「1/6」
◎徹+彩
◎彩の足が動かない
◎車椅子入院リハビリ中
◎少しだけ歩ける
「おはよ、彩」
「おはよう」
徹はいつものように病室に入る。彩は笑顔で挨拶を返してくれるが、目元が赤く腫れている。きっと朝はリハビリ室に行っていたのだろう。
「もう2時だけどね」
「依頼が長引いて」
「無理して来なくてもいいのに」
少しだけ、困ったような笑顔を浮かべた。このごろになって彩のこの表情をよく見るようになった気がする。
「………足」
「……ん?」
「今日も歩けなかった」
「まだリハビリはじめたばっかだろ」
「先生もたぶん無理だろうって」
彩の今にも泣きそうな声が嫌に病室を響かせる。絶望し悲しむなとは言わないが、あの笑顔を取り戻してほしい。そう思っているが、徹には、方法がわからなかった。
暗くなった帰り道、月が照らすだけの道。
もし願いが叶うなら。なんて子どもみたいなことを考える。本気で、自分を騙せるぐらい本気で願えば叶うだろうか。
そんなとき携帯電話が鳴った。液晶には彩という文字。さっき別れたばっかりなのに、忘れ物でもしただろうか。
「もしもし?」
『………』
「彩?」
『……っ……ふっ、っ……』
電話越しに聞こえたのは明らかに嗚咽だ。彩は泣いている。それだけで徹の取るべき行動は決まっていた。
『…ご…めん、っん……ひっく、…徹の…っ声、が、聞きたく、っ』
「彩、彩。今からそっち行くから」
全力で走るなんていつぶりだろうか。
『ごめん、ごめん……っ、俺の、足が』
「うん」
『動か、ないって、仕方ないって、自分のっ、中では、っ、割りきってる…つもりなんっだ』
「うん、うん」
『だけど、動かない、って、歩けない、な、んて体で感じたら、頭ん中、っん、ごちゃご、ちゃになって、何も…っ…わかんなく、なるんだ、っ』
「うん」
『いや、っ、嫌だよ、怖いよ、っ、歩きたいよ……っ!』
携帯から聞こえる声と実際に聞こえる声が重なる。息も切々に扉を開けた。灯りも着けずに暗い病室に窓から月明かりが差し込む。
「彩…っ!」
「と、おるっ」
近づいた体をきつく抱きしめる。震えるその体はとても小さかった。
「徹、とおる、っ」
「ん、うん。ここに居る」
「ご、めん、迷惑っ、かけて…」
ゆっくりと背中を擦る。嗚咽がだんだんと収まっていく。
「……俺のこと、頼れよ」
願いを叶えたかったのはエゴイズムだったのかもしれない。
「そうだ、彩」
彩が見つめてくれる。
「彩をいつか月に連れていってやるよ」
「へ?」
彩の拍子抜けした表情。徹はそれだけで自然と笑顔が溢れた。彩の悲しみを少しだけだろうが途切れさすことができただろうから。絶望した表情以外を久しぶりに見れた。
「彩知ってた?月って重力が1/6なんだって」
これが一番の方法なのか徹にはわからない。だからひとつひとつ試して行けばいいじゃないか。
「だから月に行ったら全部、彩が背負ってるもん全部、軽くなるだろ?」
きっと辛いことや悲しいことも。
そして少し考えた彩はそうかと閃いた。
「徹」
「ん?」
ゆっくりと伸ばされた彩の手は徹の手を掴みぎゅっと握った。
「ちゃんと連れてって。約束だからな」
「もちろん」
by ぼーかりおどP「1/6」
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私がボカロにハマるきっかけとなった曲。今でも大好きです。
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