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目を開くとそこは白い世界で、それ以外と言えば、俺と懐かしいあの人だけである。
「やぁ、彩」
今生さんだ。この人が目の前にいると言うことはここが現実ではないことを意味しているのだが、今ではこの事に対して寂しいなんて感じなくなってしまった。こうやってでも今生さんに会えることや思い出せることが嬉しいのだ。
この可笑しな真っ白い世界も今生さんも、当たり前に感じてしまう。
「まず君に謝らないといけないんだ」
――今生さん、今生さん。俺、料理上手くなったんだよ。今度食べてほしいな。
「おぉ、僕のことを“お父さん”じゃなくて“今生さん”って呼ぶのには驚きだな」
――今生さん、俺いろいろ覚えたんだ。【ill will】にも入って、
「っと、脱線した。そうじゃなくて……彩、彩。大事な話なんだ」
――それ、で………
「彩の話は沢山聞きたい。どんだけ成長したかも、どんな出会いをしたのかも、どんな料理を作るようになったのかも」
――………
「それらも大事だけど、もっと大事な、大事な話なんだ」
これで会えるのは最後みたいに今生さんは話す。
「僕は彩に嘘をついてた。申し訳ないと思っている……彩は僕が死んだショックで過去を忘れたらしいね。だからおそらく憶えてないだろう。彩を拾ったって言ってただろう?覚えているかい?本当はそうじゃないんだ」
いまの俺に余裕なんてものがあるわけない。だから今生さんの話を真剣に聞いても、考えても居なかった。
「僕が彩を誘拐したんだ。思いの外、君は落ち着いていて驚いたよ。まぁ誘拐する前の環境より悪い場所は無かったらだろうからね」
急かすように話される。俺の知らないことを話す。俺の知らない今生さんみたいだ。嫌だ、俺はこの時間を楽しい時間にしてもっとずっと過ごしていたい。
「彩は弱くない。僕の勝手な判断で彩を偽ったんだ。彩は危険すぎた。普通を知らなかったから、普通を押し付けようにも理解できなかったみたいだ。だから、君の全てを君の中に閉まった」
――今生さん、……。
「そして、今が取り出す時だ」
俺はわがままを言っていいのだろうか。
「彩が死にそうになって、死なないために、生きるために。生き延びる力を君は持っている」
最後だなんて言わないで、もっと今生さんと話していたい、って。
「だけどいきなり大きな力を持ったら身体がついていけないだろうから、ちょっとずつ戻そう」
今生さんは全て話し終わったようだ。一息つく。
「最後まで付き合えなくてすまない」
苦しそうに出たその言葉は、俺の涙を誘う。別に今生さんが悪い訳じゃない、俺は甘えを使って今生さんの優しさに漬け込んだんだ。
ああ、本当にこれで最後なんだ。
「彩」
この優しい今生さんの声に、表情に、この掌に、もう会えないんだ。
「泣かないでおくれ……今の僕は慰めてあげられない。その資格はないし、彩には慰めてくれる相手がいるだろう?」
その手を伸ばして涙を拭ってくれることはもうない。それはもう決まったことなんだ。おれが後悔して、いまさらわがままを言ったってなにも変わりやしない。
「大丈夫。僕も少し力を貸そう。それに、旧友を呼んだから」
――…………
ぼやけていく白に、落ちていく感覚。
目が覚めるんだ、って分かった。
「彩が人を恨まなくてよかった」
今生さんはいつものように優しく微笑んだ。
「愛しているよ、彩」
夢でもいいから、今生さんに会いたい。
――to be continued――
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