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【デラシネと夢魔】
プロローグ 1

<1>

安っぽいネオンがチカチカと光る、ダウンタウンの色街
私はこんな場所が好き、安心して獲物を物色出来るから

「来週はもっと稼ぐから、また来ていいかな?」
「うん…楽しみに待ってるね、でも無理はしないでね」

店先で客を送り出しながら、毎回判を押したような別れの挨拶
だが…多分今晩が最後になるだろうな、この男と逢うのも
本人は軽い疲労ぐらいにしか思っていないだろうが
目に見えて消耗しはじめている、急に増えた白髪・艶のなくなった肌
これ以上、私と肌を合わせるのは危険だ、やがては命に関わる

この男だけでなく、この店で私につく客の大半がそうだ
そろそろ潮時かもしれない…この街は結構居心地が良かったので
離れるのは惜しいけど、仕方が無い事だもう慣れっこだ

そう私は人間ではない、人が【夢魔】等と呼ぶモノである

長すぎる寿命を持つ【魔族】でありながら、
人間の魔女よりも魔力は劣り、生殖能力も最早ない
他の魔族・生物の命を吸って生きながらえ
他の魔族・生物の子種と腹を借りてしか子を成せない
非常に中途半端で脆い、【下級淫魔】と言われているモノだ

人間界に頻繁に現れるのは、単純に食事をするため

魔族と交わった方が、搾り取れる精気は多いのだが
夢魔の魔力が無いせか?相手の魔力が強すぎると自家中毒を起こす
半端に相手の能力が感染し、暫く姿も似たモノになってしまう
これが結構厄介な事もあるが…

単純に獲物として、捕獲・捕食されてしまう恐れもあるからだ

哀しくなるほど弱い生き物だから夢魔は、子作りも命がけだ
より優秀な多種族の子種を奪う時意外は、他の魔族・魔物とは睦み合わない

その点人間は、簡単に夢魔の【魅惑魔法】に引っかかってくれる

彼等が【理想とする異性の姿】に見えるらしい、ほぼ勝手に
ちょっと誘えば、精気を吸わせてくれる相手は
男でも女でもいくらでも居る 精気を吸うだけ相手としては打ってつけ

後はベットに誘えばコチラのもの…人外の私達の肌と、
人間のソレでは比べものにはならない 勿論テクニックも
相手は夢中になり、勝手に精気と命を吐き散らし
最終的にはカラカラに老化して死ぬか、廃人になってしまう

魔女より劣る魔力と言っても…一応は魔族だから
普通の人間よりは遙かに強く、再生能力も強く人間に傷つけられる事はまれだ

だが直接的に相手を傷つけ殺傷する事は、夢魔の【恥】とされている
セックス以外の方法で、相手の命や精気を奪う事は基本的にしない

コレには同感なんだけど、死ぬまで精気を吸い尽くすのは
正直同感出来ないのだ…何となく…イヤなだけ???

記憶が飛び気味で曖昧なのだが、どうやら昔?【取替え子】として?
人間に育てられた期間があるらしいのだ………
一度、夢魔として魔族として覚醒してしまうと、
獲物でしかない人間に無慈悲で居られる様に
その時期の記憶が飛んでしまうらしいので
今となっては良く解らないのだが…

どうやら人間の事が、それ程嫌いでは無いのかもしれない

魔族としては、あるまじき感覚ではあるけどね

単純に?一度は肌を合わせた相手を…殺すまではしたくない
ただソレだけなのかもしれない…偽善的な情ではあるけれど

だから頻繁に【餌場】は変える、その場での獲物が弱りはじめて来たら

まぁ人間界は広い様で狭いもんじゃない?
資源は有効的に使わないと、すぐに無くなってしまうじゃない?
昔は後腐れが無い様に、相手を取り殺してしまう夢魔の方が多かったらしいケド
現在はそうでも無いらしい? 効率よく相手が引っかかる色街に居ると
似たような感じの夢魔・人外を見かける事は多い

だけど…声を掛ける事はやはりまれなのよね
だって餌場のテリトリーの奪い合いになるじゃないの?

なんたって私は、【取替え子】に出されてしまう程の出来損ない
魔力は決して強い方じゃないから、喧嘩になったら勝てない

《夢魔なのに夢魔嫌い…》

本来夢魔は、同族意識や結束力の強い生き物なのにね

【はぐれ夢魔の変わり者】そんなヤツが、一匹くらい居たっていいじゃないの?


<2>

「お仕事は終わりですかい?お姐さん?」

聞き慣れた声に、溜息を吐きながら振り返る

「アンタも暇だね?アタシの食事にまでついて来なくてもいいでしょ?」

不自然にひょろ長く長身の男が、影法師の様に街灯の下に佇む
猫の様な縦長の光彩の瞳の男も、勿論人間ではない
顔馴染みの悪魔だ、もう300年以上の腐れ縁と言った所か

「何…近くで契約が終了しただけの事、お前とは関係ないさ」

薄ぼんやりと光る人間の魂が、悪魔の手の平の上で震えていた
何があったかは知らないが、悪魔と契約を交わした愚かな人間のなれの果て

魂が有る限り、何度でも転生出来る人間や他の生物と違い
魔族はたった一回限りの命だから、どんなに不死身に近く長寿であっても
滅んでしまえばそれで終わり…強靱な肉体とは違う虚ろで脆いモノ
何度でも生まれ変われるその魂が、眩しく魅惑的で堪らないのだ
だから魂を欲する、その輝きを喰らい吸収し
己の一度きりの魂のカテとするために 喰われてしまえば転生も叶わない

それでも…愚かな欲に為に、魂を売ってしまう人間が何と多い事か
魔族から観れば、とんでもなく分の悪い取引にしか思えないのだが

「ワザワザ見せびらかしに、来なくてもいいでしょ?」

愚かなのは人間…解ってはいても、
魂が喰らわれる瞬間を見るのは…あまり気持ちの良いモノではない

「久しぶりの人間界だ俺も喰っちまってから、飲みにでも誘うつもりだったんだが
コイツがお前に逢いたいと叫びやがるから…連れてきてやっただけさ」

ハッとしてその魂をよく見れば、先程別れたばかりの客ではないか

「何で………」
「う〜んお前に逢う為の金を作る為には、稼がなきゃならんだろ?
稼ぐ能力がコイツには無かった、だから安易に俺に頼った?そんな所かな?」

そんな馬鹿な…悪魔の気配に気がつかなかった私も間抜けだが
貧民窟よりにある、この娼館は王侯貴族が通うような高級店では無い
人並みに働いていさえすれば、余った小金で気楽に通ってこられるレベルの店だ
なのに…たかがその端金を用意する為に、魂を売っただと?
救い様のないその行為に、呆れるよりも哀しさがせり上がって来る

「スペシャルサービスで、最後に一目逢わせてやったぜ
俺も腹ぺこだしな、感動の対面も済んだらもういいかな?」

あーんと魂を飲み込もうとする手に、気がついたら縋り付いていた

「待って…お願いだから、ちょっと待って」
「言うと思ったけど、でも俺も喰わないと死んじまうし」
「半分でいい…半分を私にくれ、代償は何だ?支払うから…」

「そんなの解っているくせに…」

階段二段分は違う長身が、ゆっくりと屈んで噛みつくようなキスをする

これも嫌がらせの一種なのだろうか…

その首に腕を回しゆっくりとそれに答えた後、一度店に戻り早上がりを伝える
待っている影法師に付き従う足取りは重い、この後の展開を考えると
ロクな事に成らないのは、解りきっているからだ…


続きます

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あきゅろす。
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