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【デラシネと夢魔】
プロローグ 2 (完)

<3>

「やっ…せめて何処かのホテルに入りたい…」

小さな声で抗議するのだが、悪魔は聴いてはくれない
真夜中の公園に連れ込みと、ワザワザ街頭下のベンチで事に及ぼうとする

「悪いが外の方が好きなんでな」

一つも悪いと思ってない声で笑うと、
即物的な手はいきなりスカートの中に割り込んでくる
どんな羞恥プレイだよ…

今夜限りで離れるつもりだったけど
一応ここで人間として暮らしている、僅かながらの知り合いもいる…
こんな場所で遭遇してしまったら、どうするつもりなのよ

「しかし…人間も物好きだよな…本体はこんなにもチビっ子なのによ」

そうなのだ…夢魔なのに…私本来の姿は、取り分けて美しいわけではない

魅惑魔法が効かない対魔族用に?比較的本体もフェロモン爆発なビジュアルが多いのだが…
それは…あくまでも城育ちの夢魔の場合、自分の様な野良の【はぐれ】は違う

顔も月並み…小さく痩せっぽちだったカラダに、不思議に大きな胸とピップは
自分では気に入ってはいないのが…

人間は気にしない…だって各々の理想の姿に見えているワケだから
本来の私の姿など、どんな物でも構わないのだろう

「仕方ないでしょ?人間の目には本質は見えない
物好きなのはアンタの方じゃない…」

確かに夢魔の抱き心地は、他の魔物に比べると群を抜いていいらしい
しかし…それは精気と子種を頂く為の武器である…
力を勝手に抜かれる行為を嫌う魔族は、進んで夢魔と交わろうとはしない…
そのまま餌として喰らってしまう時以外はね

「たしかに…物好きはその通りだ」

上着を剥ぎ取り、ブラジャー事胸を揉みながら、肩紐を外すと
固くなりはじめた乳首を舐め回す

「色んな奴の臭いがするな…」
「そうね…この街にはいい獲物が沢山いたから」

少しづつ命を分けてくれた人間達を思い出す

変に目立たない様に、夢魔の特殊能力は全開にはしない
私に選ぶ客は…孤独な心を持つ人間が多い…
理想を求めすぎて空回りなタイプだ
人間なのに人間と上手く付き合えない心が、【はぐれ】の私と引き合うのか?

他の娼婦達が手を焼くタイプが多いので…彼女達の稼ぎを脅かす事はない

私がここを離れた後は…彼等はどうするのだろうか?
その事を考えれば別の意味で心が痛くなる
あの魂の持ち主も…多分そんな奴だったのだろうけど

「言っとくけど…今日は俺から精気は吸うなよ、対価なんだから」
「元から吸う気なんてないけど…」
「いいや…今日は一滴も駄目」
「一滴もって…そりゃ無理でしょ…」

元から悪魔の精気を吸うつもりはない
何時も好きにさせる時は、自身に制限をかけて吸わない様にしている
腐れ縁の果てに色々事情があるから…

だが私は夢魔だから、肌を合わせる限り吸いたくなくても、多少は吸ってしまう
カラカラのスポンジが水を吸ってしまうのと同じで…

「出来ないなら、丸呑みするぞコイツを」

一時的に魂を閉じ込めた瓶をカラカラと目の前で振られる
ペカペカと光るそれが今は頼りない

「解ったよ…努力はするけど…多分無理
吸ってしまった分は、血で贖う…それでいい?」
「ふん…こんな奴の為にソコまでするかね?」

あれ?動揺でもする私が見たかったのかね?
餌に嫉妬してどうするの?夢魔なんだから、
食事の為に他者と交わるのは当たり前じゃないか

長い指がスルリと中に入ってきて、私は小さく身じろぎする

「たいして触ってないのに、もうヌルヌルじゃないか…」

淫乱…ああ淫乱魔だからな当たり前
だけどそんな言葉は望まないんだろ?
面倒な男だよアンタは…

別にアンタとヤるのは嫌じゃない、こんな意地悪をしなくても好きに出来るじゃないか?

何を考えているのか?よくわからない…
今は食事以外のセックスを楽しませればいいのかしら

ボンヤリとそんな事を考えながら…男の背中越しに街頭を見上げる

人間の目には拾えないだろうけど、星がとても綺麗だ

噂では入れられる魔女も淫魔も少ないらしい?
質量の大きなソレが、予告もなく入って来ても…
何の苦もなく入ってしまうこのカラダには、
少しは執着心があると言う事なのかしらね…悪魔のくせに

弾む吐息を吐きながら…相手の息遣いを聴く
うっすらと汗をかく男の胸に触れると
早鐘のようで不規則な心臓の鼓動が伝わってくる

打算的でねじくれた関係でも、少しは嬉しいと思うのは…きっとおかしくて滑稽な事だ…

私はそっと目を閉じた………


<4>

出来もしない事を、無理矢理に了解してんじゃねぇよ、
努力してんじゃねぇよ全く…しかもこんなアホの為に
夢魔のくせに…イチイチ餌に対して感傷的すぎるんだよ
コイツのこんな所を見ていると、何故かイライラする

コイツだけは特別だが、俺は本来【夢魔】と言う連中が大嫌いだ
弱いくせに…いや弱いからこそか?悪魔以上に打算的で合理的だ
他者を利用し寄生する事しか考えない
その癖?高慢なまでに、同族選・民意識とプライドを振りかざす
鼻持ちならない奴等である事は間違い無い

奴等は【夢魔の女王】を頂点とする、
人間界で言う所の蜂の様なコロニーを持つ
夢魔ごときが、どうやってソレを手に入れたのかは謎だが
夢魔だけしか入れない領域と、きらびやかな城を持っている

ソコで他の魔族から奪って来た子種に【女王の祝福】とやらを与え
【取替え子】として拐かして来た、人間の女に受精させるワケだ
母体の影響が、新たに生まれてる【夢魔の子供達】に出ない様に…

夢魔には【純血種】は存在はしない…【女王の直系】以外は
他の魔族とのハーフであり、人間を肉の母親として生まれる
魔族として不安定なのは、むしろ当たり前の事なのかもしれない

ところが…いくら【夢魔の祝福】を与えたとしても
夢魔の魔力には限界がある、子種の提供者となった魔族の特性が
極端に強く出てしまう子供も、時には出てくる………

そう言った子は【忌み子】とされ、仲間の列には加えない
新たな母体用の赤子を攫ってくる場に、代わりに置いてくる
【取替え子】として捨てられてしまうのだ

夢魔は物理的な【殺し】はしない、だから【忌み子】も直接は間引かない

故意に雌の子供の代わり雄の子供を、角や尻尾の生えた状態の赤子を置いて来る
邪魔者の処理をも人間に頼り、押しつけているそのやり方が気に入らない

何故そんな事を知っているか?俺もあの【城】で生まれたからだ

俺は顔も知らない親父の血が、極端に濃かったらしく
赤子のウチから、自力で魔力を開放出来るだけの能力が既にあった、
【取替え】に気がついた人間が、俺を処分しようと騒ぎ出す前に、
その場の人間を皆殺しにしてやった 生け贄の血を浴びて
属性変化の枷となる【夢魔の祝福】とやらを、身体の外に追い出した
完全な【悪魔】に生まれ変わる為に

【忌み子】は子供のウチに処分される事が無ければ
【父親側の魔族】に属性変化する事も出来るはず、
その血が濃ければ濃い程に、ソレは可能なのだが………

コイツは違う…【忌み子】である事を自覚しているくせに
【夢魔】である事を選択した、【はぐれ夢魔】だ

夢魔の目覚めとは違う【殺し】を引き金にする【開放】は俺が与えてやった

300年前…まだ異端審問が吹き荒れる世界で
自分を【罪深い人間】だと信じ込んでいたコイツに出会った
教会に飼われ・兵器として利用されていた
自分が人外である事すら解らずに だから誘惑してやったのだ

俺にとっては何の徳にもならないのに、何故そんな事をしたのか
今でも解らない、同じ【忌み子】に同情したのか?苛立ったのか?

ただ初めて逢ったその時から、何故か懐かしい臭いがした

軽い気持ちで封印を外してみれば、それは一瞬で後悔に変わる
頭の左右を突き破って出現した、拗くれた角と、裂けた口に列ぶ鋭い牙
コイツの親はどうやら【鬼】らしい、それも相当凶悪なタイプの

目覚めの瞬間に立ち会った俺すらも、巻き込み兼ねない程に
その血と肉に対する渇望はすさまじく、一瞬で田舎街を一つ壊滅させた

よくあんなチャチな【封印具】で、押さえ込めていたものだと
感心したものだが………心理的操作に寄る所が大きかったのだろう

暴走状態のまま【夢魔の呪】も捨てて、【鬼】に変化すると思っていたが
コイツは【夢魔】である事に拘る、【殺戮の衝動】を恐れる

自分で破壊しつくした街の残骸に佇み、涙を流しながら

目覚めの反動で、失われてしまうであろう【人間】としての記憶
ソレが救いにはならないのか…ヤツは【鬼】にはならない
【夢魔】のままもう300年 【弱い生き物】と思いこんで300年だ

殺しが禁忌の【夢魔】なんぞに拘らず、完全に【鬼】になってしまえば
魂ごと人間を貪り喰らう事くらい、何ともなくなるはずなのに
こんな七面倒くさい方法で、精気の収拾などしなくていいのに
何故そうしないのか?300年の腐れ縁でも、未だに理解出来ない

そんな大馬鹿に構ってる暇など無いのだが…何故か気になってしまう
この後コイツがどうなるのか? そうするのか? ただソレだけだ

それに…【鬼】の女には、おっかなくて近づけないが
【夢魔】のコイツには近づける、何故か俺に恩を感じているらしく
他の【夢魔】のように、コチラの精気を貪ろうとはしない
夢魔特有の具合のいい身体も好きに出来る、気まぐれにちょっかいも出せる
俺にとってもコイツが【夢魔】のままの方が都合がいいのだ ただソレだけ


<5>

「ほらよ、約束だからな…半分返してやるよ」

半分に喰いちぎられた魂が、ポトリと私の手の中に収まる
良かった…コアは傷ついていない様だ
いや…多分?傷つけずに渡してくれたのか?
コレなら再生出来る、半世紀程の時間は掛かってしまうけど

悪魔の咬傷からこれ以上命が溢れてしまわない様に
そっと口づけて傷を塞いでやると、身体に残る精気を
殆どその魂に移してしまった、自分の生命限界ギリギリまで

「馬鹿っ何やってんだ!お前は!」

呆れた顔で、悪魔が吸いかけの煙草を落とす

一時的な精気不足で、吐き気と目眩と共に、私の髪は真っ白になる
だが…これくらいどうと言う事は無い…
人間の街に戻れば…またいくらでも精気は吸える…別のヤツから
なにせ彼等には、【彼等にとって都合のいい姿】にしか、私は見えないのだから…
本来の姿が変わっても何の問題もない、見られる心配も無い

魔族の私はこの程度の事では死なないし、死ねない………

最後にぎゅっと魂を胸に抱きしめると
暁が上りかけた空に放してやる
半分しかなくなった不格好なソレは、酷く飛び辛そうではあったが
私の上を何回か旋回すると、意を決したように高く飛び上がっていった

大丈夫…魂が帰る場所まで飛んでいけるのには充分な力は
分け与えてあげたから…上手く行けば元に戻れるから
肉体も持たず、契約に縛られない魂を勝手に他の魔族は狩れない

バイバイ…次はどんな姿になるかまでは解らないけど
また何処かで逢おう…その時はもう一度抱いてあげるから

「振り出しに戻っちゃったから、適当な場所で御飯食べて来るわ」

多分泣いているであろう、顔を見せたくないのか?
コチラを振りからない夢魔の二の腕を掴み、引き留める

「………白い髪は苦手なんだよ」

抵抗も構わず胸に納めてしまうと、もう一度無理矢理キスをする
髪の色くらいは元にもどしてやるか………

「意地悪が過ぎた、悪かったよ」

何だかんだ言って俺はコイツに甘い…


end


<後書き>

小説世界の設定の説明用?に急遽書いたのですが
思ったより【暗い仕上がり】になっちゃいました
次回はもう少し重く無い方向にしたいと 思ってます m(_ _)m

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あきゅろす。
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