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【デラシネと夢魔】
しくっちゃった (完)

しくっちゃった…

脇腹が熱いよ…ジリジリと食い込んでゆくそれが
羽ばたくたびに激痛で、飛ぶ事がしんどくなったアタシは
半ば失速するようにヨロヨロと廃ビルの屋上に、
下を確認してからその隙間な路上にゆっくり降りる

どこかに隠れて休まなきゃ…弾だけでもえぐり出さなきゃ
まさかあんな所に退魔師の神父が隠れてるなんて思わなかった
もう完全に落としたと思ってたのに………まぁ近親者の誰かが依頼したって事?

人間の武器なんざ普通は効かないんだけど…特殊な儀式を受けた銀の弾だけは別
嫌だね大昔の取り決めとは言え…下級の夢魔にはかなり有効だから

死にはしないけど、かなり痛いし…このまま血まみれで魔界にゃ帰れない
弱ってる夢魔なんざ、他の魔物の格好の餌食だから…それこそ命に関わる

ある程度傷が落ち着くまでコチラに居たほうがいい……

路地裏の落ち着ける場所を見つけると、へたりこみ息をととのえる
まずは自分で弾ををえぐる為に爪を最大に伸ばす→凄く痛いけど出さなけりゃ傷は治らない

「おい…自分でやるのか?」

不意に声を掛けられ飛び上がりそうになる
いつの間にやってきたのか?街灯の下に黒い猫がニヤニヤと笑っている
ゆらりと輪郭が揺らめくと見慣れた悪魔が立っていた

「とらなきゃ治らないじゃない…」

顔見知りで安心はしたものの…一番見られたくない相手でバツが悪い…
エサである人間相手に手傷を負うなんざ恥もいい所だ

「何時から見てたのよ」
「ん〜暇だったから最初から」

だったら神父が隠れている事くらい教えてくれてもいいのに…
それとも食事の様子を覗き見する気だったのか?どちらにしても悪趣味な話だ

そんな文句も不毛なのはわかっているので…ため息をつく

「じゃあ暇ついでに誰も来ないように見張ってくれる?」

ちゃっちゃと手当てを済ませようとすると、ガシリとその手を取られる

「ちょっと…何すんのよ」
「自分じゃ上手くできないだろ?」

やってやるからじっとしてろよ…
続く言葉が案外優しかった事もあり、素直に力を抜く

ここまで見られちゃったら、もういいかな?確かに脇腹の治療は自分じゃやりにくい

「傷が見えにくいからこの上に座れよ」

治療台が裏路地のダストボックスの上なのも情けない話だが
贅沢も言っていられないので、コルセットを外してチョコンと座るとすぐ脇の水道管にしがみつく

庇う手を放した剥き出しの傷口に冷たい空気が当たる
至近距離から撃ち込まれた間抜けな銃創をまじまじと見られるのが恥ずかしい

しかし…治療だとしても…
悪魔が自分より下位の夢魔に跪くようなポーズをするのに抵抗は無いのか?
腐れ縁は長いが…変わった悪魔だよこの男は

「早くとってよ…多少えぐってもいいから」
「結構深い所まで行ってるな…」

それに血がもったいないだろ?

傷口を撫で回す手先の感触に悪寒を感じる
やばい血に酔ってるんじゃないか?コイツは?

冷や汗が吹き出し小刻みに震えているのが伝わったのか?
ジャキッと爪が延びる音がする。慌てて目をつぶり配管にしがみつく
片手で腰を押さえつけられ、ズバッと銃創の上を切り裂かれたのが解る
でも思っていた以上に小さくだ…何で?と思う間もなく、傷口を貪りつかれる

「なっ…何をッ…」

逃げうつ腰を両手で押さえつけ、ざらついた舌が傷口を掻き回す
強く血を啜られ音が妙に耳につく

「やぁ…痛い…」

半泣きになりはじめた時にやっと離してもらえた

「ちっバチカン製かよ生意気にも」

血まみれの口から吐き出されたのは、先がひしゃげた銀の弾
なにも舌で取り出さなくても…悪魔と言えど火傷くらいはするだろうに…

ぼんやりとそんな事を考えながら、乱暴だけど傷口を最小限にしてくれた事に気がつく

呪いの弾がなくなったとは言え普通の手傷とは違うので
即座に傷口が塞がる訳ではない
息が整わなくてグッタリとしているアタシの額を撫で回す大きな手
なかなか流血が止まらない傷を丁寧に舐めて、何かを巻き付けて手当てしてくれるまでは良かったのだが…

「どのみち食事しなけりゃ帰れないだろ?」

嫌な笑い…そうだ…コイツは弱っているアタシが好きだったんだっけ

それからは良く覚えてない、出血で朦朧とする意識の中
好き放題に貪られた…
抵抗する気力もないし雄の精を吸わなきゃ魔力が回復しない…
それが夢魔という特殊な生き物

もともと人間の精を吸う為に人間界に来ていたのだから
腹ペコは腹ペコだったんだけどさ…悪魔の精は強すぎるから時にその特質が感染してしまうから
コチラに何の影響も出ない人間のソレを数をこなした方が消化しやすいのよ

それに夢魔がエサである【雄】に翻弄されるのも情けなすぎるから…

獣の様に貪られ、何度も中に出される度に砂の様に全てが身体に吸収されてゆく
傷口がジワジワと塞がってゆく感触が解るのだが…これ以上はダメだ
そろそろ雄の方にも負担がかかってくるはずだ
精を吸い尽くして、廃人にしても最悪殺してしまってもいい相手なら構わないが…少なくてもこの男はそうじゃない

「嫌っもう離して…もう充分だから」

必死で逃げようとすると、肩を後ろからものすごい力で押さえつけられる

「夢魔の魔力不足に付き合ったくらいで枯れるかよ…
これはつまんない怪我を作った仕置きだな」

すでに擦り切れそうなそこを更に抉られる

「ひっ嫌っ…嫌ぁもう許して…」

何度目かの絶頂と共に、ポンとと音がして体が小さく縮む

ああだから言ったのに…容量越えで悪魔と交わるとアンタの性が感染してしまうんだってば…
小さな黒猫になってしまうのは…以前もあった事なのでわかってはいる

「ふん…久しぶりだなその姿も」

やっと手を離してもらえるのかと思ったら、空間に猫籠を呼び出すと
無造作にその中に押し込まれる

「元の姿に戻るまで精々俺様にご奉仕するんだな、じゃ帰るぞ」

封印でもついているのか?内側から籠があかない

「ニャーニャー(ちょっと出しなさいよ)」

ジタバタと暴れるアタシをよそに、悪魔の作った歪みから、魔界に繋がる扉が開く

どうせ短期間だけど誰の世話になりたくない!特にコイツの世話には絶対になりたくない!
猫のふりして、こっちでのんびりしていれば良いだけなのに何故こうなる

夢魔の悲鳴を赤い月だけが聴いている


end


傷フェチ系?ノーマルの方には物足りないかな?

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あきゅろす。
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