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そのころ宵千は彩を探して【ill will】街をさ迷っていた。

「ッくそ!彩が居ねぇ――?」

悪態をつきながら走っていたが、過ぎていく景色の端に彩に似た姿を見つけたので体に急ブレーキをかけた。

彩にしては早い走りに一瞬違うかと疑うが、あの横顔は確かに彩だと急いで近づく。近くによって気がついたが、彩は泣いていた。

「あっ彩……?」

彩を止めるためにとっさに掴んだ彩の腕。見てるだけでも分かる震える彩の体は、掴むことで更に強調され戸惑ってしまう。

「彩?ど、どうしたんだよ…っ?」

彩の目から涙が止めどなく流れてパチパチと瞬きを繰り返している。涙を拭おうとする彩の腕より先に拭ってやる。

「ふっ……くっ、っ」

「なんで、なんで泣いてんだよ?あいつか?あのクソのせいなのか?」

「っ!…ちが、っ」

彩は俺が言う奴が徹だと直ぐにわかり、必死な感じで否定する。だがその仕草は彩の涙の原因が徹だと言っているようなもので。苛立ち始めた。

「……なんでだ…」

「…っ…?、っ」

「なんでなんで、なんでだよっ!?」

「っ………」

俺の大きな声で彩は驚いたのか、体を縮こまらせている。彩に対して、こんなに怒りが隠った醜い声を向けたことなんて滅多に無いから怖がらせて当たり前だな。

「……彩が…嬉しそうに笑いかけるのもアイツ。彩をこうやって泣かすのもアイツで庇ってもらえんのも……彩が意識してんのもアイツだ………」

彩の涙がみるみる退いていく。目を大きく開いて俺を見つめる。

「…なんでだよ……」

お互い目が離せない。周りのことが全く気にならない。今ここにふたりだけでいるみたいだ。こんな感じなのはたぶん彩も同じだろ。しばらく続いた沈黙を彩が切った。

「………わからない」

貯まった涙が、既に頬に作られている涙の痕を辿り落ちていく。彩は考えるより先に言葉を俺に伝えて言っているみたいだ。彩は続ける。

「…徹に、好きって言われた……キスもされた」

「………は?」

頭ん中が真っ白になった。息するのも忘れそうだ。彩が言ったことをじわじわと理解させられ、驚異的な破壊力で俺を壊していく。

「びっくりして徹ん家逃げたら、そしたら、涙が出た……嫌だったからじゃない、怖いとか気持ち悪いとか、そんなんじゃない、全然違うんだ」

俺は嫌だった。それ以上聞かされるのことが。聞きたくない。聞かないで、これを、彩が泣いてる理由をうやむやにしたい。知りたくない。

「わ、かんない、けど……この感じ……嬉しい……?」

手に力が入らなくなったのか、俺の手はブラリと下にだらしなく下がった。彩は、一歩後ろへ下がった。

「嬉しくて、涙が出たんだ」



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