇ…あのヨカナーンって何なの?」

一応種族識別は、悪魔みたいだけど…何かがオカシイ
簡単にすげ替えられる?胴体の特性を考えれば
どうやら本体は、あの頸から上の部分だけって事???
何で自分の肉体を再生しないの?普通の悪魔なら簡単なハズなのに

「あの姿じゃ解りづらいかもしれないが、一応【堕天使】になるのか???
モノのはずみで、人間の男の頸に封印されたままだから、あんなナリだけどな」
「な…何でそんな事に………」
「大昔に救世主を導く予言者として、人間の身体に憑依していたらしいが
そこでゼノンの誘惑に負けて、断罪された…ゼノンの義眼の左目の元の持ち主だ」

えっあの男が?よく見ればヨカナーンの左目もまた、義眼のようだ
サングラスに隠れてしまっていて解らなかったけれど………

「それに…封印された頸が若作りだから解らないだろうが、俺達の十倍は生きてる…
天地創造の初期から関わる、【賢者クラス】の熾天使らしいけどな
今じゃ唯の覗き見野郎だ…ゼノンのアノ義眼を通してな………」

※※※※※※※※※※※※※※

『若気の至り』…ヨカナーンを誘惑した時の僕は
執着心の恐ろしさと言うモノを、まだ理解しては居なかったのだと思う

欲しかったのは、【熾天使の眼球】
それも【戦闘タイプ】ではなく、【賢者タイプ】のモノでなければ意味が無い

鬼族の僕の目は、普通の悪魔には見えない深淵を覗く事が出来るけど
反面で、【光】の書物を読む事が出来なかった…
闇の目は光の文字も祝詞も、網膜に映す事自体を【眼球】が拒絶してしまうのだ

他の魔族が書き写した、訳本・写本であれば、読む事は可能だが
ドチラもその作業を行ったモノの主観や思念が、
どんなに注意をしても、入り込んでしまうモノなのだ
オリジナルを読まない限り、完全にソレを理解した事にはならない…
それが文化局の研修生に認められた頃の僕の、最大の悩み事だった
魔界中の英知を収集すべき文化局の局員たる者が、この程度でいいワケがない

天使の眼球を使用した、バイオ義眼の装着を望む様になったのもこの頃
反発する力を強引に取り込み身につける事による、細胞の突然変異や癌化
想定される身体への負荷・危険性は、充分に理解していたが
それよりも未知なる知識を貪りたいと言う、欲望の方が強かった
若さ故にそれに付随する、デメリットなどどうでも良かった

戦場の残骸から積極的に採取した、各階級の天使の眼球
それをバイオ義眼に組み込む所までは、成功したのだが…
元の持ち主が死亡してしまっている場合、その持ちは極めて悪い
連続して装着するのであれば…眼球の持ち主を生かす必要がある事も解った

また翼の枚数以外は、比較的同じ様な姿に見える天使達だが
その力・霊力の差は、悪魔のソレと同じくらい細分化されており

特科された得意分野以外の能力は、最小限に抑えられているパターンが多い

故に例え最高ランクの熾天使の眼球であっても、戦闘タイプのソレは…
複雑な術式の解読には向かない…と言っても過言ではない…
神の神殿の天界の再奥で、その補佐に当たるクラス
【賢者クラス】で無ければ意味がない…これが最大の難関だ

【賢者クラス】の熾天使が、理由も無く天界から出るとは考えられない
悪魔である自分と、接触する機会すら無いかもしれない
この問題をどう乗り越えたらいいのか?ゼノンの暗中模索は続いていた

しかし…そんな悩みを一気に払拭するような、極秘情報が耳に入る
【賢者クラス】の熾天使が、人間界に降臨しているだって?
しかも…何故か人間の救世主を導く【予言者】としてご丁寧に人間に憑依して

定期的に人間界に送り込まれる、神の子・救世主は
ちょっとした奇跡を起こす能力を、追加添付された【人間】にすぎない
【神の偉功】とやらを、愚かで流されやすい人間達に見せつける為の
憐れな傀儡で生贄?そんな所だが… それを導く役割が必要だ
それが…救世主の出現を予言する予言者、大概は下級天使が担う役目
なのに…何故熾天使が?しかも賢者クラスがその役目をしている

そこに何か【罠】でもあるのか?最初は疑りもしたけれど

どうやら…天界サイドの権力争いが、影響しているらしい事が解ってきた

賢者クラスの中でも、群を抜いた偏屈と囁かれるヨカナーンの噂は
末端の研修生の僕でも知って居るほどの、有名な話だった

要職の熾天使でありながら、面と向かって神を糾弾する【異形の天使】

それでも…その恐れを知らない発言により
プラスに働く事もあったのだろうか?彼が処罰されたと言う話は聴かない
しかし…特例的に許されていた無礼な振る舞いも過ぎれば、
同胞の憎しみや嫉妬を生むばかり…積もり積もった不興を買った上での失脚か?
あるいは彼の安全を考慮した配置換えなのか?
【預言者】とは名ばかりの【意に沿わぬ左遷】?と言う見方が一番妥当であろう

何にせよ…これは【賢者クラス】の身柄を確保するチャンスだ
勿論この時の僕には、今のような魔力はまだない
戦闘と言うカタチで、熾天使と対等に渡り合えるだけの力などありはしなかった

だが…【誘惑】する事は出来る… 海千山千の賢者であろうとも
今回のこの一件に関しては、並々ならぬ【不満】を持っているはずだ
ソコをつけば…必ず弱い部分は、ウィークポイントはあるハズだ

若い研修生の身の安全を心配した、文化局の同僚達は
こぞって、その無茶な【天使捕獲計画】を諦めさせようとしたけれど…
前局長のダイタリアンと、大魔王陛下は【計画】を許可してくれた
お前の恐れを知らぬ向学心と、欲望の深さには脱帽した、
好きな様にすればいい…ただ決して無茶はするなと

特に同じ鬼族の血を引く、ダイタリアンには同じ悩みがあったのだろう
護符として胸元を飾っていた、双頭の蛇のペンダントを僕にくれた
危険回避の為に私の気が練り込んである、もしものお守りにと

かくして…僕は人間界に降り立つ事になる
あくまでもヒトリの人間として、気がつかれない様にその身辺に近づく為に

※※※※※※※※※※※※※※

何時までこんな【退屈な生活】を送らねばならないのか?

救世主の従兄弟として、地上に降臨させられたヨカナーンは
ふて腐れたように自分の身体を、両手を見る
翼も霊力も無い、脆弱な肉の身体…いや今の彼にとっては肉の牢獄か?

見てくれこそは、ほんの少し若返ったが…それもすぐに移ろう
体裁のいい左遷…島流しである事は解っている 体制化した天界においては…
もはや自分のような【異物の骨董品】は、必要が無いのかもしれない

神の知恵袋として、悠久の時間をその側に侍ってはきたが
代わり映えのしない日常に、飽き飽きしていた事もまた事実である
神から生まれた天使の数が、まだ両手で数えられる程のうちが
一番刺激的だったのかもしれない、共に困難を乗り越える喜びがあった
しかし現在はどうだろうか?ツマラナイ権力争いに、足の引っ張り合い
新たに生み出される小僧共のちょっかい・嫌がらせにもうんざりだ

神も神だ…巨大化する組織を支えるのが精一杯なのか?
大がかりな変革も改革も望まない…ただ現状を維持するだけならば
大賢者ヨカナーンの活躍する場は、何処にも無いと言う事か?

【予言者】としての仕事は、とっくに完了していた
【救世主】は、とっくに洗礼と力の目覚めを済ませ
神が望んだ通りの【布教活動】に入っている
ならば…その師たる預言者は、早々に表舞台(人間界)から
退散すべきなのだ…本来であれば、しかし【帰還命令】は来ない

せめて人間としての生を全うする間は、地上で黙っていろと言う事か?
軽んじられたその扱いに、ムカムカにていたのは事実

そんな時だった…人間の王、エルサレムのヘロデ王の宮殿から声が掛かったのは
救世主の師として名高い私に、結婚の立ち会い人になって欲しいと

ヘロデ王は自らの欲望に忠実な男だ…
王になる為には、自らの実兄を殺す事も厭わず
共犯者でもある兄の妻、ヘロディアを自らの妻に迎え入れ様としていた
しかしその真意は、さらに邪で醜いモノ…真の目的は姪であり養女となった
娘サローメの若い肉体…そしてヘロディアもまた王の欲望を知り
自らの美貌と若さを吸い取る実の娘に、嫉妬の目を向ける

爛れた近親婚の欲望が渦巻く王宮は、なかなかどうして
私好みの腐りきった、謀略と駆け引きに満ちあふれていた

だから…婚礼の祝詞を述べてやるフリをして、祝いの席で
公衆の面前で王と王妃の真意とやらを、ぶちまけてやったのさ

名だたる聖人である私に、認めてもらえれば…金で解決すれば
婚姻はすんなり成就すると考えていた、ヘロデ王は烈火の如く怒り
母として女としての尊厳を踏みにじられた、ヘロディアもまた
明確な殺意を持って、私を処刑しようとした

しかし…王族といえど、【聖人】を殺すのには恐れがあるようだ
かくして私は王宮の地下牢に押し込められていた
夜毎私を殺せとヒステリックに叫ぶ、王妃の声が聞こえるその場所で

いくら人間の肉体に封印されていたとしても
これくらいの牢獄から抜け出すなんざ、造作も無い事だ
奇跡とやらを起こさなくても、門番の一人でも脅迫?おっと説教すれば簡単だ
しかし…外に出た所で、人間としての状況は何一つ変わらない

それに…ヒタヒタと近づいてくるこの気配は?天界の者ではない?
黒いこの気配は悪魔?いや鬼か? 殺意ではないその特殊な気配に
1000年ぶりだろうか?私の心は期待に踊っていた

小僧っ子の鬼の坊やが、私を狙って居るだって?

滑稽すぎる現実だが、何事にも興味も関心もなくなった
凍り付いた私の心が胸が熱くなる、沸き上がる好奇心が抑えられない
そう…敵さんが接触しやすい場所に居てあげなくては、
中途半端な信者達のツマラナイ邪魔が、入り込まない場所で………

さあ早くおいで、その無謀な姿を顔を早く見せておくれ
長すぎる時間の退屈シノギくらいには、なってくれるんだろう?

※※※※※※※※※※※※※※

人間界の市井に化けて得た情報によれば、
予言者ヨカナーンは、王宮の地下牢に幽閉されているらしい
婚姻のその席で、王と王妃を侮辱したという罪で

好都合と言えば好都合…人間の狂信者とやらも時には鬱陶しいからね

酒場で酔いつぶれていた、王宮の近衛兵の一人に薬を呑ませ拐かすと、
ソイツの顔を借りて暫く行動する事にした、剥ぎ取った甲冑や剣に刻まれているのは
ナラボート?兵士の名前らしい?暫く立場は借りるけど悪い様にはしないよ

なるべく【下っ端】の方が行動が取りやすいと、若い兵士を選んだつもりだったのだが、
ナラボートとやらは、隊長クラスだったのは誤算だった
しかも姫君の身辺警護を任された、エリートと来ている
後宮の姫様の御世話係も、やむおえない状態になってしまった

我が儘一杯に育てられた、ヘロディアの娘サローメは
歳は16…子供から女に変身する、微妙なお年頃と言った所
しかし無類のファザコンだったのか?実父の死にはショックを隠せない様だ
さらにその舌の根も乾かないウチに、再婚を決めた実母と叔父には嫌悪感を持ち
そして時折見せつけられる、自分にも向けられる、叔父の邪な感情にも
この多感な少女は気がついていた…だから全てを否定する事しか出来ない

キライ・キライ・キライ…お母様も叔父様も大嫌い

少女はそう言って、後宮の自室に閉じこもって泣いてばかりいた
お気に入りの侍従以外を側に寄せ付けようともせずに

そんな時に、真っ向から新王と王妃の婚姻にケチをつけた予言者は
箱入り娘にとっては、正に正義であり救世主であったと言う所か?
自分を救いに来た、都合の良い王子様とも思えたのだろう
幼なじみでもあったらしい?近衛兵ナラボートに、罪人に逢いたいと懇願する
予言者様のお話が聞きたい、感謝の気持ちと私の恋心を告白したいと

「姫様が望まれるのであれば、御心のままに…」

我が儘姫に振り回されるばかりで、牢獄に近づく事も出来なかった悪魔には
願ってもないチャンスだ…ようやく意中の相手に逢えるのだから

こちらの思惑など理解出来ないであろう小娘は、
期待に胸を膨らませて、丹念に身支度を始める

ああ…無邪気で愚かな姫様、せいぜい僕の正体を隠す盾になっておくれ

※※※※※※※※※※※※※※

姫様が面会を望まれている…何時もの牢番がそう短く告げる
姫様?ああ…あの愚かな王妃と前王の間に出来た、不運で気の毒な娘か?

予言者としての私の説法を聴きたいと言うワリには
露出度も高く着飾ったその格好は、この地下牢には酷く不釣り合いだ
歳のワリには精神年齢の幼いこの娘は、聖職者であるこの私を
望まない現状から、自分を救ってくれる?王族か何かと勘違いしているらしい
滑稽すぎて涙が出てくる、聖職者を誑かすには君は役不足だね

それ以前にヒトの何万倍も生きた私から見れば、男女の交わりも
原始生物の細胞分裂にも、何の違いも感じないのだよ…ただ子孫を残す為に
限られた生をセカセカと生きるモノとは、思考がまるで違うから

少女なりの愛を込めた囁きも、接吻も、予言者には届きはしない
しまいには「汚れたモノの子は、やはり汚れているのか…」
と心ない暴言を吐かれた少女は、大粒の涙を流してその場から走り去る
慌ててその後を追いかけようとする、近衛兵の背後から鋭い声が掛かる

「放っておけばいいさ…鬼の坊や、何時までそのチンケな姿で居るつもりかね?」

ギクリとした…自分の【変化の術】にはそれなりの自信があったが
相手が相手である、今回はさらに二重三重にプロテクターを掛けたつもりだったのに
何故こんなにも簡単に正体がバレたのだろうか?力を封印されているモノに

「年寄りを大賢者ヨカナーンを舐めてもらっては困るね…そんなに私の目が欲しいかい?」

僕の欲望までお見通しと言う事か…僕は苦笑すると変化の術を解く
悪魔の姿に戻った僕を、檻の中の囚人は目を細めて見ている

「ああ…貴方の目が欲しい貴方ごと、鬼の僕が全ての知識を手に入れるには
【賢者】である貴方の目が絶対に必要だからね」
「全ての知識を手に入れるか…強欲な事だ悪魔らしい事よな…」

聖者らしいどころか?天使らしくも無い醜悪な笑みを浮かべると
ヨカナーンはニヤニヤと笑い続ける

「その頸の護符は、ダイタリアンが授けたのかい?まぁいいだろう誘惑してみるがいい
先程の小娘の様に惨めに返り討ちに遭うかどうかは、君次第だなぁゼノン?」

ただ睨み…視線で探られるだけで、コチラの情報の全てを拾われているようだ
賢者クラスの熾天使だからこそ出来る透視サーチ能力?邪視能力か?

おそらくコチラの手札など…全て読まれてしまう
誘惑する事など出来るのだろうか?

いやだからコソ欲しい…全ての知識を手に入れる為のあの能力が

「今はまだその時では無い、近い内に必ず頂きにあがりますよ」

勿論眼球だけでは無く、ヨカナーン貴方ごと…

うやうやしく礼を取ると、人間ナラボートの姿に変化する僕を
囚人は愉快そうに見送る

「どんな出し物が出てくるのか?楽しみにしているよ坊や」

ひらひらと振られる手が、地下牢の闇の中では妙に白い

下手な小細工は聴かない相手の様だ、駆け引きは始まったばかりだ………



続く

エロよりも、またド根暗グロモードに突入しそうですが
お好きな方はお付き合いくださいね〜(^_^;)

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