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ここは【ROOL】の中庭、辺りが怖いくらいの静けさを持つ中、痛々しい音を響かせていた。
数人の男――徹たちがそこにいた。しかし動けるのはふたりだけで、その彼らは醜いことに潰しあいをしていたのだった。
「徹の悪い癖は右腹をやたら庇うとこだよ」
葎が言い、常人ではありえないスピードの拳を放つ。徹は避けきれず、顔の輪郭を掠める。そこに痛々しく赤い痕がすぐに出来て一際目立たせた。
「……」
徹は自分は強いと自負していた。例え葎から徹に挑んで来ようが徹の中に押される可能性なんて、考えて無かった。
「まだ、疼くのかい?」
いつもと違う、そう感じたときにはもう遅く押され始めた。楽しそうにふざけて攻撃してくるのとは訳が違い、本気が垣間見れる。
「ほら、左側ががら空きだ」
その台詞通り葎の拳は左脇へ、と確認できたあとそれが錯覚だったかのように右に衝撃を感じた。
「フェイントをかけたら、一発だ」
ここは冷静に考えないといけないのだが、徹の中は、憤りで溢れていた。冷静になんてとても無理な話である。
「まぁこんなことできるのは俺ぐらいかな?」
「はっ…っそォッ…」
「ははっ」
笑った葎が見せる表情、それは徹が初めて見た、他者への悲しい哀れみの表情だった。彼は上からものを言うことが多々あったが、ここまで不快を感じない、徹が本心でこれから起こることに恐怖を覚えたのは初めてだった。
それは、さっきまでのあの怒りを吹き飛ばしてしまうほどだった。
「俺とあんたじゃ…」
葎は思い出に浸る。この世界の乱された秩序を。
「経験が…違うんだよ」
とても冷たい表情と声で葎は言い放った。
そして徹も不意に懐かしさを感じた。こんな葎を見て、葎という人はこんなのだっただろうかと。改めて葎と向かい合えば、葎の性格もわからないし、本当に葎の顔も思い出せない。
自分は、いま何がしたかったのか。
それまで一瞬ぼやけてしまった自分は、最低だと徹思った。
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