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「……はぁ…」

彩はひとり貧民窟でため息をついた。その理由はもちろん徹のことだ。

徹が依頼にこない。
好きだキスだの友人としての境界を越えてしまった。気恥ずかしいが、ここに来ないのはおかしいことじゃないか。あれは愛情表現だろう、ということは会いたいものではないのか。だから徹は来る、と頭の隅でそう認識していたのに徹は来なかったのだ。

それに、イライラしてしまう自分がいる。来てくれてここに居てくれているはずの人がいない、腑に落ちないからだ。

ますますわからなくなる。

心のなかで悪態をつきながら、スコップを地面に勢いよく突き刺す。これでぜひイライラを解消させたい。
ただ地面を掘るだけの作業をボーッとしながらこなしていく。

そうしているうちに、ふと思う。なんでイライラしているのか、と。

徹が来ないからだ。徹が、好きだと言ったからだ。イライラしているのは、つまり、隣に徹が、いないからだ。

「あ……」

フッと急にある気持ちが浮き上がった。今生さんが死んだとき、その気持ちを忘れたくて、できることならもう向き合いたくなかったあの気持ちだ。案外あっさり口にしてしまう。

「……寂しい…のか…?」

そうだ、寂しいのだ。
あんなことをされ、彩はそのことをずっと考えているのに、しでかした本人は側にいない。居てくれているはずの人がいない。構ってもらえない子供のようにただ寂しいのだ。

強がってイライラしてみるが、いろいろ考えているとそれがとても無駄なことだと気づく。

徹は彩にとって特別だ。他人に聞かれたらすぐさまそう答えてしまうだろう。いま、直感でそうおもってしまうのだから仕方がない。それに徹が隣にいたらもっといてほしいと感じる。あのとき告白をされキスされたのを嫌と思わなかった。

だからここは正直になるのが一番いいのかもしれない。



そう気づいた途端、力無く地面へ体が崩れ落ちていってしまった。

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あきゅろす。
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