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こういうときに見る夢はとても悲しい気持ちにさせてくれる。

夢の中で今生さんが笑っていた。いつもの今生さんの笑顔は、本当に不安なことは何もなくただただ幸せで安心なんだと実感させてくれる。

これが欲しいと切実に思う。
しかしそれがあるのは、もう覚めてしまう夢の中だけだ。なんて残酷なのだ。

思い出すのは苦しいのに、思い出す要因を作ってしまうのは夢で、勝手に見てしまう。

目が覚めたらとても悲しくて、苦しくなるんだ。











目が覚めた。
当たり前だが、そこには今生さんはいない。なにも考えられなくなるくらいの空しさが襲ってくる。

この空しさを埋めてくれる人は今生さんしかいない。この前までそう思っていた。

「あ…」

泣いていた。流れた涙のあとを手で拭う。

「徹…」

口から出たのは今生さんとは違う名前。しっくりきてしまうのはおかしいことだろうか。

いま、会って話をして、触れて、笑って、今生さんより大切な人がいる。



「……あ、あや」

静かな部屋に徹の緊張の混じった声が響いた。首を横に向けると、ベッドの直ぐ横にある椅子に座っていた徹が目に入った。望んだ徹がそこにいる。ここは病院だろう。椅子に座った徹はいつもより小さく見えた。その美貌を崩して泣きそうな顔をしているからだろうか。

「依頼、忘れてて、それで……あ、ごめん……彩が倒れて、それで、すごい、ビックリした」

そういえば力が抜けて倒れるのを感じたのを覚えている。徹がここまで運んで助けてくれたのか。

「医者は、過労だって、休めば治るって言ってた……けど、怖かった…彩が、このまま目、覚まさないんじゃないかって」

泣きそうな原因はこれか。俺だ。俺ひとりであの完璧と吟われている【ill will】最強の男を崩せるのか。こんなこと単純に嬉しい。

「ありがとう、徹」

しばらく沈黙が続く。この気持ちをどう伝えたらいいのかわからない。俺より先に、緊張した徹は決心したように話し始める。

「……彩に嫌われてるんじゃないか…って、…ずっと思ってた」

徹の目を見た。なんで俺が嫌うんだろう、と彩は疑問が浮かぶ。徹と目が合ってしまい2秒も経たないうちにそんなことどうでもよくなったのだが。

「彩と挨拶もできないくらい気まずくなるなら、今は会わない方がいいだろうって、だけど違った」

徹に迷惑をかけないようにと思ってとった行動は徹をこんなにも悩ませていたのか。

「彩が居ないなんて、嫌だ」

徹が席をたち、ベッドの端に座るから、俺も起き上がる。やっぱり合う目線は、徹の目しか見れなくする。

「やっぱり彩が好きだ」

あの空しさを満たしていく。

「っ、愛してる…」


徹の言葉が、目線が、俺の頬を伝う涙を拭う細長く綺麗な指が、放つ威力は凄まじい。

嬉しい、それしか感じない。幸福が思考を止めてしまう。本当になにも考えられないくらい嬉しいことがあったなんて。心の底から嬉しいと叫んでしまいそうだ。

徹の気持ちにコクコクと頷くことしかできない。伝えたいことはたくさんあるのに何から言えばいいかわからない。


徹の手が俺の輪郭を撫でる。少しずつ近づいてくる徹。目を閉じて、触れるだけのキスをした。一秒一秒、長く感じる。

唇が離れて、目を開ける。俺の涙は止まらない。徹に目一杯触れたくてそのまま抱きついた。優しく抱き返してくれる徹はもっと俺の涙を誘ってくれる。


こんな、幸せでいっぱいの嬉し涙っていうのは、なんで忘れた頃にくるんだろうか。

しかし今はその涙を向けれる人がいて受け止めてくれる人が目の前にいる。そして触れることができる。

俺はそんなことにも幸せを感じてしまうんだ。

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